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プロ野球「声出し」金銭授受――「賭博罪にあたる可能性がある」弁護士が違法性を検証

2016年03月19日 11:52  弁護士ドットコム

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多くのプロ野球選手が、公式戦の勝敗に応じて現金をやり取りしていた問題が拡大している。巨人の事例が報道されて大きな問題になったあと、阪神の四藤慶一郎球団社長が3月15日、阪神でも公式戦で選手間の金銭のやりとりがあったことを明らかにした。他の球団でも判明し、これまでに計7球団で「声出し」をめぐる金銭のやりとりが行われていたことがわかった。


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最初に問題になったのは、巨人の選手間で行われていたとされる「声出し」と呼ばれる現金のやり取りだ。試合前に組む円陣で声出しを担当する選手に対し、その試合が勝利の場合は1人5000円を渡す。一方で、試合に負けた場合は、声出しを行った選手が他の参加選手に現金を支払う。1軍選手の大半が参加していたといい、1回当たり10万円以上の現金が動いていた。2012年5月ごろから行われていたという。



巨人・森田清司総務本部長は「ゲン担ぎの色合いもあり、賭け事とは全く異質」と説明している。また、ある球団のOBは、試合に勝った場合の「ご祝儀」との性質があったと説明している。こうした「声出し」と呼ばれる行為について、賭博と判断される可能性はあるのだろうか、刑事事件に詳しい神尾尊礼弁護士に聞いた。



●「賭博罪」にあたる可能性がある


「賭博罪と判断される可能性はあります。



『賭博』(刑法185条本文)とは、偶然の事柄に財産を賭け、その結果、お金などを得たり失ったりする行為です。



今回の『声出し』は、仮に報道のとおりのルールであるとすれば、試合の勝敗という偶然性のある事柄に対し、勝つと担当者に払う、負けると担当者からもらえるというのですから、賭博の定義にあてはまります」



ゲン担ぎ、ご祝儀という性質があるという説明については、どう考えるだろうか。



「ゲン担ぎという説明は苦しいと思います。たとえるならば、神様に対して『ゲン担ぎでお賽銭を払います、うまくいかなかったら利子付けて返してね』と言っているようなものだと感じます。試合に負けた場合にお金がもらえるというのは、ゲン担ぎと呼べないように思います。



また、ご祝儀という説明も苦しいと思います。祝うべき相手に対して、『うまくいかなかったらご祝儀を利子付けて返してね』と言ったら、それはもはや、ご祝儀とはいえないと思います。



もっとも、たとえば『仕事がうまくいったら缶コーヒーをおごる』というようなものであれば、日常で行われる娯楽だとみることができます。このように、わずかな価値のものを賭けた場合には、賭博罪は成立しません(刑法185条但書)」



●「ゲン担ぎ」「習慣」といった言葉に逃げず解明を


金額の大小が問題なのだろうか。



「金銭を賭けた場合には、その金額を問わず賭博罪が成立するとする古い判例がありますが、日常の娯楽に含まれるといえるほど金額が小さければ、賭博罪が成立しないと考えることができるでしょう。



ただ、5000円は少額とはいえないと思います。何億も稼ぐ野球選手の感覚は分かりませんが、一般的にみて5000円が缶コーヒーと同レベルに考えられるとは思いません。



以上からすると、賭博罪に当たり得るということを正面から捉えた上で、対処すべきように思います。そもそも、犯罪に該当するかどうかは球団等が判断するものではありません。捜査機関を含め第三者の調査や判断に委ねるべきです。



私もプロ野球の一ファンとして、選手が罪に問われることを望んでいるわけではありません。最終的には罪に問われないと思いますが、安易に『ゲン担ぎ』『習慣』といった言葉に逃げないでほしいと思います。妥協せずに解明していただき、違法行為に当たり得るという周知徹底をして、再犯防止に取り組んでいただければと思っています」



神尾弁護士はこのように述べていた。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
神尾 尊礼(かみお・たかひろ)弁護士
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。刑事事件から家事事件、一般民事事件や企業法務まで幅広く担当し、「何かあったら何でもとりあえず相談できる」事務所を目指している。
事務所名:彩の街法律事務所
事務所URL:http://www.sainomachi-lo.com