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米アカデミー賞は本当に日本の映画興行に影響をもたらさなくなったのか?

2016年03月10日 12:51  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

 先週末初登場1位となったのは、春休み映画恒例の『ドラえもん』最新作、『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』。土日2日間で動員54万4816人、興収6億3703万5600円という数字は、最終興収39億3,000万円を記録した前作『のび太の宇宙英雄記』の初週興収(6億4,473万5,500円)の98.8%と、このシリーズ特有のすさまじい安定感を証明している。


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 『ドラえもん』映画の第1作目『ドラえもん のび太の恐竜』が公開されたのは、今から36年前の1980年3月15日のこと。そして、驚くべきことに興収的には、30年以上が経過した2010年代に入ってから再びピークを迎えている。シリーズ最高興収作品は2013年公開の『のび太のひみつ道具博物館』の39億8,000万円だが、低調な仕上がりだった前作よりも作品の評価が高く、またオリジナル版『のび太の日本誕生』(1989年)に愛着のある大人の観客の集客も見込める本作は、36年目にしてシリーズ新記録樹立の可能性がかなり高いと予想しておこう。


 今週注目したいのは4位に初登場した『マネー・ショート 華麗なる大逆転』。214スクリーンでの比較的大規模での公開ということを考えると、動員8万4,008人、興収1億1,581万4,100円という数字は目を見張るほどの好成績ではない。しかし、金融という作品のテーマ、日本ではヒット実績のないコメディ畑の監督アダム・マッケイ監督作、同じく『ダークナイト』シリーズ以外では日本でヒット実績のないクリスチャン・ベール主演作品(ブラッド・ピットやライアン・ゴズリングというスター俳優も出てはいるがあくまでも脇役)ということを考えると、十分に健闘していると言ってもいいのではないか。


 今年のアカデミー賞で5部門にノミネートされていた『マネー・ショート』。結局受賞したのは脚色賞のみで、作品賞のオスカー像は『スポットライト 世紀のスクープ』にわたったものの、事前には本作を作品賞の最有力候補として挙げる関係者も多く、公開直前のオスカー・シーズンには映画ファンの間で大いに話題となった一作だった。


 近年、アカデミー賞における受賞が、その作品の日本での興行成績に(公開時期の問題を除いても)影響力がなくなってきていると指摘する声があり、実際にそれはデータでも一部実証されてもいる。しかし、こと日本でも「映画ファン」に限っていえば、やはりアカデミー賞は最大の関心事の一つであり、受賞するしないにかかわらず、そこで話題となることは少なからず興行にも影響を与えているはずだ。数字としてわかりやすく表れにくい一番の理由は、そもそも近年のアカデミー賞候補作品が以前と比べて「通好み」の作品に大部分が占められるようになったから。つまり、作品選定の傾向そのものが変わってきているのだ。


 今回の『マネー・ショート』に関して言うなら、この題材と監督とキャスティングで214スクリーンという規模で公開となったのは、事前にアカデミー賞の候補となったことで受賞の期待がかけられていたからであり、そこで今回それなりの数字を残したことにも、アカデミー賞での宣伝効果がある程度寄与しているに違いない。今年アカデミー賞の作品賞を受賞した『スポットライト』は、ある意味で『マネー・ショート』以上にハードなテーマを扱っていて、監督も出演者も地味な作品である。来月15日公開の『スポットライト』も期待以上の成績を上げることがあったら、改めてこの「アカデミー賞、日本の興行に影響あるのか?」問題について考えてみたい。(宇野維正)