2016年03月02日 12:01 弁護士ドットコム
ソフトバンクグループは2月中旬、発行済み株式の14.2%に当たる1億6700万株、金額でいうと5000億円を上限とする過去最大規模の「自己株式の取得」を取締役会で決議したと発表した。
【関連記事:「穴あきコンドーム」で性交した男性がカナダで有罪に・・・日本だったらどうなるの?】
取得期間は2月16日からの1年間。取得の理由については「経営環境の変化に対応した機動的な資本政策を遂行するため」としている。
同社は昨年8月にも取得株数2000万株、取得総額1200億円を上限とする自己株取得を発表している。報道によると、当時、孫正義社長は記者会見で、同社の株価が「実力に対して安い」との認識を示し、自己株取得は「経営陣の株価に対するひとつの意思表示」と強調していた。
株式というと、資金を集めるためにさまざまな人に買ってもらうことを想定していると思えるが、自分が発行した株式を自分で購入する「自己株式の取得」という行為は、どういう意味があるのだろうか。企業法務に詳しい古金千明弁護士に聞いた。
「上場企業が自己株式(自社が発行した株式)を取得する目的は、いくつかありえるのですが、株主に対する還元や株価対策を行うことを目的とする場合が多いでしょう。
古金弁護士はこのように指摘する。具体的にはどういうことだろうか。
「企業は、株主に対して、配当によって『還元』することが通常です。一方で、自己株式の取得も、その株式を企業に売却することになる株主との関係では、株主から集めた資金を株式代金という形で返還するという点で、株主に対する『還元』といえます。
また、企業価値に比べて株価が低く評価されている場合には、企業が自己資金を用いて自己株式を取得することで、市場に流通する株式数が減りますので、需要と供給関係から株価が上昇しやすくなります。
上場企業が自己株式を取得すると発表することは、『自社株が割安な水準』にあることを投資家に示すことになりますので、投資家に対するアナウンス効果も期待できます。
全ての株主から株式を買い取るわけではないのだから、「還元」の利益を受ける株主は一部に限られるのではないのか。
「そうした指摘は以前からあり、企業による自己株式の取得はかつて、原則として禁止されていました。
株主への『出資金の払戻し』と同じ結果になるので会社の債権者の利益を害するとか、一部の株主から株式を取得することになるので株主間の不公平となるといったことが理由です。
しかし、主に上場企業の資本効率を高める等の財務戦略上の観点から、自己株式の取得の規制緩和を求める声が強くなり、2001年と2003年の法改正により、規制が緩和されました。
その結果、上場会社においては、市場取引や公開買付の方法による自己株式の取得について、定款の定めがあれば、取締役会の決議により自己株式が取得できることとなりました。
今回のソフトバンクの自己株式取得は、この方法によるものです」
今回の自己株式の取得には、どんな意図が読み取れるだろうか。
「今回のソフトバンクの自己株式取得は、最大5000億円、発行済株式総数(既に取得している自己株式を除く)の約14.2%にもなる大規模なものでした。そのため、自己株式取得を発表した翌日のソフトバンクの株価は、前日比約16%高のストップ高となりました。
その結果、時価総額は前日から8400億円増加し、『株価対策』としての効果が遺憾なく発揮されたといえるでしょう。株価は投資家による企業の評価のあらわれであるといわれます。
自己株式取得が発表された2月15日の前営業日である2月12日時点のソフトバンクの時価総額は約5兆円でしたが、これは、ソフトバンクがスプリントを買収する前よりも低く、さらには、ソフトバンクが保有するアリババ株式の時価評価額(約6兆3000億円)を大きく下回っていました。
要するに、株価だけをみれば、投資家は、スプリント買収によってソフトバンクの企業価値がディスカウントされていると、評価していることになります。
2010年に発表されたソフトバンクの新30年ビジョンによれば、2040年に時価総額200兆円を目指すと孫社長は公言しています。このような『割安』の評価には甘んじることはできないと思われます。
そこで、マーケットに対して、ソフトバンクとして、企業の成長可能性についての強いメッセージを送るためになされたのが、今回の『大型』の自己株式の取得であったと推測されます」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
古金 千明(ふるがね・ちあき)弁護士
「天水綜合法律事務所」代表弁護士。IPOを目指すベンチャー企業・上場企業に対するリーガルサービスを提供している。取扱分野は、企業法務、労働問題(使用者側)、M&A、倒産・事業再生、会社の支配権争い。
事務所名:天水綜合法律事務所