2016年03月05日 17:51 リアルサウンド
巨大ロボットと怪獣が殴り合う……このシンプルかつ荒唐無稽な物語を全力で映像化したのが『パシフィック・リム(13)』である。『トランスフォーマー(07)』シリーズなど、近年はハリウッド映画でも巨大ロボットを目にする機会は多いが、その中でも本作のド派手なヴィジュアルとインパクトは絶大だった。公開から数年が経った今でも、多くの熱狂的なファンが存在する。近年を代表するカルト映画の1本であるといえよう。
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そんな本作が今週土曜日3/2に地上波放送に登場する。ただでさえ地上波での洋画の放送が減っている今日にあって、わざわざ日本を代表するロボットアニメの一つ『新世紀エヴァンゲリオン』風のCMが制作されるなど、気合いの入り方が違う。これもまた、本作にノックアウトされた人の仕事であろう。いったい何が、この映画をそこまで特別なものにしているのか?地上波放送を控えた今、『パシフィック・リム』の持つ魅力と、監督を務めたギレルモ・デル・トロという人物について、筆者なりに改めて総括してみたいと思う。
「二瓶勉さんに、僕の映画の武器をデザインしてほしいね!」これはデル・トロが監督作『ブレイド2(02)』が公開された際に、日本の某映画雑誌のインタビューで語ったコメントである。二瓶勉とは日本の漫画家で、『BLAME!』や『シドニアの騎士』で知られるSFアクション漫画の名手だ。このコメントからも分かるように、デル・トロは生粋のオタクである。クエンティン・タランティーノを筆頭に、ハリウッドにはオタク的な素養を持つ監督は多いが、デル・トロはその中でも群を抜いている。ハリウッドのSF/ファンタジー映画はもちろん、日本の怪獣映画、ロボットアニメまで、その知識は多岐にわたる。いわばオタク脳の持ち主であり、その個性は映画作りでも存分に発揮されている。映画に出てくるクリーチャーや世界観設定の緻密さ。その異常なほどの作り込みは、まさにオタク的といえるだろう。
しかし、デル・トロが特異な点は、こういったオタク脳を持ちつつ、同時にヒットメイカーとしてのバランス感覚、そして剛腕ともいうべき、映画作家としてのパワフルさにあるだろう。
たとえば本作の脇を固めるキャラクターたちのファッションだ。巨大ロボットのパイロットたちは、いかにもロボットものの主人公的な、かっこいいパイロットスーツを着こんでいる。しかしその一方で、ロボットの管制官はパチューコといわれる1940年代風のファッションをしていたり、怪獣オタクの博士は腕に色鮮やかなタトゥーが入っていたりと、妙にお洒落である。別に全員がミリタリー風でもよさそうなものであるが、こういったポップな要素を忘れず、いうなれば「ロボットもの一見さん」にもしっかり配慮するのがデル・トロのバランス感覚だ。
そして、特筆すべきは思い切った物語構成である。いきなりナレーションとダイジェストで世界観を説明し、有無をいわさぬままロボットの出撃シーンとド迫力の怪獣との激闘で、一気に観客を映画に引きずり込む。「怪獣と巨大ロボが殴り合う」この一点を徹底的に描くために、余計な要素は可能な限り省き—しかし、要所要所でしっかりとキャラを立てつつ—テンポよく話を進めていく。それはまるでシュワちゃんの『コマンドー(85)』やスタローンの『エクスペンダブルズ(10)』などのアクション映画が、「○○が大暴れする」から逆算されて作られているのにも似ている。一見すると大胆だが、極めて合理的な物語構成だといえるだろう。こういったアクション映画は、しばしば「脳ミソ筋肉」=「脳筋」とも言われてしまう。しかし、ときには筋肉で無理やり物事を押し通すような力強さも映画作りには大切である。それは映画的な腕力といってもいい。
抜群のオタク脳を持ちながら、同時に驚異的な腕力も併せ持つ……いうなれば「ムキムキのオタク脳」それがギレルモ・デル・トロの持ち味だ。ニッチなようでキャッチー。理知的な蛮勇。脳筋なオタク脳。本作は日米の特撮に精通したデル・トロの、濃密なオタク的こだわりが楽しめると同時に、映画作家としての圧倒的な腕力を堪能できる作品だ。本作は「ロボットと怪獣」この二つのフレーズにピンと来る人はもちろん、ピンと来ない人をも巻き込むパワフルさがある。まさにド迫力の超大作であり、今回の地上波放送は当代きっての鬼才の手腕を楽しむ、絶好の機会だといえるだろう。(加藤ヨシキ)