2016年03月18日 11:12 弁護士ドットコム
ヒゲを生やしていることを理由に人事評価を下げられたのは、「人格権」を保障した憲法に違反するとして、大阪市営地下鉄の男性運転士2人が3月上旬、市を相手取って、評価の是正と1人約200万円の慰謝料を求める訴訟を大阪地裁に起こした。
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大阪市交通局によると、この運転士2人が所属する部署では、2012年に「お客様により好感を持ってもらうため」として、身だしなみに関する基準を定め、その中の一つに「髭(ヒゲ)は伸ばさず綺麗に剃ること。(整えられた髭も不可)」という条項を設けた。
報道によると、運転士2人は、上司からヒゲを剃るよう注意されたうえで、低い人事評価を受けたとして、「ヒゲは個人の自由であり、基準に従わないことを理由に人事評価を下げるのは違憲だ」と主張しているという。
大阪市交通局は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して「基準は絶対に守らないといけないという性質ではない」「ヒゲを生やしたことが人事評価に影響したわけではなく、あくまで総合的に判断した」と反論した。
そもそも、職場で「ヒゲ禁止」とするルールを設けることは法的に問題あるのだろうか。猪野亨弁護士に聞いた。
「髪型については、人格権に基づく保障(憲法13条)があると考えるのが一般的です。なので、私は、ヒゲについても、人格権による保障を受けるものと考えます」
猪野弁護士はこのように述べる。どのような理由があるのだろうか。
「ヒゲも、髪型と同じように、本来的に個人の領域であり、他人から干渉されることではありません。ヒゲを剃るか剃らないか、どのようなヒゲの形にするのかも含めて、人格権に基づくものといってよいと思います」
ヒゲ禁止が服務規程などのルールで定められた場合は、どうだろうか。
「そのようなルールは、職場の規律保持や円滑な運営のために、必要な限度でのみ制約することが許されると思います。
大阪市営地下鉄のような公営企業であれば、営業の自由がある民間企業以上に、制約の合理性が問われるといえます。
仮に、ヒゲに関する規定を守らなければ、勤務評価が下がるというのであれば、事実上の強制です。大阪市交通局もその自覚があるからこそ、『基準は絶対に守らなければならない性質のものではない』などと弁解しているのだと思います」
過去の同じように「ヒゲ禁止ルール」が問題になったことはあるのだろうか。
「ハイヤー運転手の場合、不快感を伴う『無精ヒゲ』や『異様・奇異なヒゲ』に限って、その規制に合理性があるという基準が立てられたことがあります(昭和55年12月15日・東京地裁)。今回の規制は、明確にその基準を超えていると思います。
しかも、地下鉄の運転士は、ハイヤー運転手以上に接客から遠い立場にあります」
一般的に、ヒゲについて不快感を覚えたり、嫌う利用者も一定数いそうだ・・・。
「たしかに、ヒゲがないほうが接客として無難でしょう。しかし、これも考えようで、職場も利用者も、もっと寛容であるべきだと思います。
雇用主が一方的に職員にヒゲを剃ることを強要した場合、人権上も問題ですし、社会のあり方としても息苦しくなるだけです」
猪野弁護士はこのように話していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
猪野 亨(いの・とおる)弁護士
今時の司法「改革」、弁護士人口激増、法科大学院制度、裁判員制度のすべてに反対する活動をしている。日々、ブログで政治的な意見を発信している。
事務所名:いの法律事務所
事務所URL:http://inotoru.blog.fc2.com/