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ピクサー神話に異変!? 『アーロと少年』、2週目『ドラえもん』にダブルスコアで敗れる

2016年03月18日 18:52  リアルサウンド

リアルサウンド

リアルサウンド映画部

 トップ10中、初登場作品が5本と、春休み興行が本格的に幕を開けた先週末。昨年12月18日に公開されて以来、12週にわたって上位にランクインし続けていた『スター・ウォーズ フォースの覚醒』も新作に押し出されて遂にランク外に。そんな中、完全な独走状態で2週連続1位を記録したのは『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』。週末2日間の動員は41万5173人、興収は4億8542万3800円。累計で早くも100万人を突破した。


参考:米アカデミー賞は本当に日本の映画興行に影響をもたらさなくなったのか?


 初登場作品の中での最高位は、2位のディズニー/ピクサー作品『アーロと少年』。しかし、オープニング2日間の動員19万1696人、興収2億3705万0500円という数字は、昨年7月に公開された同じくディズニー/ピクサー作品『インサイド・ヘッド』と比べて58.4%という低調な数字。公開2週目の『ドラえもん』に対しても、公開館数がほぼ互角(『ドラえもん』が363館、『アーロと少年』が357館)にもかかわらず、動員でも興収でもダブルスコア以上の差をつけられるという結果となった。


 ピクサー・アニメーション・スタジオがディズニーに買収されて、ディズニーの完全子会社となったのは2006年のこと。日本ではもはやディズニーとごっちゃになっている観客も少なくないかもしれないが、その後もウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ作品との差別化は一貫してはかられていて、たとえば今回の『アーロと少年』の日本版宣伝ポスターにおいても、そこには「モンスターズ・インク、トイ・ストーリーのディズニー/ピクサー最新作」と明記されている。「アナ雪、ベイマックスのディズニー最新作」では決してないのだ。


 ちょっと気がかりなのはその製作ペースの変化だ。ディズニーに買収されて以来、2013年の『モンスターズ・ユニバーシティ』までは1年1作、本国公開時期も書き入れ時のサマーシーズンというルーティーンが律儀に守られていたが、今回の『アーロと少年』の公開は前作『インサイド・ヘッド』からわずか5ヶ月後(日本公開時期では9ヶ月後)。しかも、今年のサマーシーズンには『ファインディング・ドリー』の公開もすぐに迫っている。実は『アーロと少年』は本来2014年のサマーシーズンに公開が予定されていた作品だったが、製作途中で監督を変更し、ゼロから作り直したことで18ヶ月も遅れてしまったのだ(公開予定、公開日はいずれも本国の日程)。今回の「1年に2本公開」はその単なるしわ寄せなのかと思いきや、2017年にも2本の公開を予定しているので、今後は1年2本ペースも特別なことではなくなるはずだ。現在のピクサーは、その社風である完全主義と、ディズニー傘下であることによる製作ノルマのダブルバインド状態にあるのかもしれない。


 実際、『アーロと少年』の仕上がりも、その悪影響が出ているのではないかと邪推せずにはいられないのだ。聞くところによると、あのピクサー特有のたっぷりと時間とお金と才能を投下した10数人による脚本の分業体制が、近年少しずつ効率化されてきているという。映像のアイデアとその精度においては相変わらず圧倒的なピクサー・クオリティの『アーロと少年』だが、ゼロから作り直したというにもかかわらず(もしかしたらそれが逆効果となって)脚本の完成度という点ではピクサー作品らしからぬ綻びを個人的には感じてしまった。結果的に、『アーロと少年』の現段階における世界興収は、1995年に『トイ・ストーリー』で始まったピクサー長編作品20年の歴史上最低の記録となっている。


 また、『ファインディング・ニモ』の続編『ファインディング・ドリー』、『Cars 3』(原題)、『Coco』(原題)、『Toy Story 4』(原題)、『The Incredibles 2』(原題)と、今後公開が予定されているピクサー作品の5作品中4作品までもが、人気シリーズの続編であるというのも気になるところ。映画というジャンルにとどまらず、アメリカのクリエイティヴィティの頂点として語られることも多かったピクサーに、現在、一体どのような変化が起こっているのか? ゼロ年代前半の低迷期から完全に脱したウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ作品とのパワーバランスも踏まえつつ、今後の趨勢に注目していきたい。(リアルサウンド編集部)