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AK-69、自身のヒップホップ精神を語る「『音楽プラス生き様』が、一番のオリジナリティ」

2016年03月01日 22:22  リアルサウンド

リアルサウンド

AK-69

 AK-69が自ら代表を務める事務所「Flying B Entertainment」を立ち上げ、2月24日に第一弾シングル『Flying B』をリリースした。今回リアルサウンドでは、AK-69へのインタビューを敢行。独立を決意した経緯や自身の音楽に対するこだわり、 AK-69が大切にする“ヒップホップ精神”について存分に語っていただいた。(リアルサウンド編集部)


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■「『カッコよさ』にこだわって、ブレなかっただけ」


ーー表題曲「Flying B」は、自ら代表を務める事務所「Flying B Entertainment」を立ち上げたことへの決意表明が込められていますね。


AK-69:事務所を立ち上げて独立したと言うと、稼ぎに走ったというイメージを持つ方もいると思うけど、そうではないです。アルバム『THE THRONE』(2015年)のリリース後、区切りの良いタイミングで事務所との契約が満了して。そのまま契約を更新して現状維持を取るのか、大きな勝負を取るのかの二択を迫られて、迷ったんだけど、後者を選択しました。たとえば大きな事務所と契約するという選択もあったけれど、自分はこれまで、あえて厳しい環境に身を置いて、それをなし得たときに生まれる「カッコよさ」をテーマにしてきました。だから、独立してイチからビルドしたもので、自分を新たなステージに持っていこうと考えた。今まで一貫して求めてきた「カッコよさ」にこだわって、ブレなかっただけですね。


ーーAK-69のアティチュードをそのまま貫いた、と。より大きなステージを目指して「成り上がって行こう」とする姿勢は、ヒップホップの精神にも適っていると感じます。


AK-69:昨今の若い世代の人たちは欲がなく、成り上がろうという気持ちがないと言いますが、根底には「いつか絶対にやってやる」っていう気持ちがあると思うんですよ。たぶん、自分を取り巻く環境に流されて「そんなこと考えててもな」と、フィルターがかかっているだけ。でも、俺はもともと「成りあがれよ」とメッセージを送っているわけでもない。目標を定めて、そこに向かうこと自体にすごく意味があると思っていて。がんばったら夢が叶うとか、そういう綺麗事はすごく嫌いなんですけど、がんばらなかったら、その目標へ向かう道に一歩踏み出さなかったら、なんにもならないじゃないですか。その一歩を踏み出して、ネガティブと戦いながら進む中に、いろんな学びや感動があって、それこそが生きている意味だと思うんです。そういう風に生きる方がカッコいいと思うから、体現しているんですよ。俺は特別な才能があったわけでもないし、むしろハンデがあった。でも、自分の思いを研ぎ澄まして、行動して、ここまで来ているのは事実。どんな状況でも己を磨くことは大事だってことは、ちゃんと伝えたいですね。


ーー「Flying B」のMVは、どしゃぶりの雨の中から這い上がるようなイメージです。


AK-69:ストリートで生まれたカルチャーでここまで来てるので、苦労を挙げたらキリがないですよ。オーディションで人生が変わったとか、そんな世界じゃない。偏見もあったし、ちゃんとした企業やイベントには相手にもされなかった。雑誌にレビューすら載せてもらえなかったくらいで。もちろん、それは俺が取り上げるに足らない存在だったからなんだけど、いまはこうして取材もしてもらえる。繰り返しになるけれど、そういう悔しいこともあったからこそ、あえてストリートのやり方を通して、自分の力でデカくなろうと思っています。


ーー悔しさをバネにして、ここまでやってきた。


AK-69:たぶん、どこかで楽な選択を一回でもしていたら、ここまで頑張ってなかったかもしれないです。すべてを見返すには、やっぱり行動しかないんですね。俺の音楽について、好みは人それぞれだから全員は納得させられないけれど、俺のやり方に文句をつけられるヤツは誰もいないはず。なぜなら、行動でちゃんと示しているから。いつも悔しい思いをする度に、そいつらに負けたくない、その現状に負けたくないっていう気持ちでやってきて、だからこそ「カッコつける」ことにこだわるんです。「カッコつける」っていうのは、口で良いことを言うとか、キザに振舞うとか、おしゃれをするとかじゃない。「言ったことをやってのける」ってことなんですよ。それができたら、誰も文句をつけられないんです。今までカッコつけるために命張ってきたことが無駄になると思ったら、簡単には投げ出せないですね。


ーー「Flying B」というタイトルには「B級から成り上がる」という意味がこめていると。AK-69にとっての“B級”とは?


AK-69:今でも俺は自分自身をB級だと思ってます。昔の自分からしたら、今は成功していると言えるかもしれないけど、上には上がいるので。もし現状に満足して、自分でA級だと思えていたら、独立もしないし、「Flying B」も生まれていない。俺にとって“B級”っていうのは、現状に満足せず、常に上を目指しているということだと思う。でも、良いミュージシャンで現状に満足している人って、果たしているのかな? みんな、お金のためならとっくに辞めてるだろうし。どんなに有名になっても、純粋にグッドミュージックを生み出せるのは、きっとみんな「こういう曲を聴いてもらいたい」っていうモチベーションがあるからだと思います。あと、俺はもともと「ラップがイケてるよね」とか、評価されるところから始まっていないのも、自分をB級としている理由かな。はじめたときは、我ながら「全然カッコよくねーな」と思いながらやってたんで(笑)。でも、そういうヤツでも羽を生やすことができるんだぜってことは言いたいです。


■「『音楽プラス生き様』ってとこが、一番のオリジナリティ」


ーー2曲目「We Don’t Stop feat. FAT JOE」では、D.I.T.C.のメンバーとして90年代より活躍するFat Joeと、日本人としてはじめてコラボしています。


AK-69:今回のコラボは、俺がニューヨークに1年半くらい滞在していたときのつながりがきっかけで成立しました。金を積んで出てもらったとかじゃなくて、すごく自然な流れでコラボができたのは嬉しいし、ニューヨークに行った意味がありましたね。


ーーアメリカに行ったのはたしか、2012年ですよね。


AK-69:ええ、2011年にインディーズのソロラッパーとして初のアリーナワンマンを名古屋の日本ガイシホールというところでやって。そのまま次のアルバムの制作には入れたんですけど、やっぱり自分に挑戦を課して、その中で生まれたメッセージをちゃんと紡いで次のアルバムにしたいなと。そこで、今までできなかった挑戦の一つでもあった渡米を決意しました。移住する形だったので物理的に大変だったし、言葉の壁もあったし、しかもその中で前作をしのぐアルバムを期限内に作らなければいけなかったので、大変ではありましたね。


ーーアメリカのヒップホップシーンはどうでしたか。


AK-69:インターネットやCDを通して、俺たちが探さないと入ってこなかったものが、むこうに行けばそれが日常にあって。ラジオをつけても、街でもクラブでも、どこでも鳴ってるんですね。ヒップホップの身近さ、カルチャーとして浸透するということの意味が改めてわかりました。ヒップホップ専門のラジオステーションまであって。ナンバーワンのラジオステーション『HOT 97』では何回かインタビューしてもらったり、ライブに出させてもらったりして、いい経験になりました。中でも、帰国前に出たイベントがいちばんすごくて。カニエ・ウエストとか、2チェインズも出てきたと言われている『WHO’S NEXT』ってライブなんですけど、お客さんもヘッズだし、イケてなかったら余裕でブーイング飛んでくるくらい厳しくて。やっぱり緊張しましたね。でも、MCでヒップホップに対するリスペクトを語ったら、お客さんがみんな一気に湧いてくれて。受け入れてくれた瞬間は、感動しましたね。


ーー受け入れられ方は日本とはちがいますか。


AK-69:全然ちがいます。日本だったら俺の音楽を知らなくても、名前を知っているからって見るじゃないですか。だけど、あっちは俺のことなんてなにも知らないんで、ただの変なアジア人が歌ってるくらいの感覚。でも、俺が日本人であることと、日本人がヒップホップのカルチャーに対してどういうことを思っているのか、俺の歌は日本語で全然意味わかんないと思うけど、俺はこーゆうこと歌ってるから、ヒップホップに対する愛をわかってくれってことを伝えたら、「面白いやつ」と思ってもらえて。たぶん、オリジナルだってことが伝わったのがデカかったと思う。お客さんも正直というか、見て感じたままを評価する。日本だと有名な人だったら盛り上がるし、興味がわく。あっちは逆に、有名な人でもクソなライブをしたら、余裕でブーイングが飛んでくる。逆に、無名なヤツでもみんなの心をつかめば盛り上がる。だからこの国は、ショービズがこれだけデカいんだなと。


ーー目が厳しい分、チャンスもあると。


AK-69:厳しいと思います。そして素直ですよね。いいものはいい、悪いものは悪いってはっきりしてるんで。だからこそ、メディアとかレーベルが仕掛けたヒットじゃなくて、客が認めた突然のヒットが起こりうる街なんだと納得しました。アメリカン・ドリームってこういうことなんだな、と。


ーーちなみに、AK-69のオリジナリティとは。


AK-69:生まれたときから日本の歌謡曲に親しんで、姉がやっていたクラシックを否応なしに聴きながら育ってきたので、そういう音楽の引き出しから引き出されるメロディとかかな。たぶん、外国人が聴くと「日本っぽい」って感じるはず。あとは、俺の場合はこれまでの生き様を歌っているから、同じ言葉をしゃべってても、魂がのって言霊になる。たとえば「覚悟を決めろ」って誰にでも言えるワードだけど、本当にギリギリの戦いの中にいるやつがいうと、説得力が違う。「音楽プラス生き様」ってとこが、一番のオリジナリティだし、それをなくしたら自分の音楽じゃないと思います。


ーーどうすればオリジナリティを磨けるでしょう?


AK-69:自分にとってのウィークポイント、自分は嫌だなって思っているところって、他人からすると長所だったりするんですよね。だから、自分を誰かと比較して、みんなにどう見られてるんだろうとか、どう思われてるんだろうって気にするのをやめるところから始めるのが大事なんじゃないかな。そして、本来の自分がどうありたいのかに気づく。俺だって、他のアーティストとライブ会場の大きさや、CDの売上を比べることもできるけれど、そんなことをいちいち気にしていない。俺の誇りは、ここまで自分の意思でやってきたことだし、歩むべき道のりは人それぞれ違います。だから規模の大小とか優劣じゃなくて、自分の誇れるやり方、生き方をするっていうのがすべてなんじゃないかな。


■「ゆくゆくはシーンを底上げするような仕組みを築き上げていきたい」


ーー3曲目「Rolls-Royce, Diamonds, Bixxhes –REMIX-」は、JASHWONがリーダーを務め、DJ NOBU a.k.a. BOMBRUSH!やI-DeAらが参加するプロデューサー集団・BCDMGとフィーチャリングした楽曲で、音楽性も挑戦的です。流行のトラップをバックに、三連のラップも披露しています。


AK-69:シカゴっぽいトラップをテーマにしていて、現行のUSヒップホップという感じですね。三連は自然に出てきました。日々新しい音楽を聴いていて「こういうのがイケてるんだな」と思うと、自分の歌にも自然に出てくるんです。特にこうやって現行のトラックに合わせるときは、現行に流行っているフローを取り入れるようにはしてますけどね。逆に「Flying B」はそういうことを気にせず、湧き出るまんまを歌ってます。M-3は、海外っぽい感じに聴こえるように、というのは意識してますね。


ーーただ、歌詞はやはりAK-69ならではのものです。


AK-69:たしかに、俺にしか歌えないことですね。歌詞に出てくる車もジュエリーも、借り物でも無理して買ってるわけでもないので。ヒップホップだから「俺はジュエリーして最上級の女を抱いてるんだぜ」とか、なんでも言えるんですけど、それって嘘だった時点でぜんぜんカッコよくないんですよ。俺はロールスロイスも乗ってるし、ダイアモンドも家もキャッシュで買った。だから「歌ってることは本当だかんな」っていう。でも、銭ゲバソングにしたかった訳じゃなくて、愛とか自分のアティテュードを大事にしてきたら、金やモノがついてきたってことを歌っている。ヒップホップ・カルチャーって、こういうことを包み隠さず言えるのも面白さの一つなので。


ーー有言実行も、ヒップホップ・アーティストらしいですね。


AK-69:海外のミュージックビデオでラッパーたちが歌っている内容を知って、「こんな世界、本当にあるのかよ」って憧れから始まっていますからね。ただの不良よりラッパーの方がカッコいいし、荒んだ環境から這い上がることをメッセージにして歌えるなんて、最高じゃないですか。日本のヒップホップ・シーンもかなり成熟してきて、『フリースタイルダンジョン』みたいなテレビ番組も流行っているけれど、まだまだヒップホップは盛り上がれると思うし、自分もそれに貢献したい。だからこそ「Flying B Entertainment」を立ち上げたというのもあります。まずは自分のプロジェクトとして成功させなければいけないけれど、ゆくゆくはシーンを底上げするような仕組みを築き上げていきたいですね。