トップへ

期待のニューカマー・栞菜智世の“未知なる力” agehaspringsのプロデュースでどう花開く?

2016年03月18日 18:01  リアルサウンド

リアルサウンド

栞菜智世

 心地よい開放感と切ない情感を併せ持ったボーカル、そして、凛とした意志の強さを感じさせる佇まい。J-POPの新しい可能性を感じさせてくれる、大きなポテンシャルを備えたニューカマーである。栞菜智世(かんな・ちせ)。シングル『Hear~信じあえた証~』でメジャーデビューを飾った、1994年生まれのシンガーだ。


映像はこちら


 まずはデビュー曲「Hear~信じあえた証~」について。作詞に濱名琴(安田レイなど)、作曲に野間康介(YUKI、LiSAなど)、編曲に百田留衣(YUKI、flumpoolなど)を起用、映画『僕だけがいない街』の主題歌としても話題を集めているこの曲は、ドラマティックなメロディラインと<幾千もの偶然から 手繰り寄せた 奇跡の夜は/戻らない時を 照らし続ける>という希望に満ちた歌詞がひとつになったミディアムバラード。メインの旋律を支えるピアノを中心としたシンプルなバンドサウンド、楽曲の世界観に彩りを与えるクラシカルなストリングスを含めて、きわめてオーソドックスな音作りがまず印象に残る。ここから伝わってくるのは、ギミックや表面的なインパクトに頼らず、J-POPの王道を進むという明確な方向性だ。サウンドプロデュースはagehaspringsの玉井健二。YUKI、中島美嘉、JUJUなどを手がけてきた玉井のプロデュースワークは、このプロジェクトでもきわめて的確に機能している。その中心にあるのはもちろん、彼女自身の歌声。巻き舌のロックシンガー系でもフェイクを多用するR&Bディーバ系でもなく、ただ真っ直ぐに自分の声を響かせる彼女のボーカルスタイルは、ジャンルや年齢層を超え、幅広い層のリスナーにアピールするはず。技術を見せつけようとせず、ひとつひとつのフレーズを丁寧に届けようとするボーカリゼーションも、オーセンティックな日本語のポップスによく似合っている。自分の感情を押し付けず、ギリギリのところで抑制を効かせた表現方法も魅力的だ。


 ビジュアルプロデュースを担当しているのは、Perfume、サカナクションの作品などを手がける関和亮。こちらを見つめる視線の強さとどこかミステリアスな佇まいを活かしたアーティスト写真、都会を背景にして歌う姿をシンプルに見せるミュージックビデオは、アーティストのイメージを固定することなく、栞菜智世という素材の良さを上手くプレゼンテーションしていると思う。



 カップリング曲の「Little Sunshine」は心地よいバンドグルーブを軸にしたポップチューン。<憧れのままで 終われない私/振り向かず 進んでゆく>というフレーズも彼女のキャラクターにしっかりと重なっている。グループアイドルの流行が続く現在の日本のシーンにおいて、可愛さや拙さを売りにせず、“強く、美しい女性シンガー”というスタンスを打ち出せる彼女の存在はきわめて貴重。優れたビジュアルと歌唱力、そして、未知なるポテンシャルを持った栞菜智世のデビューは、女性ソロシンガー復権の大きなきっかけになりそうだ。(森朋之)