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SCANDALが掲げるバンドの使命「“Rock”のとなりに“Girls Rock”が並ぶ時代を作りたい」

2016年03月02日 15:11  リアルサウンド

リアルサウンド

SCANDAL

 昨年のワールドツアーを経て、年末年始に行われたアリーナツアー『PERFECT WORLD』で、より大きくなったバンドとしての自信を見せたSCANDAL。ニューアルバム『YELLOW』は初の全編メンバー作詞曲となる意欲作であり、シングル『Stamp!』『Sisters』リリース時に感じた新たな表現の幅を更に拡げ、重心がグッと低くなったサウンドにバンドとしての成熟を感じるアルバムである。今年8月に結成10周年を迎え、バンドとして新たな道へと向かおうとしている4人に話を訊いた。(冬将軍)


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■「今の自分たちで海外からの影響を噛み砕いて、ちゃんと邦楽に出来た」(RINA)


ーー『YELLOW』は全編メンバー曲で構成された初めてのアルバムになったわけですが、そのようなコンセプトの元で制作されたのでしょうか?


MAMI(Gt, Vo):元々「全部自分たちの作詞作曲のアルバムを作りたいね」という話はしてたんですけど、具体的にこのタイミングで、ということを考えていたわけではないんです。ただ、この2~3年で曲作りに対するモチベーションがグっと上がって。出来ること、やれることも増えたので自然と曲たちも集まっていったんです。アルバムに向けて作った曲もあるんですけど、一昨年に出来上がっていた曲も入れたり、時期はバラバラなんです。


ーー前作『HELLO WORLD』のときに、洋楽的サウンドに向かった変化を感じたんです。今作ではその傾向をより強く感じました。制作の過程でそうした意識や試みはあったのでしょうか?


HARUNA(Vo, Gt):この1~2年で受けた洋楽からの影響というのもありますし、ワールドツアーをやったことも大きいです。サウンド面では色んな国の音楽を取り入れたいというのがありました。逆に歌詞は日本語の持つ美しさを尊重して、両方の良さをミックスして作りました。レコーディングは海外アーティストを聴いて「この音はどういう風にレコーディングしてるんだろう」ということを意識しながら音作りをしましたね。内心「海外でレコーディングしたいなぁ」という気持ちもありつつ(笑)。サウンド面でも明確に自分たちから発信できるようになりました。


RINA(Dr, Vo):『HELLO WORLD』からそういう意識が強くなってきて。今回4人で作ったことで、より今の自分たちで海外からの影響を噛み砕いて、ちゃんと邦楽に出来たと思います。レコーディングに関しても具体的に今までと違うことをやったことがいくつかあって。真冬にスタジオ内の気温をグッと下げて、湿気を無くした状態で録ったり。「LOVE ME DO」のドラムは全部単音で録っていったんです。スネアだけフルコーラスで録って、キックだけでフルコーラスで、というやり方をしました。他のマイクを全部オフにして、一音一音ダイナミックに録っていく。それによって、よりクリアに録れるようになったり。そうした今出来る技術を駆使して録ったものと、4人で一発録りというアナログな作り方をしたものを対照的に1つのアルバムに入れている、というのはこのアルバムのサウンド面での特徴でもあります。


ーートム・ロード・アルジやジェフ・ボールディングといったグラミー賞エンジニアをはじめ、マーク・ガードナー(ライド Vo, Gt)など、海外のそうそうたるエンジニア&プロデューサーがミックスを手掛けてますね。


RINA:そういうエッセンスを入れるのなら、「本物とやるべきだ!」という思いがあったので。そこはこだわりました。


ーーブレイクやキメだったり、アンサンブル的な面白さもSCANDALの魅力だと思うんですけど、そういったリズムのバリエーションを見せる楽曲が多いですね。


TOMOMI(Ba, Vo):リズム的なチャレンジはいろいろやりましたね、レゲエ、モータウン、スカパンクっぽいもの……。


ーー印象的なリズムの曲「LOVE」はTOMOMIさんの詞曲です。


TOMOMI:今まで私たちのラブソングはわりとビターな感じ、「別れ」みたいなものが多かったんですけど、円満なものを書いてみようと作り始めたんです。いろんな経験をして、やっと「この人なんじゃないか」という人を見つけて、というような……。とは言え、情熱的になりすぎず、日常的でニュートラルな恋愛ソングが書けたと思います。レゲエ、ロックステディ寄りなリズムにもチャレンジした曲でもあるので、長く演れる曲になったんじゃないかと思います。


ーーアリーナツアーでも初披露された「SUKI-SUKI」もリズムや展開が特徴的ですが、ライブでは音源とは違うアレンジで演奏してたのが印象的でした。


RINA:はじめてライブで披露するのに、いきなりライブアレンジでやったんですよ(笑)、ベース始まりでね。


TOMOMI:誰もライブアレンジなんて気付かない(笑)。


ーー「音源とライブは別物」という、ライブバンドらしい姿勢だと思います。


MAMI:自分たちでそういうことを選択できるようになったと思います。今の気分でやりたいものをチョイスして、それをやって正解だったと判断できるようになりましたね。


ーーこの「SUKI-SUKI」はMAMIさんの詞曲ですね。


MAMI:去年の夏に原型があった曲なんですけど、完成させずにちょっと1回横に置いておいたんです。でも、みんなが「この曲良いからやろうよ」と言ってくれて、アルバムに入れることにしました。私は冬が好きなんですけど、他の3人は夏派なんですよ。だから「冬だって開放的な季節なんだよ」という楽しさを知って欲しくて歌詞を書きました。冬は1年を通して溜まったものをリセットしてくれる季節だと思っていて。クリアになった心でいろんなものを吸収して、春を迎える。縮こまりになりがちな季節なんですけど、もっと冬を謳歌して欲しいなと。どんな季節でもそれぞれの楽しみ方を知ってる人って、すごく素敵だなと思うんですよね。だから、冬に限らず、その季節ごとの楽しみ方を自分で見つけて、毎日を楽しめるといいなと思って書きました。


ーー「ヘブンな気分」は90’sオルタナティヴ・ロック直球でインパクトのある曲です。


RINA:これはアルバム制作の後半に出来た曲なんですけど、楽曲の並びを見たときに、ポップな曲は出揃ってる印象があったので、思いっきりカッコイイ曲を作りたいと思って書きました。ちょうどその頃、NIRVANA、MAD HONEY……王道のグランジをよく聴いていたんですね。それくらい解りやすく歪んだ音と、「ヘブン」というワードから進めていきました。ワールドツアー後にトルコの音楽祭『ABU TV ソング・フェスティバル 2015』に出演させていただく機会があったんですけど、イスタンブールのアジアとヨーロッパが入り交じった不思議な雰囲気、良い違和感の中で過ごして、イメージが膨らんで出来上がっていきました。セクシーなボーカルと思いっきり歪ませたギターがポイントの1曲です。


ーーHARUNAさんは曲によって歌い方を変えたりしてますね。


HARUNA:「LOVE ME DO」はサビのファルセットが肝になっているんですけど、自分のボーカルスタイルとしてのチャレンジもあった曲ですし、80年代のアメリカンポップスを思わせる曲をガールズバンドがやる、ということがすごく面白いなと思っていて。歌詞もキュートでちょっとせつないラブソング。さっき、TOMOMIも言いましたけど、幸福感のあるラブソングって、あまり歌ってこなかったので、そこも今回のアルバムのポイントのひとつかなと思います。


■「ちゃんと落ち着いて息を吸えるようになったとでもいうか、良い意味でラフな感じ」(HARUNA)


ーーワールドツアーを経て得たものも大きかったと思うのですが、その後リリースした「Stamp!」「Sisters」という今までなかったタイプのシングル曲や、ナチュラルになったビジュアル面などにバンドの変化が見られて。


TOMOMI:自然な流れで、自分たちの現在のモードなんですね。デビュー当時の私たちで居続けるのは難しいと思いますし、続けるには変化も必要ですし。自分たちが今やるべきこと、やりたいことを押し出して表現するとこうなった感じですね。でも、解らないんですよ、今後は(笑)。またデビュー当時みたいなスタイルに戻るかもしれないし、全然違う方向に行くかも知れない。自分たちでも今後どうなっていくか分からないから楽しみですね。


MAMI:ワールドツアーを経験して、バンドの自由度が増したというのはあります。「肩の力を抜いた状態でいよう、こっちのほうがいいな」という気持ちになれて、それがちゃんとアルバムに反映出来たと思いますし、そういうモードでアリーナツアーも周れました。今まではアリーナだと記念にすることも多かったので、衣装や舞台のセットだったり、気合いを入れていたんですけど。でも今回は「ライブハウスでやる感覚でアリーナでもやりたいね」と話していたので、すごくシンプルに。バンドの現在のモードとして、一つの核が出来たなと思っています。


RINA:デビューしたときから、守備的なバンドではないなと思っていて。今、世界的に見ても、こういうハッピーなロックが足りてないと思うんですよ。だから、私たちの現在の攻めの姿勢というのが、こういうサニーサイドなもの、というだけなんです。力んで、気合いを入れてデビューして、まっすぐに解りやすくマイナー調のロックをたくさんやっていた時代があって。そこから少しずつナチュラルに、リラックス出来るスタイルに変わっていった……。いろんなことを経て、そのときにやるべきことを見い出してきたんです。どの時代でも自分たちのベストを出してこられたと思っています。1年に1枚のアルバムを毎年欠かさずに作ることができたので、その1年のモードというものを伝えられているはず。だから過去の楽曲もすごく好きだし、いろんなサポートを受けて出来上がったものですし、その曲たちにすごく影響を受けて、今の自分たちがある。すべてが延長線上にあると感じています。


ーー今年2016年8月に結成10周年を迎えますが、これからのことを含めて今の心境はどうでしょうか?


HARUNA:自分たちの大事な年に、こうして自分たちだけで作ったアルバムをリリース出来ることがすごく嬉しいです。普通のバンドから見たら、10年かけてそこにたどり着くのは遅いのかもしれないけど、自分たちは着実にいろんな経験をしてきて、やっとここまで来れたと思っているので、これをきっかけにいろんなことにチャレンジしていきたいなと。まだまだ先は長いと思っているので。これからのことは、自分たち自身がすごく楽しみですね。


RINA:長く続ける秘訣は、緩さだなと思っていて。ネジを思いっきりギュっと締めてから、いい具合に緩める。今まさにその時期で、1回締めたからこそ、いい緩さが出せるんです。そういう余裕があるのとないのとでは、未来の長さが全然違うと思うんですよ。本当に楽しいと思いながら、ずっと続けて行きたいです。


ーー結成経緯含め、通常のバンドとは少し違った道を歩んできた部分もあるからだと思うのですが、バンドや音楽に対する姿勢や考え方が他と良い意味で少し違ったりすることもあって、興味深く思ってました。柔軟だし実直、ピュアというか。時折ハッとさせられることが多々あったんですよ。数年前「バンドが解散したり、メンバーが脱退する気持ちが解らない」というようなRINAさんの発言が印象的で……。


RINA:……尖ってましたね。


一同:(大笑)


ーーそういう言葉が、サラっと出てくることが素敵だなと。


RINA:ガールズバンドって、短命だと言われていて。その理由も自分たちで解るんですけどね。やっぱり、女性としての生き方を全うしつつ、長く続けるのがカッコイイんですよ。今、ZELDAの活動歴17年(1979~1996年)がギネス記録なんですけど、そこを更新出来るように頑張りたいんです。生半可な気持ちじゃ無理だと思うんですけど、アイデアを途絶えさせることなく、常に「目を離したくない」と思わせるバンドであり続けたいなと。


ーーバンドのモチベーション含め、すごくいい雰囲気ですね。


HARUNA:すごく開放的ですよ、今。これまでは結構、肩肘張ってきましたけど、ちゃんと落ち着いて息を吸えるようになったとでもいうか、良い意味でラフな感じです。今後もこういう気持ちでずっとやって行きたいですね。


TOMOMI:こうなりたいな、という目に見えるようなものがないんですよ。ただ、ライブハウスでやっても、アリーナでやっても、いつも変わらない自分たちがステージ上にいるバンドでありたい。そのときの自分たちのモードとか、その時代に合った音楽をのんびりやり続けられたらいいなと思います。


RINA:それと、ガールズバンドというジャンルをもっとポピュラーなものにしたいというのは強くあります。そこに対しては使命感みたいなものもあるんです。「ガールズバンドが男性バンドより劣っている」というようなイメージや意識があるのはもったいない。私たちはガールズバンドと括られることに誇りを持っているので。海外に出るとよく解るんですけど、日本独自の文化でもあって、こんなにたくさんガールズバンドが活動している国は他にないんです。だから日本からこのムーブメントをもっと拡げていきたい。時間は掛かるかもしれないけど、“Rock”のとなりに“Girls Rock”が並ぶような時代を作ることが出来ればいいなと思ってます。