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高待遇に見せかけた「詐欺求人」に注意! 被害に遭わないための心構えを弁護士が指南

2016年03月06日 10:52  弁護士ドットコム

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来春卒業予定の学生の就職活動が3月1日から本格的にスタートし、各地で合同企業説明会が開催されている。今年の面接解禁日は、昨年より2カ月早い6月1日。選考までの準備期間が3月から6月までの「短期決戦型」となっているのが特徴だ。


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学生に焦りが生じるかもしれないが、ここで気をつけたいのが、現実と異なる高待遇で学生を誘い、実際は劣悪な環境で働かせる「詐欺求人」だ。企業のホームページや求人サイト、ハローワークでは高待遇と見せかけて、いざ入社してみたら労働条件が全然違っていたとの被害が報告されている。



求人広告にウソの労働条件を記載する「詐欺求人」には、どんな法的な問題があるのだろうか。また、被害に遭わないためには何に気をつければいいのか。「ブラック企業対策プロジェクト」事務局長で、若者の労働環境改善に取り組む嶋崎量弁護士に聞いた。



●現状の「詐欺求人」は野放しで、罰則の適用もない


「多少乱暴に解説すれば、現状の『詐欺求人』は野放しで、罰則などの適用はありません。



しかし、虚偽の広告をした場合や虚偽の条件を呈示して募集をした場合に、6月以下の懲役または30万円以下の罰金となる(職安法65条8号)という規定があるように、本来であれば罰則の対象となるものです。



ですが、この職安法の規定が適用されるには、『虚偽』であったことの証明が必要で、事実上難しいのです。仮に求人広告と実際の労働条件の違いがあっても、当初から騙すつもりで求人広告を出していることが証明できない限り、この刑罰規定は適用されません。



そのため、厚生労働省によると、この規定の適用例は1つもないと言われています。求人詐欺に罰則を適用するためには、全く無意味な規定となっています」



嶋崎弁護士はこのように指摘する。ある企業の求人広告が「虚偽」かどうか、学生側が見抜く方法はないのだろうか。



「詐欺求人を見抜くために、『ココだけ見れば良い』というマニュアル的な回答はできません。ただし、特に注意すべき視点などは、もちろんあります。



第1に、求人広告は、その名の通り、しょせん『広告』だと強く意識することです。『会社に不利な情報は載りづらく、誇張も騙しもある』。そんな警戒心を持ちましょう。



第2に、離職率や平均勤続年数など、客観的な数字を見ていくことです。リクルーターや企業説明会でプレゼンをする『人物』の魅力や、求人広告の印象などに振りまわされないよう注意してください。



具体的に注目したいのは、賃金、労働時間といった基本情報だけでなく、新卒者の3年の離職率(業種ごとの違いや男女の差異にも注意)、平均勤続年数、有給休暇消化率、所定外労働時間の実績、育休取得率、労働組合の有無などです」



●会社に対して是正を求めることはできる


万が一、入社した後で、求人広告の内容と実際の労働条件が違うと分かった場合、どうすればいいのだろうか。



「先ほど刑事罰の適用が難しいと述べましたが、民事上は別です。会社に対して是正を求めたりすることは理論上可能ですし、そういったケースは、多くはないですが、存在します。



このとき重要なのが、雇用契約書が作成されているかどうかです。



例えば、雇用契約書が作成されないまま、求人票と異なる労働条件で働かされた場合。このとき、求人票記載の労働条件は、当事者間において特別な事情のない限り、そのまま雇用契約の内容になるとされています。



したがって、求人票に記載されていた労働条件を、後から会社に請求できます。例えば、求人票には『基本給24万』と書いてあったのに、基本給が22万円しか支給されなかった場合、差額の2万円を会社に請求できるということです。



ただし、求人票とは異なる雇用契約書が作成されている場合は、作成された契約書の効力を争う必要があり、話は簡単ではありません。



ですので、なによりも重要なのは、内容を確認せず雇用契約書にサインしないことです。そして、求人票・雇用契約書、双方をきちんと保管しておくことも、事後に救済を受けるためには重要になってきます」



●「詐欺求人」の被害は顕在化しづらい


「『詐欺求人』の被害の特徴は、被害が顕在化しづらいことです。



新卒で入社した会社で『詐欺求人』の被害にあっても、多くの方は、(1)我慢して働くか、(2)辞めて次の仕事を探す、のいずれかを選択し、(3)会社に権利主張する、は通常は選択肢に入りません。



厚生労働省の集計によると、ハローワークの求人票に記載された内容と実際の労働条件が異なっているという相談は、2014年度には1万2252件寄せられています。これだけ苦情が寄せられても、労働者が具体的に裁判などを通じて、求人詐欺を行った会社に権利主張するケースは、極めて稀なのです。



この顕在化しづらい性質が、『詐欺求人』が『野放し』状態となっている大きな要因です。



しかし『詐欺求人』で、一見、高待遇に見せかける企業を放置すると、誠実な求人を出す企業に人が集まらず、不公平な就職市場が形成されてしまいます。詐欺求人広告を出す会社が労働市場から閉め出されるような状況を作らねばなりません。



そのためには、被害にあった方が泣き寝入りせずに、企業に権利主張すると同時に、求人票を掲載した求人サイトや大学、ハローワークに対しても声をあげ、問題を広く知らせていく必要があると思われます」



嶋崎弁護士はこのように述べていた。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
嶋崎 量(しまさき・ちから)弁護士
日本労働弁護団事務局長、ブラック企業対策プロジェクト事務局長。共著に「ブラック企業のない社会へ」(岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)など。
Yahoo!個人ニュースhttp://bylines.news.yahoo.co.jp/shimasakichikara/
事務所名:神奈川総合法律事務所
事務所URL:http://www.kanasou-law.com/