2016年03月13日 12:22 弁護士ドットコム
在宅ワークを希望するフリーランスのエンジニアやデザイナーなどと、仕事を依頼したい企業をネットで仲介するクラウドソーシングの大手「クラウドワークス」。登録者数が80万人もいる一方で、月収20万円超えのユーザーが111人しかいないことが、話題になった。この数字は、同社が2月に公表した資料で明らかになったものだ。
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月収20万円超えが約100人という数字について「ネットでみつける在宅の仕事で生きていくのは甘い考えだよ」と指摘するツイートが投稿された。これに対して、あるブロガーは、実際には20万円超のユーザーはもっと多いという可能性を指摘し、注目を集めた。
ブロガーの理屈は次のようなものだ。複雑で高額な案件が進むと、ユーザーと企業が直接、連絡を取り合うことになり、最終的に両者はクラウドソーシングを離れて「直接取引」をするようになるというのだ。「ある程度、信用ができてくると、なんでわざわざ、手数料払って、入金の遅い方法で金を払わないといけないのか?という思いになります」と説明している。
だが、直接取引に切り替えることは、規約で禁止されている行為だ。もし、クラウドソーシングのサイトを使っているにもかかわらず、途中で直接取引に切り替えた場合、法的問題が生じる可能性はあるのだろうか。石原一樹弁護士に聞いた。
「結論から言うと、立派な契約違反に該当します。そして少なくとも、利用料相当額の損害賠償を請求される可能性があります」
穏やかではないが、どういうことだろう。
「クラウドソーシングサービスは、自社のサービスを使用してもらうことで利用料を対価として取得しています。つまり、当該サービスを利用してもらえないと、収益にならないのです。
そのため、利用規約において直接取引を禁止しているサービスもあります。『利用規約』という名称ですが、利用者とクラウドソーシング事業者との『契約』です。したがって、規約に違反するような行為は『契約違反』に該当します。
他のクラウドソーシングサービスでは、直接取引が発覚すれば、当該クラウドソーシング事業者が受け取るべき利用料相当額をもらい受けます、という内容の規定を置いている場合もあります」
しかし、実際に発覚するのは少ないようだ。
「そうですね。発覚して摘発されるケースは、現実的には多くはないでしょう。クラウドソーシング事業者が、実際に直接取引が成立したかどうかを確認することは困難です。直接取引しているユーザー同士のやりとりを監視するか、またはユーザーから自発的に開示しない限り、発覚することは少ないでしょう。
クラウドソーシング事業者にとって、契約違反は重要な問題ではありますが、違反したことによる責任を追及することが必ずしも利益につながるわけではありません。むしろ、自社サービスを利用してもらうインセンティブを提供し続けるほうが、事業としての経済合理性があるのではないでしょうか」
石原弁護士はこのように話していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
石原 一樹(いしはら・かずき)弁護士
2012年に弁護士登録後、ヤフー株式会社に入社し、企業内弁護士としてインターネットに関する法務業務に従事。ホーガン・ロヴェルズ法律事務所外国法共同事業を経て窪田法律事務所に入所。日本国内外を問わず積極的にスタートアップ企業やベンチャー企業へのリーガルサービスも提供している。
事務所名:窪田法律事務所
事務所URL:http://www.kubota-law.com/