2度のフォーミュラ・ニッポンチャンピオン、そしてスーパーGTでは2連覇中と数々の実績を残し、フジテレビのF1中継でも解説を務めるF1マニアながら、これまで一度もF1マシンをドライブする機会を得られなかった松田次生が、ついに悲願を成就させた。3月12日に鈴鹿サーキットで開催された2016モータースポーツファン感謝デーでフェラーリF187のステアリングを握り、デモ走行を行ったのだ。
昨年秋の日本GPの決勝前、F1マシンをデモ走行する予定だった次生だが、FOM(フォーミュラ・ワン・マネジメント)から『F1経験者しか乗せられない』という主旨の通達があり、現場に来ていながら急きょ、F1ドライブの機会をマーティン・ブランドルに奪われてしまった松田次生。今回は鈴鹿サーキットのご厚意もあり、2度目のチャンスを得て、無事、F1ドライブデビューを果たすことになった。
「この鈴鹿に来る前は岡山国際サーキットでスーパーGTのテストを行っていたのですが、天候が雨で濡れてしまうので、とにかくこの日のために風邪を引かないよう、とにかく体調管理に気をつけていました。GTの相棒(ロニー・クインタレッリ)がインフルエンザに掛かってしまったこともあったので、なおさら、注意していました」と、今回のデモ走行に並々ならぬコンディション調整を行ってきた次生。
走行前日のシート合わせでは、F187がゲルハルト・ベルガー車だったこともあり、足下のペダルに届かず、クラッチなども切れないことが判明し、急きょ、背中にウレタン素材を挟んで走行に臨むことになったのだという。それでも、悲願だったF1マシンの初ドライブは、格別の乗り味だったようだ。
「乗る前はもう、緊張で心臓バクバクでした。シフトアップで1回ミスしてしまいましたが(笑)、とにかく、感動、感動です。今のクルマは空力性能に頼っている分、足が硬くてスピードが出ないとダウンフォースが発生しなくてグリップがでないのですが、このF187はきちんと足が動いてメカニカルグリップがすごくて、乗りやすい。スクールカーとか、本当に市販車のクルマに乗っているように低速粋からグリップを感じやすいので、どんどん攻めたくなるクルマでした。」
「本番前のテストでは最初は東コース2周だけだったのですが、『もうちょっと走らせて下さい!』とお願いして、5周走らさせてもらいました。本番では2周で7周、東コースを走らせてもらいましたが、本当に今までにないクルマの乗り味でした」と、笑顔で一気に語り尽くす次生。わずか7周ながら、まだまだ舌は止まらない。
「見て下さいよ、このアーム。アーム自体の形状にしても、車体の取り付けにしても、美しいですよね。ひとつひとつが手作りのような、イタリアの伝統工芸のようです。マシンのフォルム、デザインもそうですが、とにかく美しい。フェロモンが出ていますよ。Hパターンのシフトも久しぶりでしたけど、このHパターンで、たとえばモナコとかを走行することを考えたら、当時のすごさがよく分かります。今日の走行ではタイヤのグリップはそれほど出ていませんでしたが、モナコで右手でシフトしながら左手片手でドライブするなんて、かつてのF1ドライバーのすごさを感じました。(アイルトン)セナは本当にすごかったんでしょうね」
最後に「本当に今回の機会を下さった関係者の皆様には感謝の言葉しかありません。30年近く前のクルマなのに、まったく古さを感じさせないクルマでした。そしてまた、F1マシンにもっと乗りたくなりました(笑)。次の機会も是非、乗せて下さい!」
まさに、少年のように喜ぶ表情と語りを見せた次生。シーズン前のこの貴重な経験、そして感動は今シーズンの次生にどのように活かされるのだろうか。