トップへ

WANIMAが驚異的動員を達成した理由ーー石井恵梨子がバンドの成長と“夢の大きさ”に迫る

2016年03月01日 22:22  リアルサウンド

リアルサウンド

写真=Yuji Honda

 満員御礼。ツアーファイナルとなる今回のZEPP Diver Cityのみならず、2日前にSTUDIO COASTで行われたセミファイナルも超満員だった。言うまでもなく、この2箇所は都内で有数の大型ライブハウス。昨年4月に行われた1stミニ・アルバムのツアーファイナルはO-WEST、同年夏のツアーファイナルは渋谷クアトロだったのだから、この短期間でどれだけの飛躍力か。初のフルアルバム『Are You Coming?』が破格のセールスを記録したあと、彼らが手にしたのは驚異的な動員であった。


 だがこれがピークとは思えない。2階の立見席まで埋まったZEPPだが、1階フロアに降りてみれば後方は案外余裕がある。そのぶん前方がとんでもない密度になっているのだ。腕組みして様子を見るクールくんがいない。とりあえず連れて来られたボンヤリさんもいない。みんな全力でWANIMAに飛びつき、それがすべてのエネルギーだと言わんばかりに顔を輝かせている。もはや「ノッている」なんて言葉では語りきれない光景だった。もう全員が「完全にどうにかなっちゃってる」感じ。こういう景色をライブハウスで見たのは何年ぶりだろう。凄い。凄すぎる。


 若き日のKO-SHIN(ギター&コーラス)とKENTA(ボーカル&ベース)が憧れてコピーしたというモンゴル800。ゲストで登場した彼らが、MCで客席の年齢層リサーチをしてくれた。上がった手の数を見たところ、10代が3割、20代が5割、30代が2.5割か。もちろん40代もいるし両親に手をつながれた幼児や小学生もいたのだが、特筆すべきは圧倒的多数を占める10~20代のエネルギーだ。ぴかぴかの肌に汗を滴らせ、衰え知らずの体力をステージにぶつけ、何度でも訪れるカタルシスに拳を突き上げる。目に涙をためて抱き合う女子たちも多数。思い思いの感情を爆発させる姿はなんとも美しいが、同時に小さな疑問も浮かぶ。えーと、若者ってロック離れしてるんじゃなかったっけ?


 実態は知らない。30代後半の私は週刊誌やネットに転がる話を流し読む程度だ。いわく、若者は音楽に価値を見出さない。熱苦しいロックサウンドよりも、まだアニソンやボカロのほうが親しみやすい。ネットが出会いの場だからSNSでの協調性が大事。空気を読まずに悪目立ちするとアウト。さらには酒もタバコもやらないのが普通で、セックスにもあまり興味がない。身の丈に合わない大きな夢を語るのは格好が悪い……。こういう「今どきの若者像」がどこまで本当かはわからないし、そういう枠からハミ出るやんちゃ者こそがライブハウスに集まるのかもしれないが、ただ、それにしてもズレがありすぎる。(いわゆる)「今どきの若者」の価値観と、WANIMAが歌っている夢の大きさは。


 覚えやすいメロディと爽やかなハーモニーを持つ、すこぶる陽気なメロディックパンク。演奏する前から満面の笑みで客席を煽りまくるKENTAは、歌い手としてどうという以上に、まずキャラクターが最高だ。「ワンチャン(=一夜のセックスのチャンス)狙いにきましたー」「どんな女の子でも抱けます」などと言いながらも下劣ではなく、細かいノリツッコミを交えながら客をどんどん沸かせていくトークの上手さ。喜々としてモノマネを披露するFUJI(ドラム&コーラス)、話すのがとにかく苦手なKO-SHINは、KENTAのトークの見事な「オチ」であるというバランスの良さ。音楽が好きになって、キャラも好きになって、メンバーの笑顔に歓声が上がる。そういう意味ではほとんどアイドル的な受け入れられ方だが、それも嫌味なく似合ってしまうのがKENTAの才能だろう。屈託なし。常にビッグスマイル。言動も音楽も最高にハイテンション。まったく、太陽みたいに眩しいな。


 が、本当にそれだけだろうか。後半に披露された「雨あがり」。そのイントロが鳴った瞬間、私の近くにいた女子が感極まって泣き始めた。間奏に入るタイミングで、KENTAは「毎日毎日おつかれさーーーーん!」と叫んでいた。そんな「雨あがり」の歌詞、歌い出しは以下である。


〈不安で胸いっぱいで 狂うくらい悩んで 涙拭いて耐えて〉


 何だこれ、と思う。陽気すぎて脳天気にも見えるWANIMAの歌は、その裏に不気味なくらいの痛みを感じさせる。太陽みたいなKENTAの眩しさは、きっと闇の深さの裏返しだろう。本編ラストの曲となった「また逢える日まで」にも〈諦めないでどうか耐えて〉というくだりがある。ここでもまた〈耐えて〉だ。〈諦めないで〉だけなら誰でも歌えるが、そのあと〈大丈夫〉と楽観できず、〈どうか耐えて〉と書いてしまうのは、本当に何かに耐えてきた人だけだろう。


 そして、ファンは雰囲気で楽しくなってクラウドサーフを繰り返しているわけじゃない。全曲の歌詞を合唱しながら拳を上げ、同時に目を潤ませてませているのだ。傍から見れば若者たちのお祭り騒ぎかもしれない。でもそこには、こんなにも切実なリアリティがある。同世代の同調圧力に耐えながら、上の世代から「草食化」なんて言葉で一蹴されている今の若者たちのために、「毎日おつかれ」を叫んでくれるKENTAがいるのかもしれないと、この日初めて感じたのだった。


 もっとも、ライブは慰みの場ではないのだし、そんなシケたことをしたくてバンドをやっているわけじゃないと、WANIMAは全力で主張している。印象的だったのは「いいから」。まさにワンチャン、ビッチとの一夜限りのセックスをストレートに歌った一曲だが、こんな歌詞でよくもまぁと呆れるくらい女子たちも盛り上がるのだ。この場においてセックスという単語に意味はない。〈いいから気持ちよくするから〉〈嫌な感じ無し 好きな所だけ〉〈気分が乗ったら笑ってる〉などの歌詞は、そのまま「この現場の歌」として響く。その証拠に、KENTAは曲間でこう叫んだ。「気持ちいぃ~~~!」。ワンチャンよりも、このライブが、この瞬間が何より気持ちいいのだと、その表情が雄弁に物語っていた。もちろんフロアも同じだ。この瞬間はすべてを吹っ切って、ただ「気持ちいぃ~!」だけの何かになってしまいたい。その裏にはきっと、嫌な感じだらけの日常がへばりついているのだ。それをわかってくれるバンドだから、WANIMAが必要。ビッグスマイルでビッグドリームをぶち上げるこのトリオこそがみんなの太陽なのだろう。「いいから」のような曲でこんなことを真面目に考えるのもアホらしいと自分を笑いつつ、でもそこには、バンドとファンたちの切実な願いがあったように思えるのだ。


 ドーン!と、まずは楽しいことがやりたい。文字にすると馬鹿みたいだが、本当にそれだけのトリオである一一と、アルバム『Are You Coming?』登場時の原稿に書いた。今も間違いではないと思うけれど、正解でもなかったなと反省している。なぜそこまで「ドーン!」の爆発力を欲しているのか。なぜ楽しいことをやりたいのか。その背景を想像しないと、なぜ今WANIMAのライヴにこれほどの若者が集まってくるのかがわからない。とにかく楽しいから、とりあえず曲がいいから。それだけでは全然ないのだ。これからさらに増えそうな動員、ライヴバンドの実力や体力も含めても、まだまだピークは後だ。そんな確信と強い期待を込めて、これからも追いかけていきたい。(文=石井恵梨子)