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人生は何度でもやり直せるーーインド舞台の『マリーゴールド・ホテル』続編が教えてくれること

2016年03月04日 17:31  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)2014 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

 人生は何度でもやり直せる。インドに宿る不思議なエネルギーと、マリーゴールド・ホテルを訪れる人々は、そんな希望を抱かせてくれる。私はインドに行ったことはないが、その活気あふれる空気感と、幻想的な映像美にうっとり飲み込まれてしまいそうになる。


参考:自分と異なる他者を受け入れることはできるのか 『ディーパンの闘い』が描く難民問題と家族愛


 ハリウッド映画とボリウッド映画が融合したような、上品かつエネルギッシュな作品だ。ここに登場する人物のほとんどが、酸いも甘いもすでに多くを知り尽くした年齢であり、ともすると迫り来る命の終わりに悲観的になりそうなところだが、第二の青春をすっかり謳歌し、人生はいくつになっても楽しむことができると証明してくれる。風に運ばれた種が、行きつく場所に行きついて花を咲かせるように、時は進んでいく。もしそんな工程になっているのなら、焦らず騒がず、今をゆっくりじっくり楽しみたい。そんな助言が、今という時を楽しむ彼らから、じわじわと伝わって来るようだ。旅と人生が交錯し、華やかで豊潤な時が、忘れた頃に再び訪れる。 


 この映画は世界各国でスーパーヒットを記録した『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』の第二章である。ただ、たとえ第一章を見逃しても、十分楽しめる内容なので心配ない。ここは若き支配人が経営する長期滞在型ホテル、マリーゴールド・ホテルだ。ただお世辞にもいいホテルとは言えない。若き支配人デヴ・パテル演じるソニー・カプーは経営、事業拡大、自らの結婚に悩み、もがく日々を送っている。そこに第二のスタートを求めるかのように、イギリスからやってきた人たちが滞在する。彼らは皆、肉体は老いているかもしれないけれど、精神は決して老いていない。歳を取ると人は頑固になるし、素直に物事を受け入れにくくなる。でもここに来る人たちは、私はもう歳だからと誰も悲嘆してはいないし、すべてをシャットアウトしたりもしない。自然に身をゆだねている。


 そこには自分の才能を生かせるビジネスチャンスを手に入れたり、ホテルの共同マネージャーとして活躍したり、恋愛に心躍らせたり、またそれに思い悩んだりと、これまでの彼らの道にはなかった、別の新たな自分を楽しんでいる人たちがいる。そう、確かに自分の輝きを手に入れる瞬間はもう訪れないのかもしれないと思っても、新たな場所や人との出会いで、予想だにしないことが起こる可能性は十分にあり得る。


 私自身、旅で人生が大きく変わった。あの時、旅に出なければ、あの地にいなければ、あの人たちに出会わなければ、何も手に入れられなかった、そう思い返すこともある。旅をして、人は人と出逢い、新たなものに触れ、自分を見つめ直すこともできる。そしてそこから、また新たな世界が生まれる。旅に出ると、自分を解放し、流れに身を任せることこそが、本来の自分の活かし方なのではと実感させられることもある。


 マリーゴールド・ホテル。歳を重ねて来た彼らの姿からは、余裕を感じる。ホテルの共同マネージャーとなったマギー・スミス演じるミュリエルの、人生を達観したような最後の言葉が、なんとも魅力的だった。「流れに身を任せたら、人生が楽しくなった。人生、今が一番楽しい」そして、上手くいかない状況にあがく若き支配人ソニーの今を、ミュリエルは俯瞰する。今は若くて気付かないだろうけれど、焦っても仕方がない、自然に進みなさいと。


 私もかつては生き急いでいた。ただ中国で「順其自然」(自然に任せる)、という言葉に出会って変わった。すべては自然の巡り合わせだ、そう思うと気が楽になったし、一つ一つの出来事に、わざわざ悲嘆することもなくなった。人生最後まで、誰も結果なんて分からない。


 旅は、無限であることを教えてくれる。人生この先、何が待ち受けているのかは分からない。今ここでつまらない生活をしていたって、来週旅立つ先で、もしくは自分が歳を取った時に訪れる地で、大きな変化が訪れるかもしれない。


 これは決してありえない夢物語ではない。彼らのような柔軟な心を持ってさえいれば、いつでも人は変われることを示しているのであろう。私ももしこんなホテルが実在するのであれば、今すぐインドに旅立ち、こんな素敵な人生の先輩たちと出逢いたい、そう思った。(大塚シノブ)