2016年03月04日 11:01 弁護士ドットコム
宿泊したホテルで、部屋の窓から墓地が見えてしまった方が、「告知義務はないのでしょうか?」と、Yomiuri Onlineの「発言小町」に投稿しました。
トピ主によれば、目隠しのための塀があったといいます。また墓地とホテルの間(約50メートル)に木々が生い茂っていたため、ホテル側も配慮はしていたようです。しかし、「私は気づいてしまいました」。そう、窓から眼下にひろがる墓地が見えたのです。
フロントで交渉し、問題の部屋のある「新館」ではなく、「旧館」の部屋に案内してもらったそうです。しかし「狭くてボロボロのお部屋でした。トイレは壊れかけてるし、古いので隣の方のトイレの流す音や廊下の話し声とか聞こえてきてなかなか眠れませんでした」。
そこで「こういう場合、告知義務みたいなものはないのでしょうか?」と質問をしています。
小町のレスには、「お墓の何が怖いんでしょうか。生きてる人間のほうがよっぽど怖いですよ」「心根が卑しいですね・・・」などと、トピ主の対応を批判する意見が数多く寄せられました。
トピ主さんは「霊感があるとは言い切れませんが」と断った上で、過去に別のホテルで「夜、廊下でざわざわした感じがあり金縛りにあいました」という経験から、「その時と似た感覚がしたので少し神経質になってしまったのかもしれません」と事情を説明しました。
ホテルには告知義務はあったのでしょうか? 西口 竜司弁護士に話をききました。
(この質問は、発言小町に寄せられた投稿をもとに、大手小町編集部と弁護士ドットコムライフ編集部が再構成したものです。トピ「ホテルの窓から墓地が見えました。告知義務はないのでしょうか? 」はこちらhttp://komachi.yomiuri.co.jp/t/2015/0828/727620.htm?g=15)
A. 「周囲の景観等については告知する義務はない」
「ホテルの部屋」の窓からみえる「お墓」について、ホテル側に告知義務があるのでしょうか? 歴史のある観光地に行けば、そのようなホテルは多数あるように思いますが、今回は法律という観点で考えてみましょう。
まず、ホテルに宿泊することは、ホテルと宿泊者が「宿泊施設使用契約」を結ぶことで成立します。この契約に従い、ホテルはお部屋を提供する債務を負うことになります。つまり、お部屋を提供すればホテル側としてはやるべきことをやったと考えるのが通常です。
そこで、周囲の景観等についてまで告知する義務はないと考えられます。
ところで、一般の「賃貸住宅」「分譲住宅」でも、この種の問題はよく発生する問題です。ホテルの宿泊とは異なり、居住期間が長期にわたるため、告知義務は非常に悩ましい問題となってきます。
墓地は「嫌悪施設」というものに該当しますが、宅建業法に照らしますと、一般的に告知義務はないものです。もしお客様の方から、「近くに墓地がないでしょうか」ということを確認してきたような場合には、法律に従い告知義務を負うことになります。
しかし、賃貸等をするにあたって、現地を見ない人はほとんどいないでしょう。「入居したら、目の前にお墓があった」という問題がそうそう発生することはないでしょう。
とはいえ、長く住み続けるわけですから、取引にあたっては、「大事なことは、相手から告知してくるだろう」と思わず、気になる点については、事情を聞いておく方が望ましいでしょう。
【取材協力弁護士】
西口 竜司(にしぐち・りゅうじ)弁護士
法科大学院1期生。「こんな弁護士がいてもいい」というスローガンのもと、気さくで身近な弁護士をめざし多方面で活躍中。予備校での講師活動や執筆を通じての未来の法律家の育成や一般の方にわかりやすい法律セミナー等を行っている。SASUKE2015本戦にも参戦した。
事務所名:神戸マリン綜合法律事務所
事務所URL:http://www.kobemarin.com/