2016年03月18日 11:22 弁護士ドットコム
印鑑や指での印の代わりに、戦国武将らのサインとして使われていた手書きの「花押(かおう)」を記した遺言書が有効かどうかを争う訴訟が行われている。最高裁第2小法廷はこの訴訟について、当事者双方の意見を聴く弁論を4月22日に開くことを決めた。遺言書を有効とした1、2審判決が見直される可能性があるという。
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報道によると、遺言書は2003年に85歳で死亡した沖縄県の男性の名義で、不動産を次男に相続させるとの内容だという。遺言書が有効になるためには、署名と押印が必要だが、署名と花押が記されただけだった。無効だと主張する長男と三男に対して、次男は有効性の確認を求めて提訴していた。
この報道に対して、ネット上では「本人のサインならいいんじゃない?」などの意見が見られた。今回の訴訟をどう見るべきか、相続問題に詳しい高島秀行弁護士に聞いた。
「最高裁が弁論を開くときは、高裁判決の結論がひっくり返される場合が多いです。遺言を有効とする結論を覆し、無効とする可能性が高いと言えます。仮にそうなると、花押は、印鑑ではなく、署名の一種であることから、『署名の下に署名を書いても無効だ』と判断されるということかもしれません」
高島弁護士は、訴訟の行方についてこのように指摘する。
「ただ、遺言書は亡くなった人の最後の意思であり、なるべく有効と考えるべきだというのがこれまでの判例の考え方です。個人的には、このケースでは、印鑑でなく花押が書かれていることを理由に遺言を無効とすべきではないと考えます。
もっとも、花押が印として有効とすると、例えば、高島秀行という署名の下に高島と書いて丸で囲んだ場合は、印として有効かという問題が生じてしまいます。この点について最高裁は、印は、朱肉(インク)をつけて押す行為であり、署名の他にサインや記号を書くことは印を押すこととイコールではないとして、区別すべきと考えるのかもしれません」
そもそもなぜ、遺言書にはサインだけではなく「印」が必要なのだろうか?
「日本においては、重要な文書には、署名だけではなく、署名した上で印鑑を押すという慣習があります。その慣習に基づいて、民法968条では、自筆証書遺言(全て自分で書いた遺言書)を作成する際には、署名だけではなく、捺印が必要だとされています。
遺言書は誰でも簡単に作成できるため、偽造などのリスクもはらみます。そこで、遺言をしたい本人が作成したということを担保するために、捺印が必要になっているのです。
また、拇印は、日本の慣習上、印鑑を押すことと同じ行為と捉えられていることから、遺言の作成においても印鑑を押すことと同じに取り扱って問題ないという最高裁判決があります。
いずれにせよ、自筆証書遺言は、法律の要件を満たしているかどうかが争いになることが多いです。作成する際は弁護士に相談するか、公正証書遺言を作成することをお勧めします」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
高島 秀行(たかしま・ひでゆき)弁護士
「相続遺産分割する前に読む本」「訴えられたらどうする」「企業のための民暴撃退マニュアル」(以上、税務経理協会)等の著作があり、「ビジネス弁護士2011」(日経BP社)にも掲載された。ブログ「資産を守り残す法律」を連載中。
事務所名:高島総合法律事務所
事務所URL:http://www.takashimalaw.com