2016年03月16日 20:12 弁護士ドットコム
東京都内のチョコレート販売会社で働いていた30代の男性会社員が、月180時間におよぶ残業や社長からの叱責で精神障害に陥って自殺したとして、男性の遺族が出向元と出向先の2社と、両社を束ねる社長を相手取り、約9500万円の損害賠償を求めていた裁判で、東京地裁は3月16日、被告側に約6000万円の支払いを命じる判決を出した。
【関連記事:ビジネスホテルの「1人部屋」を「ラブホ」代わりに――カップルが使うのは違法?】
今回の裁判では、「出向元」の会社に、出向先の社員に対する安全配慮義務があるかどうかが争点の1つになっていたが、出向元の人事部が男性の勤務時間を集計していたことなどから、東京地裁は出向元の安全配慮義務を認め、損害賠償を命じた。
判決後、東京・霞が関の司法記者クラブで会見した原告代理人の山内(さんない)一浩弁護士は、「調べた限りでは、出向元に損害賠償を認めた判例が見つからなかった。画期的な判決ではないか」と語った。
男性は約10年、東京都渋谷区のIT企業でコールセンター業務に従事したあと、2011年10月にチョコレート販売事業を営む関連会社に出向を命じられた。チョコレートの販売に携わったが、3カ月足らずの同年12月に自殺した。死の直前の時間外労働は月180時間ほどあり、死亡後に労災認定を受けている。
山内弁護士によれば、一般的に、出向先での働き方を出向元が把握するのは難しく、安全配慮義務違反を問うことは難しいという。
しかし、今回の判決では、出向元のIT企業が男性の勤務時間を把握していることや、出向元と出向先の2社が同じフロアにあることから、男性の異変を察知することが可能だったと判断。安全に注意を払わず、必要な対策も取らなかったなどとして、2社と社長の責任を認めた。
今回の判決では、出向元の安全配慮義務を認めたが、山内弁護士は「大企業など、関連会社の独立性が高い企業でも『出向元の責任』が認められるかどうかは、別の話になるだろう」と述べた。
一方で、弁護団の圷(あくつ)由美子弁護士は「出向先での労働時間などは簡単に把握できる。予見可能性や回避可能性という観点でいけば、出向元も、出向先での働き方にある程度は目配りしなくてはならないと考えられるだろう」と話した。
記者会見には男性の両親も出席。父親は、裁判所の判断について「被告側の責任を重く受け止めていただき、感謝したい」と述べた。母親は「息子を追い詰めた原因は過重な労働に加え、社長からの叱咤、罵倒だと思っている。社長には一生心の中に(息子のことを)持ち続けていただきたい」と時折、言葉を詰まらせながら語った。
判決について、弁護士ドットコムニュースが出向元のIT企業に電話で問い合わせたところ、「担当者が不在なので、答えられない」という回答だった。
(弁護士ドットコムニュース)