2016年03月11日 13:01 リアルサウンド
1980年代初期に、日本のハードコアパンクシーンにマスターベーションという過激なバンドがあった。カミソリで身体を切り裂きながら歌う、ボーカル卑龍(Gu.Vo.)の鬼気迫る様相は、暴力的だった当時のシーンにおいても異様な雰囲気を醸し出していた。そのマスターベーションが、2016年3月19日に再結成ワンマンライブを東京新大久保「EARTHDOM」にて行なう。
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約30年のときを経て復活するマスターベーションは、卑龍の地元京都で結成された。当初はザ・スターリン、ザ・コンチネンタル・キッズ、the 原爆オナニーズ、非常階段らと共に活動しており、卑龍の高校卒業を機に東京進出を果たした。東京でのメンバーは、元奇形児のタツシ(Ba.)と、のちにブランキー・ジェット・シティなどで活躍する中村達也(Dr.)の3人である。今回の復活ライブもこの3人で行なわれる。
当時を知るファンや、再発のCDなどを聞いて新たにファンになった人間にはとても喜ばしいことではあるが、なぜ今マスターベーションは復活するのだろうか。卑龍は次のように語る。
「死が訪れる前にやり残してる感ですかね。エピローグじゃなく心のどこかに続編が残ってるんですよ。また昔の仲間で音を奏でたいなと思って、再結成ライブをやるのであれば、この3人でないと駄目かなと」(卑龍)
再集結するのは、2014年に「無期懲役」というバンド名でシークレットライブを行って以来だ。名前を伏せていたにも関わらず、大勢のファンが押し寄せ、チケットはソールドアウトになった。今回のライブも、その時の流れの延長にあると、タツシはいう。
「2年前にシークレットライブで無期懲役をやったあとに、達也が次回マスターベーションでやろうと言ってくれて。シークレットライブもすべて達也が段取りをしてくれたんだよ」(タツシ)
マスターベーションは、1985年3月2日吉祥寺バウズシアターでのライブを最後に突如として姿を消していた。その後、卑龍は奇形児のヒロシなどを迎えトランスフォーマーを結成するが、LP『MANOEUVRE』を一枚リリースしたのみで、卑龍は誰にも知らせずに、ひとり東京を離れたそうだ。
「マスターベーションを終えてトランスフォーマーをやったあと、京都に戻って20年近くバンド活動からは離れていました。後に死亡説も出回ったりしましたけど、その後、スモークランブラーで音を出し、現在進行してます」(卑龍)
関西と東京、両方のアンダーグラウンドシーンの当時を知る卑龍にとって、今のパンクシーンは物足りないところもあるようだ。
「当時は刺激的なバンドも多かったし、今の時代にはない魂を感じれるヤツらが多かったですね。今のシーンに感じるのは、無茶をする人が少なく、明日のことを考えてる人間が多いような……」(卑龍)
ドラムの中村達也も、いまなおマスターベーションに対する思い入れは強いらしく、今回の再結成に向けて次のようなコメントを寄せてくれた。
「この歳でマスターベーションを辞められないのが信じられない」(中村達也)
また、訪れる観客に対して、中村達也は「お前の血が欲しい」とのメッセージも残している。一方、卑龍は「若いパンクスの脳に爆撃したい」と、意気込みを語る。
「当時生まれていない人や、ガキだった人達も来るわけで、盛り上がるバンドではないので、今まで感じた事のない空気感と緊張感を体感してほしい」(卑龍)
今回、初めて彼らのライブを目の当たりにするファンはもちろん、当時を知るファンにとっても、現在のこの3人で奏でる演奏は衝撃的なものとなりそうだ。昭和を生き抜いたパンクスの血を、ぜひ体感してほしい。(ISHIYA)