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校庭カメラガール運営に訊く、グループのコンセプトと野望「WARPやNINJA TUNEみたいになりたい」

2016年03月06日 14:01  リアルサウンド

リアルサウンド

校庭カメラガールツヴァイ。

 校庭カメラガールツヴァイ (略称はコウテカ2)は、2014年末に結成された、女性アイドルラップグループ。 「ALYT-」(読み:あらようと。旧名:亜良陽人)なる正体不明のチームがプロデュースを手掛けており、メンバーは「もるも もる」「しゅがしゅ らら」「ののるる れめる」「らみた たらった」「ぱたこあんど ぱたこ」「うぉーうぉー とぅーみー」という、変わった名前の6名だ。


 音楽性は雑多で、エレクトロ、テクノ、ポストロック、アニソンっぽさなど、様々なジャンルを取り入れている。これまでに2枚のアルバムをリリース。昨年12月には渋谷WOMBにて1stワンマンライブを開催し、成功を収めた。


 今回はそんなコウテカ2のプロデュースチーム「ALYT-」の代表であり、事務所兼レーベル・tapestok records(タペストクレコーズ)のディレクターを務めるVivid Jas氏に「ALYT-とは何者なのか」「コウテカ2のコンセプトや今後」などについて、話を聞いた。なお、インタビューは新メンバーが加わりグループ名が「校庭カメラガール」から「校庭カメラガールツヴァイ」に変わる前の2016年1月上旬に行われた。また、メンバーのもるも、しゅがしゅ、ののるる、らみたの4名が同席した。(岡島紳士)


・「オウテカっぽい名前のアイドルを作ろうと思った」


--プロデュースチームの「ALYT-」とは何者なんでしょうか?


Vivid Jas(以下、Jas):トラックメイカー6人とデザイナー1人と僕の、8人のチームです。みんな普段やってるアーティスト名義を変えて参加してます。マネージャーはまた別にいます。僕は事務所のディレクターとか、レーベル周りのプロダクションとかをやってます。


--ユニットにした理由は?


Jas:あまり誰がプロデュースしてるのかはっきりしないようにしたかったんで。でも、既に2人ほど自分で正体を明かしてしまってるけど。「ALYT-のメンバーだって言いたかったら言って」っていうスタンスですね。


--コウテカのコンセプトって何でしょうか?


Jas:コンセプトがないっていうのが売りなんですよ。すごい飽きっぽいんで、ラップってこと以外は決めずに、そのときに作りたいものを作りたいなと。


--グループ名の由来は?


Jas:Autechre(オウテカ)っぽい名前のアイドルを作ろうと思って。頭の「オ」を色々変えてたら、「コ」が一番ハマって。略称から考えて出てきた単語が、校庭とカメラだったって流れです。ガールはそこに足しただけ。「Vivid Jas」っていう名前も、JasはJasticeのことなんですけど、いいバランスでダサい名前にしようと思って。その他にもレーベル名やコウテカ周りのタイトルや名前は、ほとんど響きだけでつけています。


・アニソンっぽい曲を必ず入れる


--コウテカにはアニソンっぽさはありますよね。それはメロディーラインしかり、メンバーの声質しかり。


Jas:アルバムには必ずアニソンっぽい曲を入れてるんですよ。曲の並びから言うと、ああいうのはない方がまとまるし、そういう風に言う人が絶対いるのは分かっているんですが。ちょっと捻くれた遊びというか。


--アニソンは好きじゃないんですか?


Jas:いや、好きなんですよ。ALYT-はアニメ好きです。そういえば、アーティストじゃなくアイドルをプロデュースした理由として、その方がイベントに出やすいのかもという考えもありました。ビジネスとしても回るかなと。女の子だと、男のラッパーにはできないラインでトラックを作れるっていうのもありますね。幅が広い。


・コウテカ結成の経緯 しゅがは「田村ゆかり“しか”」知らなかった


--では結成の経緯を聞かせて貰えますか?


Jas:2014年に元々知り合いだったもるもが、僕に「ラップを教えて下さい」と訪ねてきたんですよ。最初は乗り気じゃなかったんですけど、周りから「アイドルだったら売れんじゃないの」と言われたこともあり、彼女のソロをプロデュースするようになって。


--もるもさんはアイドル志向だったんですか?


もるも:元々アイドルは好きで、エビ中(私立恵比寿中学)の現場に「仮契約のシンデレラ」くらいまで通ってたんです。でもアイドルになりたかったわけではなくて。ラップは好きなんですけど、ラッパーの世界って「酒とイカツイ黒人とギャル」みたいなイメージがあって、その世界には飛び込めないなって思っていたのですが、「アイドルラップはどう?」と提案されて「それなら大丈夫」って思ったんです。


Jas:もるもをライブに出したりして、細々とやってる中で「グループにしよう」と思って募集をかけたこともあるのですが、ぜんぜん応募がなくて。そんな時に周りから「すごい子がいる」としゅがを紹介されました。


--しゅがさんは物すごいアニメ声ですよね。


しゅが 私もアイドルになりたいっていうのはそんなになかったんですけど。でもステージの上で歌ってみたいとは思っていて。元々はただのアニメオタクです(笑)。ラップも聴いてなかったです。


Jas:しゅがは最初はほんと田村ゆかり“しか”知らなかった。


--“しか”っていうのはすごいですね。グループにしたのはどういう流れで?


Jas:ソロをひとりひとり出して行って、最終的にグループにするっていうイメージだったけど、2人で行き詰まって、やめました。募集しても、しゅがのインパクトに勝てる人材が来なくて。すぐにグループにしようと。それでオーディションで集まったメンバーを加えて、2014年末に結成しました。


--しゅがさんは高音の萌えな感じ、もるもさんは低音のボーイッシュな感じと、メンバーの声色が声優っぽい印象があります。それは意図的なんでしょうか?


Jas:そうですね。採用の判断時には声が結構重要な材料になります。もるもが中音、らみたは低音かな。もちろんビジュアルのバランスも考えます。


--そして2015年9月にらみたさんと、ぱたこさんが加入します。


ぱたこ:コウテカに入る前は「工藤えりな」という名前で『ミスiD2015』にエントリーして、ファイナリストになったりしてました。コウテカには憧れてたけど、ラップはわからなかったです。でもやってみたいなって。


らみた:コウテカの前はほんと就職もせず遊んでバイトしてと、ゴミみたいな生活でした。ただのクズでしたね。ハーフっぽいって言われるんですけど、外国の血は入ってないです。私もラップには興味がなくて。友達を紹介するつもりで面接に行ったら、そこで興味が出て。人生何が起こるか分からないなと思いました。


Jas:らみたは、面接で会話のキャッチボールができなくて、ある意味すごいなと思って採用しました。


--年齢は皆さん非公開ですか?


Jas:大体ハタチ前後の集まりですね。


・振り付けはなし BRAHMANの動画を見せて「パクれ!」と指示


--レッスンではどういうことをしているのでしょう?


Jas:振り付けは特になくて。サビの動きとかは、僕が適当に考えています。一回振りをつけて躍らせてみたら、普通でつまんなかったんで、やめようと思って。あとはノイズミュージックをずっとかけて、「一切ゼロになって、体全体で表現をしてみてくれ」と言ったり。結構ハードかもしれない。BRAHMAN(ブラフマン)の動画とか見せて「パクれ!」と指示したり。


--BRAHMANを参考にしていたとは(笑)。でも最初期と比べると、ライブの熱さみたいなものを大事にするようなグループにどんどん変化しているようには感じていました。この変化は意外でした。


Jas:ライブは、理想は静かにでも暴れるでも、好きに楽しめるのがいいんですけどね。セトリも決めないで、DJセットのあるライブの時は、直前にもるもに指示します。インストアとか、音出しがPAの時は事前にメンバーにセトリを伝えないで、陰で僕が曲出しをしています。ノンストップでMCもなく1時間くらいライブをしますし、リリースイベントだと、曲の途中で次の曲をブッ込んだり、音を抜いたりもするので、メンバーのあたふた具合が面白いです(笑)。


--それはメンバーも無我夢中でやらないと対応できないですね。衣装、デザインの方向性は?


Jas:これもその都度考えてます。衣装は見た目でラッパーとかヒップホップを連想させないようにしてますね。デザインは、ALYT-のデザイナーにアートワークからロゴから、一貫して任せてます。


・リリックの書き方と、日本語ラップとアイドルというジャンルへの距離感について


--リリックについてですが、「毎日磨くスニーカーと自撮り 平日もヒロインよりどりみどり」(TOKYO Terror)、 「colorful voice に恋する 5秒前 なんちゃって 簡単でしょ rap なんて」(Puppet Rapper)と、日本語ラップのクラシック「証言」や、ももいろクローバーZや広末涼子などのアイドルからの引用、オマージュが多数見受けられます。リリックに関してはどういうこだわりがありますか?


Jas:全曲の9割5分くらい僕が書いているのですが、フロウや韻の踏み方は語感を最優先にして、パズルみたいに言葉を嵌めていく感じです。すごく分かりやすいネタと、「これ分かったらすごいな」っていうマニアックなネタを散りばめてるというか。<やりたい放題やるんだ idol」(Puppet Rapper)>というラインは、今は活動してない北海道のラッパーの曲からの引用なんですけど、ファンの人に言い当てられた時は驚きました。


--その「Puppet Rapper」では「だって言われた通りにやってるだけ idol が idol であることを誇る」、「Star flat Wonder Last」では「アイデア繋いだアイドルラッパー アイドルらしさってなにそれ xxx」と、アイドルやアイドルラップであるという前提へのこだわりも感じます。


Jas:う~ん、こだわりというか…。例えばラップが今後すごく上手くなっても、自分でリリックを書いてないなら、ラッパーではないと思うし、どこまで行ってもアイドルなんですよね。それに、ラップの上手さって、完全に好き嫌いが分かれるというか。例えばバイリンガルなUSっぽいフロウとか、はっきり言葉が聞き取れる日本語で韻を硬く踏むとか、何て言ってるのか分からなくても声を完全に楽器として扱っていてカッコ良ければOKみたいなのとか。ラップにはいろんな上手さがあるので。


--日本語ラップとアイドルの2つのジャンルがコウテカには一番近いと思います。そことの距離をどうとりたいですか?それらのジャンルの流れのどこにコウテカを置きたいというイメージはありますか?


Jas:シーンやジャンルがどうとかではなく、完全に孤立したいですね。リリックを書くときは、ほんとに言葉のMPCを叩いているイメージなんです。何かのジャンルの流れの中に位置したいとは思ってなくて。だからなるべくラッパーの人とは競演しないようにしています。


--なるほど。ちなみにアニメからの引用もありますか?


Jas:「TOKYO Terror」に「ワンツー ワンツー ジュピター マーズ まとめてお仕置きするこのバース」っていう、セーラームーンからの引用があります。


・最終的にはWARPやNINJA TUNEみたいになりたい 「わけわかんない感じ」を続けたい


--昨年12月にはキャリア史上最大キャパとなる、渋谷WOMBでのワンマンライブがありました。手ごたえはありましたか?


もるも:あんまり「やってやったぜ」っていう実感がなくて。通過点でしかないというか、早く次に行きたいっていう気持ちが先走ってました。第一章が終わって次に進むぞっていうのが見えたかな。


らみた:会場が広かったなって。力を出し切れなかった部分があるので、これからだなって感じです。


しゅが:最初の方は楽しむこと以外のことも考えて、動きとかカチコチになっちゃって。最後の方には何も考えないでできたけど。あんなに汗をかいたのは初めてでした。でももるちゃんが言ってたみたいに、通過点かなって。もっとすごいところに行けるんじゃないかなって気がします。


Jas:会場での音作りが難しいところがあったんですが、ああいう景色が見えるとは思わなかったので。これだけ聴いてくれる人がいるんなら、もっとちゃんとしようって思いました(笑)。


--今後どういうグループになって行きたいですか?


Jas:自分たちが何がしたいのか、まずはそれを考えます。カテゴライズがすごく嫌いなんですよ。でもそれは矛盾していて。自分たちで「アイドル」って言っておきながら「アイドルじゃない」とも主張する。そのわけわかんない感じを続けられればとも思っています。


--それはたぶん、戦略的にも正解なんだと思います。ちなみに具体的にどういう迷いがありますか?


Jas:ライブにたくさん出るよりもなんか面白いことないかなって探しています。今すごい彷徨ってますね。なんかふと気付いたら、リリイベやって、ライブやって、お客さんを増やして、ワンマンやって…っていうレールに乗っかってるなって思って。それは1回ちょっとストップしようと。捻くれもの集団なのになんか普通だなって。


--僕もそういう動員ゲームには結構前から飽きてて。アイドルオタク全体にも疲労感があるのを感じます。


Jas:レザーのブーツをずっと履いていたら、スニーカーも履きたくなるみたいな感じですね。


--チームとしてゴールをどこに置くのかっていうのはありますよね。モチベーション含め。


Jas:そうですね。ゴールについては考えていきます。誰かがやっていることはやらないようにはしたいですね。でもレーベルとしては、最終的には<WARP>や<NINJA TUNE(イギリスの名門エレクトロ・インディーレーベル)>みたいになりたいなと思ってます。幅広くて好き放題やっている感じがいいですね。アイドル以外も<tapestok records>から音源を出す予定です。


*****


 このインタビュー後、新メンバーの「うぉーうぉー とぅーみー」が加入し、ユニット名を「校庭カメラガールツヴァイ」に改名することが発表された。プロデューサーが「誰かがやっていることはやりたくない」というポリシーを語るコウテカ2が、今後“わけわかんない感じ”の活動でシーンを掻き乱してくれることを、楽しみにしている。


(岡島紳士)