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RIP SLYMEが語る楽曲制作のスタンス、そしてグループの今後「大事なことはイメージの共有!」

2016年03月02日 21:31  リアルサウンド

リアルサウンド

RIP SLYME(RYO-Z、PES、SU/写真=三橋 優美子)

 リップスライムから新曲が立て続けに到着した。まず2月24日に、J1に所属するサッカークラブ、FC東京とタイアップした「Baile TOKYO」を配信リリース。続いて、3月2日にCDシングル『Take It Easy』を発表。こちらは松山ケンイチ主演の話題映画『珍遊記』と強力タッグを組んだ話題作で、表題曲がオープニングテーマ、カップリングの「Drop!」が同映画のエンディングテーマになっている。昨年9月に通算10枚目のオリジナルアルバム『10』をリリースし、今年3月でメジャーデビュー15周年を迎える彼ら。今回は5人のメンバーの中からRYO-Z、PES、SUの3人に、新曲の制作背景を伺いながら、タイアップとの向き合い方についてもインタビュー。今後のグループの進むべき道についても語ってもらった。(猪又 孝)


・「バカは本気でやれ」(RYO-Z)


ーーリリース順に新曲について訊かせてください。FC東京の応援ソングとなった「Baile TOKYO」は、FUMIYAさんがトラックメイクを担当したサンバ調の楽曲に仕上がっていますね。


RYO-Z:サッカーといえばブラジル、ブラジルといえばサンバだろうという発想がFUMIYAにあったみたいで。先方からもそういうリクエストがあったんですよ。


ーーこれはFC東京のドキュメンタリー映画「BAILE TOKYO」の主題歌にもなっています。歌詞はどんなテーマで作っていったんですか?


PES:サッカーについてはあまり詳しくない5人ですが、「応援」についてはすごくできるんで(笑)、そこに焦点を当てて作ったんです。知り合いにFC東京ファンがいたりとか、周りにはサッカーが好きな人が多いんで助言を頂きながら、スタジアムでチャントとして歌ってくれる感じになればいいなと思って作っていきました。


RYO-Z:「Baile」は、ポルトガル語でパーティーっていう意味なんですけど、相手チームに楽勝な状態、余裕綽々でもうパーティーのように戦えるような試合展開をバイリって言うそうなんです。で、パーティーっていうのは僕らのイメージにも合うから、「Baile TOKYO」っていうタイトルにしようと。それが決まってからは作業が早かったですね。


SU:そしたら、映画のタイトルも、「BAILE TOKYO」にさせて頂きます、って。良かったです、お手伝いができた感じがあって。


ーー続いてリリースされたシングル『Take It Easy』は、どちらもPESさんの作曲。表題曲の「Take It Easy」はどんな発想でつくっていったんですか?


PES:バンドワゴン的な発想ですね。


RYO-Z:ロードムービー感というか。曲調の雰囲気と相俟って、すぐに歌詞のテーマはイメージできたんで、何の迷いもなくサッとできました。


SU:「気楽に行く」っていうテーマは自分たちの実生活にも通じることですからね。歌詞は書きやすかったです。


ーービートの音色は馬がパカパカ走ってる音をイメージして作ったんですか?


PES:デモの段階ではそんなに馬の音にしようとは思ってなかったんですけど、ミックスを終えたら結構ソリッドな音になって、「パッカパッカ」と聞こえるようになったんですよ。


ーーもっとも映画では、倉科カナさん演じる僧侶は、「西遊記」の三蔵法師のように馬に乗ってないですしね(笑)。


PES:そう、歩いてるから(笑)。原作だと馬に乗ってるんですけどね。原作はリアルタイムで読んでたから、原作のイメージで作ってるところが結構あるんです。


ーーイントロの中華風のリフも、原作がモチーフにしている「西遊記」からの着想ですか?


RYO-Z:そうですね。わかりやすくしようっていう。でも無理やりチャイナなんですよ(笑)。「珍遊記」はチャイナな感じがなくてもいいくらいの設定だし。


RYO-Z:でも、映画の完成試写を見たときに、その、いい意味でのなんちゃって感がハマったなと思いましたね。


ーー「Take It Easy」を聴いたとき、そういうなんちゃって感とか、ちょっとお気楽に作ってる感じが初期のリップを彷彿させたんです。映画からのオファーで作った曲だけど、図らずもリップがもともと持ってる飄々とした感じを出す曲になったんじゃないかなって。


RYO-Z:うん。リップらしさは出ちゃいましたね。


SU:映画もそういう感じですからね。真剣に撮られてるんでしょうけど、あんまり真剣にやっててもな、みたいなところもありそうじゃないですか。東映のマークもうんこになってるくらいだし。


PES:あと、作ったのがツアー中だったんで無理なく作れるように意識したところもありますから。移動していくというか、旅してる感じがそのときの自分たちともリンクしてるから、その感じが出たらいいなとも思ってましたし。


ーーカップリングの「Drop!」は、どんなことをテーマに作ったんですか?


PES:「やるぜ、やるぜ」と言ってて、なかなかやらない人たちっていう。昔、イベントのオープンマイクのときに「始めよっか、始めよっか、始めよっか」つってて、始まらないっていうのがあって。


RYO-Z:それ、俺の話じゃねーか(笑)。


PES:そういうフリースタイルをRYO-Zくんがやってて。「それ、いいなー」と思って、そのイズムを注入しようと。


ーー映画も脱線続きで、本当に旅をする気があるのか?っていう内容ですしね。


PES:そう。旅が続かねぇーんだっていう(笑)。


SU:日常生活でもよくあることですからね。「やるやる」と言っててやらないっていうのは。


PES:SUさんはやらないからね(笑)。


ーー「Drop!」というタイトルはどんな発想から生まれたんですか?


RYO-Z:どんな曲にするか話していたときにPESくんに、「ほら、ウンコとか、そういう世界観だから、そういう感じで、ダーン!とか、どかーん!みたいなのない?」って言われて(笑)。「何それ?」って思いながら、じゃあ、Drop da shitみたいなことか……。「あ、Dropでいいんじゃね?」みたいな。


PES:そこで単純に考えると「Yeah! 落とすぜ、落としてるぜ、落とすぜ」って言い続ける曲になるわけじゃないですか(笑)。ライブで4MCがずーっと5分くらい、「落とすぜ! かますぜ!」って言われたら、「もうわかったよ」ってなっちゃうし、そう言われても「今、落とされてる最中なのか、落とされたあとなのか」よくわからないなって。だったら、ずーっと「落とすぜ」って言っといて落とさないっていう曲のほうがいいなと思ったんです。「あ、落とさないんだ」っていうオチがひとつできるからいいなって。


ーー「Drop!」を最初に聴いたとき「FUNKASTIC」を思い出したんです。それに「FUNKASTIC」は、FUNKには悪臭っていう意味があるから、悪臭→ウンコ→便器っていう発想で、ジャケットを便器のデザインにしていた。そこからリンクして、タイトルやテーマを「Drop」にして、曲調も「FUNKASTIC」っぽくしたのかと思ったんです。


PES:違うんですよ。原作はいきなり切なくなる感じで終わるんで、最初はミドルテンポの曲をつくったんです。だけど、「映画のほうはバカバカしく終わるんで、派手な方向で」と言われ急遽もう一曲作ったのがコレなんです。そのときに「FUNKASTIC」みたいな雰囲気がいいって言われて。


SU:だから結果的に繋がったんだよね。そういえば前に俺たちうんこしてるわ、と思って。「FUNKASTIC」は便器をモチーフにしてて、今回はそれをモチーフにして便器にうんこを出したっていう(笑)。


ーー今回のCDのジャケットは「うんち」をデザインしています。これは誰の発案だったんですか?


PES:(ジャケットをデザインした)GROOVISIONSさんと話してるときに出たアイデアで。本当は画太郎先生の絵を使わせてもらえたら、と思ってたんですけど、時間がない中でお願いするのも失礼な話だし、もしOKが出たら使わせてもらいたいということにして。あと、画太郎先生は、漫☆画太郎と名前に「☆」が入ってるから星をモチーフにするアイデアもあったんです。そんなことを言いつつ、モロにうんちにしちゃうとさすがに下品だから、鏡餅みたいなうんちもあり得るんじゃないかとか話してて。


SU:うんこの上の「ひょい」がないヤツって言いながら(笑)。現実のウンコは大抵そっちだから、とか(笑)。


PES:そういう話を大の大人が真剣にミーティングしてたんですよね。


ーーでも、うんちを打ち出してきたところにも初期のリップっぽさを感じたんですよ。うんちっていう馬鹿馬鹿しいモチーフを、適度にナメてる感じを伺わせながらスタイリッシュに打ち出すっていう。リップスライムが持つ、おフザケ感とオシャレ感とトンガリ感の絶妙トライアングル。それを今回のシングルには感じたんです。


SU:まあ、ウンコをデザインしてジャケットにした人はいないでしょうね。


ーーそれを平均年齢40歳のグループがやるか!?っていう。そういう振り切り感とか遊び心も痛快でした。


PES:決して世の中をナメてるわけじゃないんですよ。だってミーティングを重ねてやってますからね。


RYO-Z:うんちだけど、本気も本気だからね。赤塚不二夫先生からタモリさんが受け継ぎ、そのタモリさんから受け継ぐ「バカは本気でやれ」っていうことじゃないですか。


ーーまさに。リップの「小ネタに本気出す性格」が、今回のうんちジャケには出てますよね。


PES:わかります、それ。小ネタに本気出すんですよね、ウチらは。


ーーたとえば5万人野外ライブの「SUMMER MADNESS 03」のときとかね。SUさんが落書きしただけのキャラクターを巨大なバルーン人形にしてアンコールのハイライトで出すっていう。


SU:意味わかんないですもんね(笑)。


RYO-Z:悪ふざけだよなぁ、本当に。


PES:でも、悪ふざけをちゃんとやってるかどうかの自覚ですよね、大事なのは。狙ってるとかじゃなくて、本気でマジメに「ウケる」と思ってやってるから。「いい」と思ってやってないといけないよっていう、そこの自覚はありますね。


・「共感が作家性になっていく」(PES)


ーーところで、昨年出したアルバム『10』は収録曲の約半数がタイアップ曲で、今回の3曲もタイアップ主導でつくられています。タイアップによるものつくりついてはどう思っていますか?


PES:助かりますね。何にもテーマがない状態で作るときって、ゼロから立ち上げることになるから、まずそれを考える時間とミーティングが必要になるんです。特に去年は、楽曲制作に向き合うときに自分たちで煮詰める時間がそんなに取れなかったんでマジで助かったから。そういう話を頂いて作ることになると、グループでひとつになれやすいんですよね。


RYO-Z:テーマが決まっていれば、やり始めて迷うみたいなことがないからね。


SU:大枠があるから、そこからどう詰めるかっていう話をすればいいわけだし。


ーー幅広い業種のタイアップソングを歌うのも特徴だと思うんです。『10』のときも乳飲料、テレビ番組、車、旅などクライアントが種々様々。それはそれで大変なのかなとも思いますが。


PES:大変とは思わないですね。


SU:FUMIYAもPESも、もともと幅広い音楽性だから、むしろ、それを発揮できていいんじゃないかと思いますね。いろんな色が出せるから。


PES:あと、基本的にリップスライムって「みんなで楽しむ」とか「パーティーラップ」みたいなところしか落としどころがないんですよ。何やってもそれになっちゃうし、それが自分たちがやりたいことだから、そうしたほうがいいと思ってるんですけど。でも、いろんなタイアップのお話を頂くと、たとえば車だったら、車にかこつけてパーティーできるとか、「珍遊記」だったらバンドワゴンっていうテーマでパーティーぽい曲が書けるとか、違う角度を無理やり楽しめるっていうのもありますね。


ーータイアップだとラブソングも書けるとか?


RYO-Z:そうなんですよ。放っといたらラブソングなんて書かないですから。自分たちからラブソングっていう発想にならないと思うんですよ。


ーーとはいえ、自分たち発信じゃない「ものつくり」という部分で、タイアップ曲における作家性についてはどう考えていますか? 


PES:作家性ねぇ……。もともとないんですよ、それは(笑)。レコード会社のスタッフとか事務所の人に昔からよく言われてたんです。歌詞のストーリー性がわかりづらいとか、内から湧き出てくるアーティスト性みたいなものが感じられないとか。でも、もともとないんですよ。あと、たとえば「神田川」みたいな曲を4人で書けって言われても、MCが4人いるから人称とか視点を揃えていく時点で難しいっていう。


RYO-Z:ラブソングも基本、そういうことだからね。4人でひとりの女性を愛するってないもん。


PES:そういう曲作りは無理って言っちゃダメなのはわかってるんです。やろうとしてるし、やった曲もあるんですけど、それほど話題になってないということはその手の曲はそんなにパンチがないってことなんでしょうね。だから、作家性がないとは思ってないけど、別にそれを求めてもないっていう。


RYO-Z:要は、一気コールみたいなグループなんですよ。一気コールばっかり作ってるグループっていう(笑)。


PES:ぶわははは! ある意味フィロソフィーがありますよ、そこには。だって、そうしたいんだもん。楽しみたい!っていうことで、ここまで来てるんですから。


RYO-Z:でも、ダンスミュージックってそういうことでしょ?とも思うしさ。


SU:うん、素晴らしい回答が出ましたね(笑)。


PES:曲作りに於いて、ディテールを突き詰めて着地させるのはすごく労力がかかるし、それができたからって世の中の人に響く保証もないですから。それを考えると楽しい方がいいかなって思いますね。今までの経験上、根を詰めて良いことなかったなっていうのもあるし。歌詞はそれぞれ書いてるから、5人でひとつになるのは難しいんですけど、でも、それぞれが与えられたイメージに寄り添うことはできるんで。


ーーグループ名じゃないけど、スライムのように器に対して形をいろいろ変えながら、曲のイメージに寄り添っていくと。


PES:そう。『10』もいろんな人から意見をもらって、みんなで客観的にいじってもらって作った結果、「リップっぽいね」っていう評価を受けた。……ということは、「リップスライム」っていうイメージの共有なんだなって思うんです。FUMIYAのアーティスト性とか誰それの作家性とか、そういうものよりも5人でなんかゴチャゴチャやってるっていうことがいちばん大事で。その中で、各自の歌詞に共感してくれる人がいれば、そこが作家性になっていくんじゃないかなと。たとえばSUさんがラップした《きっとどこかがピタッとハウス》に対して「ここ、すげえ感動するな」っていう人がいるかもしれないわけで(笑)。


SU:あはは(笑)。


PES:それくらいでいいんじゃないかなって思いますね。内からあふれる何かとか、心の中の何かを吐き出そうと思って5人集まったときに「いや、俺、こんな曲やりたいんだよね」とか言っても「はい、カンパーイ」みたいに言われてなくなっちゃう、みたいなのもあるし(笑)。


RYO-Z:「難しい話、なしでー」みたいな(笑)。


PES:「さあ、飲も、飲もう!」みたいになっちゃうんですよ。本当にそうなっちゃうから(笑)。


RYO-Z:だから、突き詰めちゃダメなんです、ウチらは(笑)。


SU:そう。こだわりとか持たないっていうね(笑)。


・「売れたいって思うようになってきた」(SU)


ーー今年3月でメジャーデビュー15周年を迎えましたが、今後の活動についてはどう考えていますか?


PES:ようやくっていうか、いろいろあって、自分たちがやりたいことをより近い距離でお客さんに届けることができるようになったと思ってるので、活動としては充実していくだろうなと思ってますね。


SU:スタッフやレコード会社も含めて、チームとしての充実感はあります。なので、その自分たちの考え方を受けとめてくれる人たちをどれだけ増やせるか、どれだけ大勢の人を楽しませることができるのかっていうことだなと思ってますね。


RYO-Z:SUさん、それ……売れたいってことだよね?(笑)


SU:っていうか、売れたいって思うようになってきた。


PES:ウソ? なってきたの? 


RYO-Z:15年やってきてやっと売れたいと思えてきたんだ(笑)。すごい、すごい。


ーーこれからのSUさんに期待ですね(笑)。


SU:はい(笑)。


RYO-Z:僕らのレコード会社の大先輩、山下達郎さんいわく、メジャーで10年やるのは大変だけど10年やるヤツはわりといる。でも20年やれるヤツはなかなかいない。20年やれたヤツが30年、40年とやっていくだろうと。その20年っていうのが境界線だとすると、あと5年、必死に頑張らなきゃなって思いますね。


ーー『10』のツアーは、キリの良い10枚目ということで、新旧の曲を交えて披露し、Now&Thenというようなテーマになっていました。今回のシングルも初期のリップの匂いを感じましたし、原点回帰というか、一周して、自分たちのチャームポイントをより強く打ち出す方向にシフトしている感じはありますか?


RYO-Z:それはあるかも。今、FUMIYAが作ってるものを聴いてると、結構ヒップホップらしさは出てくるような気がします。


PES:自分たちの良いところを出すっていう。それはありますよね。ヒップホップのアルバムを作ったりとか、ラッパーとコラボするとか、これからの5年はそれぞれやりたいことを真剣にやっていけばいいんじゃないですかね。たとえばSUさんはテレビ番組とかに出てるけど、そういうふうにそれぞれがいろんなところに出ていって「この人、誰なんだろう?」って引っ掛かってもらって、「あ、リップスライムなんだ」って思ってもらえたらいいですよね。


ーー5者5様の活動も並行させながら、リップスライムというグループを転がしていくと。


PES:FUMIYAとも結構話してるんです。自分でビートを作るんだから、セルフオマージュみたいなのもやれるじゃんって。それぞれがどんなことをやりたいのかわからないですけど、これだけの年月やってると、そうやっていってもいろんなことが噛み合ってくるハズですから。体くらいですよ、いろんなところにガタが来て噛み合わなくなってくるのは(笑)。
(取材・文=猪又 孝)