新年度に向けて、急いで住まい探しをする人が増える時期。しかしネットで見つけた賃貸物件は、すでに入居済の「偽りの空き物件」かもしれない。賃貸物件などで「空いている」とウソをつき、客を呼び込む「おとり広告」という手法だ。
2月27日放送のテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」は、「不動産業界の暗部」と題して、この手法の実態に迫っていた。せっかく内見を予約して、わざわざ来店したのに「もう契約が決まりました」と別の物件を紹介されたことのある人には、ぜひチェックして欲しい内容だ。
募集を終了した物件で集客を図るのは「違法行為」
東京・新宿区の不動産会社「ラインズマン」の門傳義文(もんでん・よしのり)社長は、おとり広告が業界の信頼を落とすことを懸念する1人だ。ラインズマンが管理を任され、1月中に入居済みの高田馬場の物件が、2月からアパマンショップのウェブサイトに空き物件として紹介されていた。
「終了している物件を掲載して、集客を図っている形なので。おとり物件、おとり広告に当たりますね」
サイト画面を見つめる門傳社長は、厳しい表情でこうつぶやく。相場より安くお得感がある物件で客を来店させようとしており、宅建業法や景品表示法、著作権法に違反する。
「希望の部屋に到達できなくしているので、まったくもっておかしい話」と憂う門傳社長は、ブログで「おとり物件はあるある詐欺」と告発し、詳細を暴いている。門傳さんは客を装い、この物件の問合せをしてみると、やはり「空室で見学が可能」との返信があった。
しかし予約して来店すると、予想通り「たった今契約が決まった」と告げられ、他の物件を勧められた。この手口を暴いた門傳さんのブログは話題となり、ツイッターなどのSNSで拡散されて10万人以上のアクセスがあったという。
「現地待ち合わせ」を断ってくる会社は怪しい
アパマンショップのこの店舗を運営するのは、賃貸仲介最大手のフランチャイズ店だ。批判を受け、謝罪に訪れた担当者は「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」としたものの、「繁忙期で客対応に追われて、結果そうなった」と説明。
「お客さんが最終的にこの部屋に引っ越してよかった、と言ってもらえればと思っているところがあるので」
と苦しい言い訳をしたが、「結果が良ければ途中でいろいろ(ウソが)あってもいいと?」と詰め寄られると、「少なからず、ごめんなさい」と謝罪した。
この会社とアパマンショップ本部は、番組の取材に文書で回答。認識の甘さを反省し、今後再発防止に努めるとした。これを受けて大浜キャスターは「個別企業の問題だけじゃなく、業界の問題」と指摘している。
というのも、募集を終えている物件について、番組が他の不動産会社にも問合せをしてみると、14社中10社から「案内できる」との返事があったのだ。2014年度に確認されたおとり物件は2184件。昨年には極めて悪質という理由で、都内の2つの不動産業者が名前を公表された。
門傳社長は、騙されないためには店舗ではなく「(見学の時に)現地待ち合わせが効果的」と話す。理由をつけて断ってくるところは、疑っていいそうだ。
おとり物件チェッカーの運営者「脅迫メールを受けたことも」
ネットでおとり物件を確認できるサービスもある。インターネット不動産サービス「ノマド」の「おとり物件チェッカー」は、他のサイトで見た物件のURLを入力すると、本当に募集しているかどうかが分かる。これまで9000件のチェックに対し、5300件が募集されていなかったというから驚きだ。
運営する「イタンジ」の伊藤嘉盛社長は「脅迫メールなどを受けたことがある」と業界から圧力を受けたことを明かすが、「ずるしたもん勝ち」の業界を改善したい思いがある。「ユーザーが正しい情報を得ることは、正しい業者が生き残り、活躍するためのひとつの条件になってくる」と意義を語った。
ネットの情報を信じて来店しても、「一歩遅かった」と言われれば客は信じるしかない。不動産探しは人生でそう何度もすることがないので、そういうものかと思わされてきたが、告発によってこうした体質が少しでも変わるとよいと思う。(ライター:okei)
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