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さびしい独り寝も5年目...単身赴任先についてこない妻に「離婚」をつきつけたい

2016年03月02日 11:42  弁護士ドットコム

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家族と離れ、ひとり遠くの土地へ...「単身赴任」の経験者からは、「さみしくて精神崩壊しそうだった」などの声がネット上で散見されます。いずれ家族と同居できると思えば、さみしさも我慢できるかもしれません。ただ、同居する家族にも、同行できない様々な事情があります。


弁護士ドットコムの法律相談コーナーに相談を寄せたある男性は「いつまでたっても妻が赴任先にこない」と嘆いています。「5年前から地方に単身赴任している」という男性。赴任当初、妻は「1年後にそっちに行く」と言っていたそうですが、「仕事を辞められない」などと理由をつけ、結局、単身赴任生活は5年も続いているそうです。


妻も働いており、男性の転勤生活が何年続くかも不明なため、妻側にも言い分はありそうです。しかし、男性は「夫婦を続ける意味が分からない。このまま別居が続くなら、離婚も考えたい」とまで考えるようになりました。


離婚の話し合いが夫婦間でまとまらない場合、調停、裁判で決着をつけることになります。夫の単身赴任先に妻がついてこないという理由で、離婚が認められる可能性はあるのでしょうか? 澤藤亮介弁護士に詳細な解説をしていただきました。



A.  「正当な理由」がない別居は、離婚理由にあたる可能性あり


夫婦には同居義務があると法律に明記され、協力義務や扶助義務とともに夫婦が負うべき義務とされています。それらの義務の中でも同居は、結婚生活における本質的な要素と考えられています。


ただし、夫婦が別居している場合でも、「正当な理由」があれば、同居義務違反になりません。具体的にいうと、①「別居について夫婦が合意している場合」や、②「別居がやむを得ない場合(単身赴任や長期入院など)」です。①、②でもない「夫が妻に無断で自宅を出て、愛人と暮らし始めた」や、「妻が、結婚後も何らの理由もなく実家で生活をしつづける」などは、同居義務違反になると言えます。


これらは、民法に定められた五つの離婚理由の中の「悪意の遺棄」(正当な理由なく同居義務、協力義務、扶助義務を果たさない)にあたる可能性があります。その上で、虐待して追い出したなど、「社会通念上、倫理的な非難を受けて当然の行為」とまで言えて初めて「悪意」のある遺棄となります。


実際の裁判では、同居の有無だけでなく、婚姻期間や別居期間、別居に至った理由など、他の事情も踏まえて、総合的に判断されます。必ずしも「同居義務違反あり→離婚理由あり」とはなりません。


ご相談者の妻が単身赴任中の夫と同居しないのは、先述の②「別居がやむを得ない場合」に含まれ、「正当な理由」があります。


また、妻の「仕事を辞めたくない」という理由も、現在の日本では、夫と妻の仕事に優劣はなく、夫の転勤に従う義務はないと考えられます。妻には正当な理由があるといえますから、同居義務違反にも離婚理由にもあたらないと判断されるでしょう。ただし、その状況がさらに長期間続くようであれば、別の離婚事由である「その他婚姻を継続し難い重大な事由」があると判断される可能性はあります。


「結婚生活の形」は多種多様です。しかし、自分が考える夫婦像や男女のあり方にこだわり、相手に押しつける人は少なくありません。離婚に至る大きな要因の一つなのでは、と多くの離婚事件を担当させていただく中で感じております。


結婚という枠組みに甘え、相手に自分の価値観を押しつけることなく、むしろ、油断していると離婚に至るかもしれないという一定の緊張感も持ちつつ、お互いの価値観や考え方を認め合えれば、たとえ別居をしていてもいい夫婦関係を保てるのではないでしょうか。




【取材協力弁護士】
澤藤 亮介(さわふじ・りょうすけ)弁護士
東京弁護士会所属。離婚、不倫問題、労働問題などを中心に取り扱う。iPad、iPhoneなどのデバイス好きが高じ、事務所内の事件資料や書籍の全面データ化等、ITをフル活用して業務の効率化を図っている。日経BP社『iPadで行こう!』などにも寄稿。
事務所名:新宿キーウェスト法律事務所
事務所URL:http://www.keywest-law.com/