トップへ

ジェフ・トゥイーディが明かす、良質な音楽を作り続ける秘訣「お互いのスペースを尊重すること」

2016年03月01日 22:22  リアルサウンド

リアルサウンド

トゥイーディ

 シカゴを拠点に活動するロックバンド、ウィルコのフロントマンであるジェフ・トゥイーディが、18歳の息子スペンサーと結成したトゥイーディ。彼らの初来日公演が3月、東京と大阪の2カ所で行われる。


 もともとトゥイーディは、ジェフの“初めてのソロ・プロジェクト”としてスタートしたもの。それが、デモレコーディングをスペンサーのアシスタントにより進めていくうち、いつしか親子デュオのカタチになったという。スペンサーがドラムを叩き、その他の楽器をジェフがほとんど一人で演奏して作り上げた、14年リリースのファーストアルバム『スーキーレイ』は、ヒネリの効いたコード進行に「ジェフ節」としかいいようのないヴォーカル&メロディが乗った、シンプルなバンドサウンドだった。これは02年にジェフが、ジム・オルーク、グレン・コッチェ(ウィルコのドラマー)とともに結成したルース・ファーにも通じる部分がありつつも、こちらはもっと密室的な響きだ。アルバムタイトルは、ジェフの妻スーザンの愛称である「スーキー」をもじったもので、インナースリーブにはトゥイーディー家の写真をあしらっていたり、歌詞は「夫婦愛」や「親子愛」をテーマにしていたりと、非常にパーソナルな仕上がりとなっている。


 それにしても、幼い頃からグレン・コッチェの手ほどきでドラムを始め、7歳でザ・ブリスターズを結成するという、スペンサーの実力たるや驚くばかり。そればかりか、ファッション・ブロガーとしてカリスマ的な人気を誇るタヴィ・ジェヴィンソンとともにウィルコのPVを製作するなど、音楽以外の才覚も表しているのだから末恐ろしい。来たるトゥイーディの来日公演は、6人組のバンド編成でおこなわれるというから楽しみだ。


 ウィルコとしては、昨年7月に通算9枚目のアルバム『スター・ウォーズ』を、プロモーションもなく突然の無料配信したジェフ。04年の5作目以降、最新作『スター・ウォーズ』まで5作連続でグラミー賞にノミネートされ、また前作『ザ・ホール・ラヴ』より自主レーベルdBpmからのリリースとなったこのアルバムは、グラムやガレージ、ハードロック色の強いサウンドが印象的だった。そんな彼に、トゥイーディのこと、家族のこと、そしてウィルコのことについて聞いた。(黒田隆憲)


・「(『スーキーレイ』は)家族との時間をたくさん費やして作り上げていった」


ーーもともとトゥイーディは、ソロ・プロジェクトとしてスタートしたものだと聞きました。これまで「ソロ」としての音源が一度も出ていなかったこと自体が意外だなと思うのですが、このタイミングでソロ音源の制作に取り掛かった理由は?


ジェフ(以下J):ソロ・プロジェクトは数年前から頭にあったんだ。ウィルコではもちろん自分のやりたいことは出来ていたんだけど、俺はウィルコのメンバーの中で唯一、ソロとしての活動をしていなかった。だから全て一人だけでやるっていうのはとても自由で面白そうだと思ったんだよ。


ーースペンサーにはデモの段階からかなり手伝ってもらっていたそうですね。


J:スペンサーの意見はとても尊重しているし、彼の音楽的感性は素晴らしい。けど今回は、どちらかというとサポート役として色々尽くしてもらったよ。ドラムは全部彼がやったんだ。俺のアドバイスなんてほとんどなしでね。スペンサーには音楽を始めた当初から才能を感じたし、スキルはもちろん、何よりもその成長過程で彼が自信をつけていくのを見るのが、俺にとってはとても嬉しかった。


ーーファーストアルバム『スーキーレイ』は、楽曲のテーマはもちろんタイトルからアートワークに至るまで、かなりパーソナルな内容となりました。この構想は、スペンサーが入る前から決まっていたのでしょうか。


J:そうだね。妻が病に冒されているということが分かってから、この作品は「家族プロジェクト」になった。妻の癌治療と作品の制作が同時進行で行なわれ、ツアーもちょうどなかったこともあって、家族との時間をたくさん費やして一緒に音楽を作り上げていったんだ。いい意味で気も紛れたし、家族みんなにとってよかったんじゃないかな。妻と下の息子サミーは完成までの制作過程をずっと見てきて、たくさんのサポートをしてくれた。完成したアルバムには疑いの余地は何もなかったよ。妻はもちろん、みんなすごく気に入ってくれたんだ。


ーー今は奥様の状態も安定していますか?


J:ああ、順調だよ。


・「なるべく毎回同じような方法にならないことを心がけている」


ーーいつも曲を書くときは、ウィルコ用の曲、ソロ用の曲っていうふうに明確に分けているのでしょうか。


J:いや、分けて書いているわけではないんだ。その都度、その時にやっている音楽プロジェクト、ウィルコだったりトゥイーディだったり、他のアーティストのプロデュースなどのために曲を書き、その状況に応じた曲が出来上がっていく。


ーー歌詞はどのようにして作っているのでしょうか。ウィルコのときは、古典文学からの影響があったり、「優美な屍骸(シュルレアリスムにおける、作品の共同制作法)」を用いたりすることが多いと聞きました。


J:そのやり方ではもう書いてない。大抵は浮かんだメロディに、まず適当な言葉をつける。その後、メロディを損なわないような言葉を頑張って見つけていくんだ。ただ、これも数ある一つのやり方であって、なるべく毎回同じような方法にならないことを心がけているよ。


ーー今作の収録曲「Low Key」では、“常に感情を出さないようにしてきた、興奮したとしても、誰にもわからない”と歌っています。ジェフ自身もそういう性格ですか?


J:うん、そうだね。この性格はもう、DNAに刻まれているとしか言いようがないな。まあ、俺よりもっとストイックな人は沢山いるとも思うけど。


ーーそれから「Slow Love」では、“ゆっくり着実な愛こそ唯一の愛”、「Where My Love」では、“君が年をとって鈍くなっていくのを見つめていたい”とも歌っています。これは、奥様に向けた歌ではないかと思ったのですが、これまでの夫婦生活を振り返ってみて、どんなことが思い浮かばれますか?


J:こんなにも強くひた向きな女性と出会えた自分は、とても幸せだと思うよ。


ーー「Pigeons」は、息子スペンサーに向けて書かれたと思うのですが、子育てにおける哲学はありますか? 


J:子供には対等に接する必要があると思う。子供は賢いから、自分がどう扱われているか、ちゃんと対等に扱われているかが分かる。一人の人間として扱うこと、そしてもし自分が子供に言い聞かせたいことがあるなら、その質量と同じくらい、子供の話を聞いてあげることが大切なんじゃないかな。


ーー「Summer Noon」は、リチャード・リンクレーター監督の映画『6才のボクが、大人になるまで。』で使われています。この映画ではウィルコの楽曲「Hate It Here」も使われていて、イーサン・ホーク扮する主人公の父親が絶賛するシーンがとても印象的です。


J:リチャードからは直接連絡があって、「映画のエンディングに使える新曲はないか?」って聞かれたんだ。それでトゥイーディの曲を提供した。あんな野心的なプロジェクト(12年にわたって同じ役者を起用し、断続的に撮影がおこなわれた映画)に参加出来て、とても光栄だったよ。リチャードとも直接会ったけど、実はそれほど彼の作品について詳しくはないんだ...。もちろん映画は観たし、イーサンがウィルコの歌詞について語るシーンは本当に光栄だった。光栄過ぎるくらいだね。


ーー「Nobody Dies Anymore」は、「死とどう向き合うか?」がテーマで、亡くなったお兄さん(グレッグ)についての曲なのかな、と思ったのですが。


J:特にグレッグについてってわけではない。「死とどう向き合うか」という永遠のテーマについても、まだ特に具体的なイメージがあるわけではないよ。


・「これまでも俺達は、ずっと自分達流にやってきた」


ーーでは、昨年リリースされたウィルコのニューアルバム『スター・ウォーズ』についてもお聞かせください。このアルバムを一切プロモーションせず突然の無料配信にした理由は?


J:何十年も続いているバンドって、作品に対する過度の期待がつき物なんだよね。そういうプレッシャーに押しつぶされるリスクをまずは避けたかったし、サプライズ的なもののほうがファンにとっても面白いんじゃないかなって思った。おそらく俺は、メジャーがどうとかインディーがどうとか、そういう話にも嫌気が差したんだな。そんなの、アートを純粋に楽しむ行為を阻害しているだけだからね。


ーー自主レーベルである《dBpmレコード》を立ち上げ、ウィルコの『スター・ウォーズ』もトゥイーディの『スーキーレイ』もそこからのリリースとなりました。メジャーを離れ、見える景色は変わりましたか?


J:そうでもないかな。これまでも俺達は、ずっと自分達流にやってきたからね。


ーー『スター・ウォーズ』のサウンド的なテーマは? 


J:「ラフなギターを入れ、ミッド・テンポの曲は出来るだけ避ける」っていうのがなんとなく目標としてあった。ワイルドかつ直観的なものにしたいとも思っていたよ。前作『ザ・ホール・ラヴ』は、長いオフを取った上で制作したことが功を奏したアルバムだった。ただ、あの頃はライブのみにフォーカスしてたけど、この5年でライブとレコーディングをきっちり分け、それぞれに対してフォーカス出来るようになったと思う。あとは、トゥイーディでの活動や、(ジョン・スティラットとパット・サンソンによる)オータム・ディフェンス、(ネルス・クラインが参加している)プラスティック・オノ・バンドなど、メンバーそれぞれの課外活動が、本作『スター・ウォーズ』にフィードバックされているよ。


ーーちなみに『スター・ウォーズ』というタイトルは、あの映画とは無関係だそうですが。


J:ああ、映画とは全く関係ない。ガートルード・スタイン(詩人であり、小説家かつ美術収集家の女性)が言うところの、「バラはバラであって、バラ以外の何物でもない」ということ。つまり、ただの言葉に過ぎないんだ。


ーーウィルコは04年の『ア・ゴースト・イズ・ボーン』以降、10年以上にわたってメンバー不動の状態が続いています。関係性は今も良好ですか? 


J:うん。今のウィルコはバンドの結束がとても強いよ。上手く続いている秘訣? そうだな、お互いきちんと認めあうこと。音楽的にもその他のことでもね。それからお互いのスペースを尊重することだね。


ーーバンドの近況としては昨年5月、LGBTに抑圧的な州法を可決したインディアナ州に対し、公演をボイコットするという意思表示をしています。Facebookの公式ページでも、「インディアナ州の『宗教の自由回復法』は、俺らからすると差別を合法化してるとしか思えない」とも書き込んでいましたね。とはいえ国全体で見れば、性的マイノリティに対するアメリカのスタンスは、少しずつ改善されていると思いますか?


J:うん。改善されてきてもいるし、それを快く思わない人たちもいるっていうことだよね。ただ、そんな奴らは追い込まれた偏屈者の集まりであって、正直なところ脅威ではなくなってるよ。


ーーちなみに今年は大統領選挙ですが、選挙の状況、行方をどのようにとらえていますか? 日本に住む我々からすると、正直ドナルド・トランプのような候補者があんなに人気あること自体、信じられないのですが。


J:日本と違って、アメリカはとても大きく多様な国なんだ。そんな中で、わずかならも非常に強い警戒心を抱いている白人たちがいる。彼らの声は確かに大きい。ただ、外ではどう伝わっているか分からないけど、実際にはほとんど影響力が無いんだ。ドナルド・トランプはそうした連中を取り込んでいるだけだし、俺は楽観的に見ている。全ての人が(大統領選に)加われば、あいつはアメリカの歴史の些細な一部になることだろうね。


ーーありがとうございます。では最後に、今回のトゥイーディ来日ツアーへの意気込みをお聞かせください。


J:ツアーにはスペンサーの友人でもあるリアム・カニンガム(ギター、キーボード、コーラス)とシーマ・カニンガム(コーラス)、それと自分の幼馴染みのダリン・グレイ(ベース)、あとは友人のジム・エルキントン(ギター、コーラス)が一緒に行く予定だよ。俺は日本は大好きだから、ツアーが待ちきれないね!
(取材・文=黒田隆憲)