2016年F1シーズン、開幕前のテストが終了した。マクラーレン・ホンダで最終日を担当したジェンソン・バトンが記録したタイムは、テスト最終日に13人が走った中で、7番手。ベストタイムだけを見れば、特に目立った成績ではないが、得るものが多い4日間となった。
まず、信頼性が確保されたことだ。1回目のテスト4日間でのマクラーレン・ホンダの周回数は257周。走行距離は1196kmだった。トップのメルセデスが675周(3142km)だから、3分の1程度しか走れなかったことになる。
しかし、2回目のテストではメルセデスが618周に対して、マクラーレン・ホンダは452周と差を大きく縮めた。後半2日間に限れば、メルセデスが最終日にギヤボックスに問題が出てコース上に止まってしまったのに対して、マクラーレン・ホンダはパワーユニットだけでなく、車体も含めてノートラブルだった。ホンダの長谷川総責任者も「最後の4日間は、きちんと走り切ることができて、信頼性を証明できたと思います」と語った。
収穫は、まだある。信頼性を証明したことで、チームとの信頼関係を強化できた。「ホンダがパワーユニットを改善してきたことを、言葉だけでなく、実際の形としてチームとドライバーに証明できたことは大きかった」と長谷川総責任者が語るように、この世界は結果がすべて。パートナーとの信頼関係の強化は、ホンダにとって何よりも得たかったものではないだろうか。
8日間のテストで、長谷川総責任者が得た収穫は、もうひとつある。それはホンダのスタッフへ対する信頼だ。長谷川氏が総責任者に任命されたのは2月23日。すでに今季型パワーユニットRA616Hの開発は終了していた。つまり、長谷川総責任者は自分が実際に開発したわけではないものに対して全責任を負うポジションに就いたわけである。そのパワーユニットで8日間のテストを終え、最大の課題だった信頼性とデプロイに関して、満足のいく評価を得ることができたと、長谷川総責任者は喜んでいた。
「このパワーユニットを開発したスタッフが、信頼に耐えうるメンバーだとがわかったことが率直にうれしい。これから、さくらに帰って、みんなと相談しながら仕事を進めていきたい」
F1マシンも、パワーユニットも、作っているのは生身の人間たち。信頼関係は何よりも重要なエネルギーとなる。マクラーレン・ホンダのスタッフたちは、そのエネルギーを充電した。いざ、メルボルンへ。
(尾張正博/Text : Masahiro Owari)