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SHE'S、可能性に満ちたスーパーノヴァの登場 メジャー発表ライブでシーンの潮目の変化を見た

2016年03月17日 16:01  リアルサウンド

リアルサウンド

SHE'S(撮影=西槇太一)

 高速BPMと4つ打ちビート、そして性急に多くの要素を1曲に詰め込んだ、いわゆる“フェスで強みを発揮する”バンドの寡占状態から、ブラック・ミュージック寄りのグルーヴが特徴的なバンドが台頭するなど、バンドシーンの潮目の変化は明らかに2015年中盤から、熱心なバンドフリーク以外でも感じ取れていたことかもしれない。が、この日のSHE'Sのライブほど明らかにネクストウェーブを見たライブはなかった。シーンのトレンドと、結成当時の5年前はもちろん、ここ1~2年さらに意識的に距離を置いてきたSHE'Sが、その隙間を狙うのではなく、シーンのど真ん中に打って出る鮮やかな助走を見たのだ。


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 3rdミニアルバム『She'll be fine』のリリースツアーであり、自主企画でずっとタイトルとして冠してきた「chapter」が今回は“0”であることは、このシリーズの一旦の終了を意味していた。それは、既にアナウンスされている通り、この日のアンコール前に、6月8日リリースのシングル『Morning Glow』で、Universal Music Virgin Musicからメジャーデビューを発表したことにも繋がっていたのだ。


 満員のクアトロのフロアを占めるのは大半が若い女性。しかも学校やオフィス帰りとおぼしきノームコア系ファッションーーつまり普段の渋谷や新宿で見かける女の子のそれ。ディッキーズのハーフパンツにバンドT女子は見たところ皆無(バンドTの人はもちろんいるにせよ)。暴れることを目的にライブに足を運んでいるわけではないことが分かる。ただし、ステージに送られる視線の熱さは反比例。颯爽とステージに現れた4人への嬌声の大きさに期待度と人気のほどが伺える。


 この日のオープナーはアルバムと同様の「Un-scienece」だったが、井上竜馬(Key./Vo.)の弾く雨だれのようなピアノに重なるストリングスのシーケンス、そしてバンド一丸になって踏みしめるようないい意味での重さのあるアンサンブルが、音源とは桁違いに大きなサウンドスケープを描く。他のレパートリーでもそうなのだが、20代前半の日本のバンドでここまで直感的にコールドプレイや、時にマムフォード&サンズ辺りを想起させるバンドがいただろうか? かと思えば、広瀬臣吾(Ba.)と木村雅人(Dr.)がラウドロックもかくやという図太いビートを叩き出すアップチューン「Just Find What You'd Carry Out」への振り幅も鮮やかだ。しかし、飽くまで井上の「歌いたい」という心情が喚起するメロディがバンドを牽引しているのだろう。物理的にはかなりの爆音だが、残るのは飽くまでメロディをさらに輝かせるためのグルーヴだ。テンポが上がっても、静かにグルーヴに身を任せ、光に向けて手を上げるフロアのリアクションが、演奏に対する自然なリアクションであることも、逆に新鮮だった。


 とは言え、さすがに大阪のバンド。国境を超えるスケールを見せつつ、MCとなるといきなり若手お笑い芸人もかくやなやり取りを見せるのもギャップ萌えに弱い今の女子ゴコロを否定できない。満員のフロアを「大阪弁やと”パツパツ”っていうけど、東京では言わへん?」という井上の振りを受け、メンバーの中では少しふっくら目の服部栞汰(Gt.)がツアーを経て痩せたかどうか? について、フロアから「パツパツ!」と声が上がって大爆笑、なんて一場面も。そういう部分では笑いのリテラシーも高くて楽しいのだ。


 終盤には井上が結成から5年、「続けてきてよかった。続けてきたからこそ後悔することもあるけど、諦めてたらここにはいてなかった、そういう歌」と、淡々とした地メロからそのままエモーショナルに高音部に繋がっていく「All My Faults」を披露。単に静かなスローチューンとか、バラードとカテゴライズできない、バンド全員が歌の心臓部分である<後悔も抱えたまま 向き合って歩いて行く>姿勢を共有していなければ、奏でられないグルーヴだと感じた。そしてピアノを鳴らしながら井上がこれまでの歩みを振り返り「SHE'Sはゆっくりゆっくりやってきて、これからも変わらんのやけど、ひとつの節目として6月8日、Universal Music、Virgin Recordsからメジャー・デビューします」と、抑えきれない涙とともに発表。その後、演奏したのが「遠くまで」だったのだが、「みんなを連れてもっと大きい景色を見せます」と言い切ったあとの選曲として、クサいとか出来過ぎとか突っ込む気持ちが全く起こらなかったのは、曲の強度のせいか。本編ラストはアルバム同様「Curtain Call」という、これまた井上のメロが、服部のギターソロがまるでノエル・ギャラガーか? ってなエバーラスティングな逸品。琴線に触れまくるメロディを生む井上をはじめ、「いいものはいい」と言い切れるこのバンドの強さに、遠巻きに見ていた男性客も関係者も自然と拍手をしていたに違いない。


 アンコールでは、いち早くメジャーデビュー・シングルのタイトルチューンである「Morning Glow」を披露。夜明けを“Dawn”と表現するバンドもいれば、SHE'Sのように表現するバンドもいる。しかし、意外にも井上は否応なしに翌日が始まる夜明けが苦手だった、と楽曲のセルフライナーには記されていた。


 若いリスナーには新鮮に、そして30代半ば以上の洋楽を熱心に聴いていたリスナーにとってはしばらく忘れていた感情が起ち上がるような可能性に満ちたスーパーノヴァの登場である。(石角友香)