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unBORDE・鈴木竜馬氏が語る、音楽シーンへのメッセージ「新しいマーケットの作り方はある」

2016年03月19日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

unBORDE・鈴木竜馬氏(撮影=下屋敷和文)

 レーベル創立5周年を迎えたunBORDEが、活発な動きを見せている。去る3月9日には所属12アーティストによるunBORDE all starsが新曲「Feel」を発表。4月10日には幕張メッセでレーベル設立5周年記念イベント『Coca-Cola presents unBORDE 5th Anniversary Fes 2016』を開催する予定だ。神聖かまってちゃんを筆頭に、個性的なアーティストが所属する同レーベルの新展開は、音楽業界内外にインパクトを与えるはずだ。


 リアルサウンドでは一昨年、unBORDEのレーベルヘッド・鈴木竜馬氏へのインタビュー記事(「まずはクラスの端っこの子たちに届けたい」)を掲載し、各アーティストのマイノリティ的感性を重視する鈴木氏のレーベル運営方針は大きな反響を呼んだ。それから約1年半を経た今、所属アーティストの個性に磨きをかけつつ、よりメジャー的で華やかな施策を次々と打ち出す鈴木氏の真意はどこにあるのか。音楽業界の現況分析も含め、じっくりと話を聞いた。


・音楽業界に対してポジティブな行動をしたい


ーー前回のインタビューでは、「エッジの立ったものを一つひとつ成功させていく」「ミリオンセールスを10万枚×10アーティストで考える」など、unBORDEのレーベル運営方針を伺いました。そして今回、レーベル設立5周年の記念企画として、unBORDE all starsによる「Feel」を収録したオムニバスアルバム『Feel + unBORDE GREATEST HITS』がリリースされます。コカ・コーラのタイアップがあり、幕張メッセでフェスもあるというプロジェクトがこれだけ大きな形で実現することで、unBORDEはまた新しいステージに進んだのではないでしょうか。


鈴木竜馬(以下、鈴木):まず、前回のインタビューで「クラス全員が聴いてくれる音楽ではなくて、教室の隅に固まっているデコボコした人たちに対してアクションを起こす」と申し上げたけれど、そのアイデンティティは5年経っても変わっていません。よくも悪くも、unBORDEに東京ドーム公演ができるアーティストはいないーーただ逆に言うと、ほとんどのアーティストが武道館など、アリーナ公演ができるところまでは来ている。5周年でそういうアーティストが揃い踏みできるような段階になったときに、すごく思ったことがあって。それは、興行やマーチャンダイジングはともかく、レコーデッドビジネスにネガティブな要素が多く、音楽業界が「しんどい」という話ばかりしている状況で、もっとポジティブな行動を起こせるんじゃないか、ということです。不良なのに、生徒会長になっちゃうヤツっているじゃないですか(笑)。そういうノリに近い感じで、「俺らがやるよ」と。


 そんなことを考えているなか、A&Rの担当者も参加した去年のミーティングで、「5周年記念で、オールスターをやるのがいいんじゃないか」という話が出てきて。要するに「We Are The World」みたいなものがやりたいと。平行して、アリーナクラスを揃えてZeppでパーティーするのもプレミアム感があっていいけれど、せっかく5周年なんだから、幕張メッセで派手にやろうぜ、ということになったんですよ。


ーーコカ・コーラとのタイアップは、あとから決まったんですね。


鈴木:そう。オールスターも幕張メッセも含めて、こんなご時世でも音楽が好きで、うちのレーベルを愛して音源を買ってくれたり、聴いてくれたりする人に対して、どう還元するか。そう考えたときに、「Feel」については所属アーティストの代表曲を入れたコンピレーションにして、14曲入り1000円という価格破壊のような感じでリリースしようと。一方で、フェスをファン感謝デーにするなら、やっぱりタダが1番じゃないですか。そこで、コカ・コーラさんとお話をしたら、「春から新しいキャンペーンがあるので、一緒にやりましょう」と言ってもらえて。巨大なナショナルクライアントが、サザンもミスチルもいないわれわれのフェスに協賛してくれると。


ーー先ほど仰ったように、これは音楽業界へのメッセージでもあると?


鈴木:やっぱり、業界に対して「楽しいことやろうぜ」「自分たちでdoするんだ」というポジティブなメッセージを発信したかった。そして、日頃から僕らの音楽を楽しんでくれている人たちに感謝を表したかった、というのが今回の企画のとっかかりですね。


ーー「Feel」について、これだけ個性的なアーティストを揃えて1曲作るというのは大変なプロセスだったのでは。


鈴木:楽しいことになってましたよ(笑)。昨年11月くらいにやろうと決めたんですが、みんな“クラスの端っこ”過ぎて、アーティスト全員に強いアイデンティティがあるから、「オレがオレが」になるんじゃないかと。それもアリだけれど、全員が「この人が作るんなら」と納得してほしいと思った。そこで、まずはベテランのRIP SLYMEだろうということで、PESと飯を食いながら話したら、二つ返事でOKがもらえて。ただ、RIP SLYMEがツアー中であったということと、作曲がFUMIYAだと単純にRIP SLYMEの曲になっちゃうから、時代の申し子的な意味も含めて、トラックは中田(ヤスタカ)にお願いしようと。中田くんに至っては、酒を飲みながら少し話をして、そのあとで正式に相談しに行ったときには、「A・B・A・Bで進んで、フックがあって、最後は少し掛け合いができたらいいですよね」なんて、もうほとんど曲のイメージができていた(笑)。それから2~3週間でトラックが上がってきたんです。ただ、PESはツアーとプロモーションでまったく隙間がない。ちゃんと話ができたのはクリスマスが明けたくらいで、年明けには武道館公演も控えているなかで、2~3日で歌詞を上げてくれました。そこから少し修正を入れて、形になったのは本当に年の瀬だった。30日にPESが仮歌をいれて、大晦日にそれを各アーティストに配って、アーティストの皆には申し訳なかったけど、「正月休み返上で、三が日で覚えてくれ」と(笑)。それで、1月4日からトータル3日間でレコーディングしたんです。


ーー「We Are The World」的なお祭り感もありつつ、中田ヤスタカさんらしい音のエッジも感じられる曲ですね。


鈴木:時代に合った、元気になれる曲ができたなと。MVも作ろうぜ、となったときに、レコーディング以外に12アーティストを集めて何かをするのはどうにも難しかったから、スタジオにバッカンバッカン照明を入れて撮影しました。ただ、リスペクトはしていても「We Are The World」をそのままやっても仕方がないし、スタジオの映像をつなぐだけでなく、時代感のあるものにしたかった。レコーディング風景も活かしながら、丹修一監督が非常に丁寧に仕上げてくれて、もちろん現場を仕切ってくれたA&Rが居てのことですが、手前味噌だけれどいいビデオもできたと思います。


ーーPESさんと中田ヤスタカさんの打ち合わせ風景というレア映像から始まり、冒頭から「何かが始まるぞ」という感覚が伝わります。レーベルとしても、次の成長段階へと入っていくところなのではないでしょうか。


鈴木:この5年間で「エッジが立っていてバズればいいな」というところから、アリーナでライブができるくらいのところまで評価されるようになって。そういうアーティストが集まることで、別のうねりを作ることができればいいし、もっと言うと「それを作る責任を負いたい」という思いがあったんですよ。「音楽業界にとってきびしい時代で……」なんてネガティブなことを言うより、「端っこの連中でも、集まればこんなことができるんだぜ」ということを伝えなければという、大義に近い思いがあった。「ただ端っこでヘラヘラしてたわけじゃねえぞ」と。そういう意味では、コカ・コーラさんという表の大企業が僕らの活動を理解してくれて、すごく感謝しています。自分たちの進んでいる道が間違っていなかったことが確認できて、背中を押してくれる安心材料になったから。冒頭に「生徒会長」と言いましたけど、アーティストやマネジメントにも、そのあたりの自負は持ってもらうように話しています。


ーーアウトサイダー的な魅力を持ったアーティスト、レーベルが求心力のあることをやっているのが面白いですね。


鈴木:メインストリームにもそういう意気込みを持った人たちはいて、 例えば、僕がavexという会社が素晴らしいと思うのは、みんなあまりネガティブなことを言わないんですよ。若い人もプロモーターのときから気合いが入っていて、「売るんだ」「届けるんだ」という勢いでやっていて、ガチ感がある。だからこそ、ひとつのムーブメントを起こしているんだと思う。松浦勝人さんという強烈なリーダーがいてのことだと思うけれど、あの大きな会社で上から下まで行き届いているのがスゴいですね。体育会系でチャラそうだ、みたいなイメージもあるかもしれないけれど、やることをやっているんだから、実際にチャラかったとしても別にいいでしょう(笑)。ただ、音楽業界を見渡してみると、もっとゆるい感じで傷を舐め合ったりとか、ネガティブなことを言い合ったりしながら、運試しのようにヒットが出るのを待っている感じもある。今回の企画が、そんな業界のムードへの問題提起、ポジティブなベンチマークになればいいなと。


 一方で、5年間やってきたなかで、正直なところunBORDEの名前は業界内にしか浸透していなくて、ユーザーにはまだまだ行き届いていない。だからこそ、今回の企画で一般リスナーに「unBORDEってこんなに面白いレーベルなんだ」ということをあらためて伝えたいとも思いました。ヒットを積み重ねてきたなかで説得力も変わっていると思うし、ここでリローンチするというか。


ーーユーザーとのコミュニケーションのあり方も、次の段階に入って行くと。


鈴木:そうそう。僕はもともと山下達郎さん、竹内まりやさんの丁稚みたいなところから始まっていて、今でも必ず達郎さんのライブを観に行くんですよ。よく周りにも「疲れたら達郎さんのライブを観に行け」と言っているんだけど、3時間半でどれだけパワーがもらえるか。音楽の素晴らしさ、ご一緒させてもらっていることの幸せに加えて、もっと広いところで言うと、「音楽業界にいてよかったな」と思えて、ネガティブなマインドなんて吹っ飛んでしまう。そういうことを、アリーナクラスのアーティストたちとどういうふうに発信していくか。そして、音楽業界、音楽が好きな人たちにどう貢献していくか、という熱い思いもありますね。


・新しいマーケットの作り方はある


ーー前回の記事を発表した直後、鈴木さんはワーナーミュージック・ジャパンの執行役員に就任されています。会社における立場が変わったことで、仕事に対する姿勢が変わった面もあったのでしょうか。


鈴木:ああ、いま言ったようなこともそうなのかもしれないですね。それと、世界ではワーナーといえば3大メジャーだけど、日本では200人くらいの小さな会社で、巨大なメーカーと比べたら舵が取りやすいと思っていて。いわば豪華客船じゃなくてクルーザーだから、その機動力は絶対に活かしたほうがいい、ということも考えるようになりました。


 人口が1億2000万~3000万人というなかで、100万枚売れて「大ヒット」と言われるような音楽産業って、そもそもニッチなんですよ。業界全体で2000億~3000億円くらいの規模。フェスでご一緒させて頂くZOZOTOWNさんなんて、一社で流通高が1000億円規模ですよ。それと比較すると本当に吹けば飛ぶような音楽産業のなかで、僕らみたいなクルーザーなら、50万ヒットが年間に何本かあれば足りる。そして、ネガティブな条件が多いと言っても、新しいマーケットの作り方はあるんです。


ーー具体的には、どのようなケースを念頭においていますか。


鈴木:例えば、去年はDREAMS COME TRUE、松任谷由実さんというエスタブリッシュされたアーティストのベスト盤が100万枚に届いたし、次世代で言えば、一昨年だけれどSEKAI NO OWARIが70~80万枚のフィジカルマーケットを作っている。そこで若い子がCDラジカセを買ってもらって、その影響で某バンドが想定外に売れたんじゃないか、なんてまことしやかに言われたりもしていて(笑)。2015年末から2016年アタマにかけては、星野源くんやback numberがヒットして、業界全体にも跳ね返していけるようなマーケットを作ってくれた。リアルサウンドさんだからあえて言うけど、ゲスの極み乙女。の今回のアルバムは、そのチャンスを“まあまあ”の結果で終わらせてしまった、というところがありました。世間の見方としては、前作より売れているし「スキャンダルがいいプロモーションになった」と言う人が多いかもしれない。でも、僕らがターゲットしていた枚数からはほど遠かったんです。もっと届くと思っていたし、結果として一連のスキャンダルはアゲインストだった。アーティストも、レーベルも、プロダクションも、責任として重く受け止めなければいけないと思うし、とは言えエンターテインメントで返すしかないから、いろいろ考えていますよ。


ーー音楽作品を出すことで、リスナーに応答する、と?


鈴木:そうですね。まだまったくのアイデア段階ですけど、世の中に返す刃はエンターテインメントしてなければいけない。そういうふうに音楽で返していければと。才能と意欲は、相変わらず溢れていますから。


 また、彼らに限らず、新しいマーケットの作り方、可能性はあると思っているから、まずは会社の責任者の一人というポジションで、チャンスを狙っていきたいですね。繰り返し申し上げているように、20~50万枚くらいの範疇であれば、やれることはある。実際にSuperflyはそれくらい売るし、クルーザーとして機動力を増すための要素はたくさんあるので。


ーーフィジカルのマーケットにもまだ可能性はあるということですね。一方、前回のインタビューでは「フェスやイベントとの付き合い方も考えていきたい」とおっしゃっていましたが、伸長するコンサート市場へはどんな向き合い方をしていきますか。


鈴木:例えばメディアが主催するフェスだと、ギャランティの話はプロダクションサイドに行って、プロモーションは普段からコンタクトパーソンとしてやっているのにレーベルが……という、泣き寝入り感があります。レーベルはレーベルのアイデンティティとして、フェスでの地位を高めていきたいと考えているので、そこは理解してほしいなと。もちろん、メディアにはお世話になっているし、僕らの音源を広げてくれている方々なんだけど、もっと共存共栄の関係にしたい、ということは言い続けないといけない。若手がフェスに行くと、ケータリングでごまかされちゃうんですよね(笑)。バックステージでみんなで飲んでいると、「まあいいか」と思ってしまう。


 でも、みんなもっと戦ってほしいんですよ。特にロックフィールドにアーティストを送り込んでいるレーベルの人たちは、夜に酒を飲んでグチっているだけじゃなくて、昼間にテーブルを囲んでもっと話し合うべきなんじゃないかと。われわれの先輩方がやっている日本レコード協会は、レンタルとの取り組みなど、違う次元のシステム作りをしてくれているけれど、フェスに関しては次の世代でやらないと。“レコ協・アネックス”みたいなね。上の人におんぶに抱っこで、文句ばかり言っても仕方がないから、本当にやろうかな。


ーー変化の兆しはありますか。


鈴木:例えばMETROCKなどは、主催のテレビ朝日がレーベルを立ててくれているということもあるかもしれないけれど、ストレスなくやれていて。誤解を恐れずに言うと、例えば『ミュージックステーション』は出ることによって跳ねるパワーを持っているメディアだったりするから、お邪魔することに意義がある。(『ミュージックステーション』のチーフプロデューサーで、METROCKを立ち上げた)山本たかおさんという人がスゴいのは、新人のときからライブを観に来るんですよ。ライブに足繁く通った上で口説かれるから、こっちも気持ちがいい。レーベルとして尊重されて、コンタクトパーソンとして成立しているから健全ですよね。そうなると、最終的なギャランティの話がプロダクションサイドと進んでも、大きな枠として一緒に動けている感がある。少し前の世代だと、多くのアーティストを出演させているのに、母体のメディアが「せっかくたくさん出るから、特集として出稿しませんか」なんて言ってくることもあって、それは違うだろと。せめて、「特集を組みます!!」と言って欲しかったりしたこともあります。


ーー音楽ストリーミングをはじめ、ポスト・フィジカルの市場にはどう向き合いますか。


鈴木:YouTube理論は変わらず、アーティストのプロモーションとしては素晴らしいなと思っています。アメリカはシングルカルチャーになっているからまた違うけれど、日本はまだアルバムに存在意義がある。シングルのヒット曲がYouTubeで気軽に観られれば、そのアーティストを気に入って、新旧問わずアルバムを買ってくれるかもしれない。


 ダウンロードやサブスクリプションについては、相変わらず大きな見解はないけれど、サブスクはやっていこうかな、と考えています。フィジカルにおいてはマックス100万枚のニッチな業界でも、スマホの契約台数は1億4000万台。稼働しているのが6000万~7000万台だとしても、音楽を聴く環境自体はものすごく広がっている。アデルの『Hello』がリリース後1週間あまりで100万DLを超えたようなこともあったわけで、音楽がニッチじゃないところまで広がる可能性はあるでしょう。デバイスから音が聴けるんだということをもっと推進したいし、音楽業界を底上げするという意味では、サブスクリプションサービスも否定すべきものではないなと。


ーーあとは利益分配の問題ですね。


鈴木:そうですね。ダウンロードは売れただけ青天井に利益が出るけど、サブスクは会員費からのシェアだから、メーカーも会員数が増えていくようにこぞってがんばらないと。ビジネスという意味はもちろん、音楽を聴くシチュエーションを広げるという意味では、“スマホさまさま”ですよね。そういう意味ではポジティブだと思う。


・まん丸になってしまったらやっている意味がない


ーーunBORDEの今後についても聞かせてください。この1年で、アカシックやlivetune+、天才バンドなど非常に個性が強いアーティストがさらに増えていますね。


鈴木:天才バンドについては、奇妙(礼太郎)くんは大ベテランで、うちはラブコールを送り続けてメジャーフィールドに出てきてもらっただけなんです。ただ、天才バンドとして出会えたふたり(Sundayカミデ、テシマコージ)もメチャクチャよくて、ラッキーな縁でした。おかげさまで最近は、「unBORDEから出してほしい」と多くのアーティストさんからリクエストを受けるんですけど、「インディーで何万枚売っている」ということより、ゲスやindigo la Endがそうだったように、一緒にやることによってケミストリーを起こして、世の中に届けるお手伝いができる原石であるかどうかがポイントで。邦楽の責任者の立場で言うと、もちろん他のレーベルであればいきなりメガヒットを狙うやり方もあるけれど、あくまでunBORDEと言うレーベルでは一つひとつ一生懸命にやりたいし、あまり多牌はしたくない。ただ、今後一緒にやりたいというアーティストのライブには死ぬほど通い倒してますけどね。うちでやれば、メガを狙わないから、間違った方向にいかないんですよ、と言い切れるかは分からないですけど、高橋優なんかドームはできないけれど、アミューズさんとじっくり地固めをしてきて、今は武道館2本を含めた30本前後のホールツアーが即完です。こうなると、10年が見えてくる。


 ただ、今回のように責任を買って出ることによって、どうしても丸くなってくる部分もある。つまり、不良が生徒会長に立候補した時点で、角が取れちゃうでしょ。それは覚悟の上だけれど、まん丸になってしまったらやっている意味がないから、無責任なことを言えば、10年くらいでやめちゃってもいいかな、という思いもどこかにあって。それはなりゆきでいいかなと。


ーー4月10日にフェスがありますが、今後いくつかのグループが合同でツアーをやったり、という構想はありますか?


鈴木:地方に対して還元ができていないから、次は身体を持っていけるアーティストで、こぞって全国に足を運べたらいいな、とは考えています。ただ、全アーティストがそろって、というのはよほどのタイミングがないと厳しいでしょうね。オリコンに調べてもらうと、マネジメント単位ならともかく、レーベル発信でこの数のアーティストがコラボしてリリースするのは、日本の音楽史上初めてのことらしいんです。それくらい簡単ではないということで、アーティストならびにマネジメントの皆様には本当に頭が下がりますね。これはちゃんと書いておいてください(笑)。


ーー音楽シーンをもっと面白くするために、今後どんなことが必要でしょうか。


鈴木:個人的な嗜好で言えば、歌詞の世界観などで“惚れた腫れた”が多すぎて辟易するところがありますね。本当は、例えばSuchmosみたいなグループがもっと売れてもいいと思う。ファンクやソウルを掛けあわせた音楽性も素晴らしいし、リリックもよくて、惚れた腫れたとは違う日常を切り取っているから。あとは、特にバンドシーンを見ていると、隣ばかり見て、「あのバンドが売れている」「売れていない」とか、つまらない競り合いをするのはやめたほうがいい。もっと自分たちがやっていることをどう届けるか、というところにフォーカスすべきだし、コンペティターとして並べるんだったら、みんなドリカムやサザン、ミスチル、達郎さんを見た方がいいと思うんです。そういう人たちが愛され続けている理由はもっと違うところにあるから、若いアーティストはレジェンダリーな人たちのライブを観るべき。目線を下げず、音楽シーン全体に自分の音を投げていくアーティストが増えてほしいですね。(取材=神谷弘一/構成=橋川良寛)