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丸本莉子が目指す、リスナーとの理想的な関係「あいだにある壁はできる限りなくしたい」

2016年03月14日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

丸本莉子(写真=池田真理)

 シンガーソングライターの丸本莉子が、3月16日に2ndミニアルバム『フシギな夢の中』をリリースする。ブルボン「ラシュクーレ」のCMソングに決定した「フシギな夢」は、これまでの制作方法とは異なる手法で作られた一曲。「『歌う/聴く』っていう関係ではなく、お互いに寄り添うような関係」がリスナーとの理想なつながり方だと語る彼女は、どのような思いで新たな言葉とメロディを紡ぎだしたのか。今回のインタビューでは、その「フシギな夢」の制作プロセスを中心に、ライブでのスタンスについても聞くことができた。


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■「私のなかの新しい扉が開けた」


ーー2ndミニアルバム『フシギな夢の中』が完成しました。本作は丸本さんにとって、どんな位置づけのアルバムになるのでしょう?


丸本莉子(以下、丸本):今回のミニアルバムには、私が高校生のときに作った曲から、最近作った新曲まで、8年間の音楽活動のなかの、いろいろな時期の曲が入っているんですね。そのほとんどが、ありふれた日常のなかで訪れる、ハッとした気づきのようなものを歌っていて。それで“フシギな夢の中”っていうタイトルにしたんですけど、「丸本莉子は、こういう歌を作るんだ」っていうことを、改めてみなさんに知ってもらえたらなって思っています。


ーー最近作った新曲と言えば、2月24日に配信リリースされ、今回のミニアルバムの冒頭にも収録されている楽曲「フシギな夢」は、ブルボン「ラシュクーレ」のCMソングとして、新たに書き下ろした一曲なんですよね。


丸本:そうですね。そのお話をいただいてから、CMの絵コンテとかをあらかじめ見せてもらって。そこで最初に浮かんできたのが、この“フシギな夢”というワードだったんですよね。そこで、「“フシギな夢”って何だろう?」って考えたときに「自分は今、都合の良い夢を見ているんじゃないだろうか?」って疑いたくなるくらい幸せな瞬間ってあるじゃないですか。そういう瞬間を切り取った歌にしたいなって思ったんです。


ーー具体的に言うと?


丸本:いちばん最初に浮かんだのは、結婚式の光景でした。とはいえ、いわゆる“結婚ソング”みたいなものを書きたいと思ったわけではなく……結婚式っていう、幸せを絵に書いたようなあの空間そのものを切り取ったような歌を作りたいと思ったんですよね。最近、まわりの人が結婚することが多いんですけど、誰かと誰かが出会って恋に落ちて結婚して、ふたりで新しい家庭を作っていくっていうのは、やっぱりすごい奇跡だなと思って。だから、そういう“出会い”みたいなものをテーマにして、歌詞を全部組み立てていった感じですね。


ーー確か、以前の「がんばる乙女~Happy smile again~」(2016奥四万十博テーマソング)という曲もそうでしたが、最初にテーマありきというか、こういうタイアップ的なものは、わりと得意なほうなんですか?


丸本:そうですね。最初にテーマがあると、メロディとかは浮かびやすいかもしれないです。そう、この曲はわりと制作期間が短かったんですけど、そのなかで10個くらいサビのメロディみたいなものを作って、先方に聴いていただいたんですよね。そしてそのなかで選ばれたのが、この「フシギな夢」のメロディだったんです。


ーーサビ始まりの楽曲であることも含めて、かなりサビのメロディが耳に残る一曲になっていますよね。


丸本:私は普段曲を作るとき、サビよりもAメロ、Bメロから作っていくことが多いんですよね。最初にA、Bを作って、そのあとようやくサビを作り始めるっていう。でも、今回みたいにサビが最初にあるなかで、そのあとA、Bを作っていくほうが、ある意味楽というか、意外とこっちのやり方のほうがスムーズに曲が作れることを発見したんですよね。だから、これからは毎回CMソングを作るつもりで曲を作ってみようかなって、ちょっと思っています(笑)。


ーーそんな新しい発見があったわけですね(笑)。


丸本:はい(笑)。あと、この曲のなかに、〈あなたに溶けていくような〉っていう歌詞が入っているんですけど、それも実は最初、CM用に作った歌詞だったんです。1番と2番では〈なんて思う程幸せよ〉という言葉を入れていたんですけど、最後のところだけ〈あなたに溶けていくような〉って、少しCMを意識した歌詞に変えてみて……。


ーー確かに、これまでの丸本さんの歌詞とは、ちょっと違う感じがありますよね。


丸本:「ちょっと大人っぽいんじゃないの?」ってスタッフの方に言われたりしました(笑)。だから、この曲に関しては、サビのメロディから歌詞に至るまで、これまで以上にスタッフの方達と相談したところも多くて……本当にまわりの人の意見がなかったら、こういう感じの曲にはなっていなかったと思います。


ーーまわりの人の意見というと?


丸本:いや、別に「ここを変えてほしい」みたいな強い要望ではなく……「何かちょっと違う気がする」とか、わりと雰囲気で伝えて下さることが多くて(笑)。それを私が感じ取って更に考え直したものを「じゃあ、こういう感じはどう?」って、改めて提示していくみたいな。だから、最終的には全部私が考えた歌詞にはなっているんですけど、そこに至るまでのあいだに、いろいろと私のなかの新しい扉を開いてくださる方がたくさんいて。だから結果的に、最初に出したものより、もっと良い曲になったと思っています。


■「『寄り添うこと』がひとつのテーマになっている」


ーーそうやって、いろんな人とやりとりするなかで、丸本さんが「ここだけは譲れない」っていうポイントは何でしょう?


丸本:やっぱり、その曲で伝えたい“思い”ですよね。そこを変えてしまうと、私ではなくなってしまうので。例えば、この曲の歌詞に〈心の中風が吹いても/その隙間を埋めるように寄り添い合えるから〉というフレーズがあるんですけど、そこは最初、伝えたい思いと言葉数が全然合わなくて。実はこの箇所が、いちばん苦労したところだったりするんですよね。


ーーその「伝えたい思い」というのは?


丸本:何でその人じゃないといけないのか、何でその人と結婚するのかっていうときに、「ひとりじゃできないこともふたりだったらできる」そういうことをこの曲では一番言いたかったんですよね。その“出会い”をテーマにストーリーを作っていくなかで、ふたりじゃなければできないことを書きたかったんですけど、レコーディング直前まで、そのフレーズが思い浮かばなくて。それまでは違う言葉を入れていたんですけど、「やっぱり、これじゃないんだよな」って、ずっと思っていたので、「ちょっと時間をもらっていいですか?」って無理を言って、レコーディング直前に書き直して、最終的にこの歌詞になったんですよね。


ーーそうやって熟考した結果出てきたフレーズが〈その隙間を埋めるように寄り添い合えるから〉だったというのは、ちょっと面白いなと思って……「寄り添う」っていうのは、この曲に限らず、丸本さんの歌が一貫して持っているテーマのような気がします。以前、「リスナーに寄り添うような曲を歌いたい」と言っていましたよね?


丸本:ああ……確かにそうかもしれないですね。これは男女の歌ですけど、2nd配信シングルの「やさしいうた」は家族の歌で、今回のミニアルバムに入っている「ただそばで」という歌は、高校生の頃に作った曲をリアレンジしたものなんですけど、それは友だちに向けて書いた曲で……確かに、どの曲も「寄り添うこと」っていうのが、ひとつテーマになっていますね。


ーーいずれにせよ、寄り添うような関係性というのが、丸本さんにとって理想の関係性なのかもしれないですよね。


丸本:そうですね。単純に「歌う/聴く」っていう関係ではなく、お互いに寄り添うような関係――本当の意味で寄り添うのは難しいかもしれないですけど、そのあいだにある壁みたいなものは、できる限りなくしていきたいですよね。


■「ひとりでも多くの人に、私の声を届けていく」


ーーとはいえ、ライブの現場になると、また違う一面が出てくるのではないですか?


丸本:独りよがりな感じは、できる限りやめたいとは思っていて。大きい会場で歌わせてもらうと、やっぱり自分的に調子に乗ってしまうところがあるというか、何か「気持ちいい!」っていう感じで歌っちゃうときがあるんですけど、そういうときって、大体失敗するんですよね。自分的には、良いライブにはならなくて。だから、いつもライブ前に「調子に乗るなよ」って自分に言い聞かせています(笑)。


ーー調子に乗るなよ(笑)。


丸本:もちろん、私自身が楽しんでいないと、聴いてくださる方も楽しくないと思うので、なるべく一緒に盛り上がっていけるようなライブにしたいとは思っているんですけど、そのバランスみたいなものが、なかなか難しいですよね。当たり前ですけど、ライブに来てくださるお客さんは、毎回違うので。


ーーデビュー後、かなりいろいろな場所でライブをやってきたと思いますが、それらの経験を通じて変わってきたところって何かありますか?


丸本:事前にイメージ・トレーニングみたいなことをするようになりました。そのライブに向けて、MCとかも含めて、こんなふうにお客さんの雰囲気を持っていこうとか、こんな感じで歌おうとか、そういうことを事前にイメージすることが、やっぱりどんどん増えてきて。インディーズの頃は、その日にセットリストを考えるみたいなことを結構やっていたんですけど、やっぱりMCひとつで聴いてくれる人の感じ方や曲の入り方みたいなものも全然変わると思うんですよね。そういうことをすごく考えるようになったというか、そのあたりをもうちょっと突き詰めていきたいなって思うようにはなりましたね。


ーー本作がリリースされる頃には、全国をまわる「丸本莉子アルバム「フシギな夢の中」リリース記念・歌い旅2016」も始まっています。これは、場所によって会場の規模や形態もさまざまな形になるのですか?


丸本:そうですね、ほぼ弾き語りになると思いますけど、たまにバンドでやったりとか。そう、今回新潟とか初めて行く場所もあるんですけど、そうやって初めて会う人たちを、どう掴んでいくかっていうのを頑張って……いろいろ考えながら試して、失敗して、また考えてっていう感じですかね。ただ、インディーズのときから、いろんな地域とかお祭りに行かせてもらったりとかもしていたので、心は結構鍛えられているほうだとは思います(笑)。昔、雪が降っているなか、高速のサービスエリアで歌ったことがあって。そのあと、ようやく屋根のあるところに入れてもらったんですけど、今度はみんながラーメンを食べている前で弾き語りをしたり。


ーーなかなかタフな現場を経験されているのですね(笑)。


丸本:「何で私は、ここで歌っているんだろう?」って、ちょっと思ったりもしました(笑)。ただ、そういうなかでも、温かく聴いてくださる人たちっていうのは、絶対いるんですよね。そういう人たちを、どうやって増やすことができるのかーーそれにはもちろん、曲そのものが良くなければいけないっていうのはあるんですけど、それだけではないやり方が、きっとあるんだろうなって思っていて。当時はそこまで考えられなかったですけど、今はそういうことも考えながら、ひとつひとつやっていきたいなと思っています。


ーーでは最後、本作を引っ提げて全国をまわる「歌旅」への意気込みを聞かせてもらえますか。


丸本:そうですね……きっと、この機会に初めて聴く方もたくさんいらっしゃると思うので、そういう人たちのひとりでも多くに、私の声を届けられるよう、一生懸命歌っていきたいなと思っています。あと、自分ではあまり分からないですけど、「癒しの声」と言ってもらったりもしているので、そういう効果もちゃんと発揮できるよう、いろいろ勉強したり鍛えたりしながら、これからも頑張っていきたいと思っています。(麦倉正樹)