2016年02月29日 12:31 弁護士ドットコム
中小企業の経営者の相続税や贈与税を軽減する「事業承継税制」の利用者が増えている。昨年の推測値で、これまでの倍近い350件となることがわかった。制度は非上場株式の相続税、贈与税の納税を猶予するもので、昨年1月に施行されていた。中小企業庁によれば、これまでの平均で年間170件だった利用者は、制度がかわった2015年の1年間で、推測値で350件となった。
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中小企業庁の担当者は弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「事業承継を必要とする会社は本来、もっと多いと考えている。件数は増加しているとはいえ、全体のパイからすれば少ないのではないか。より使い勝手のよい制度にできないか検討を進めるとともに、周知広報にも取り組んでいきたい」と意気込みを語る。
この制度には、どのようなメリットがあるのだろうか? 久乗哲税理士に聞いた。
「『事業承継税制』とは、中小企業の事業承継を円滑に進めることを目的として2008年(平成20年)5月に成立した『中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律』(いわゆる『経営承継円滑化法』)を受けて、2009年(平成21年)4月より施行された『相続税の納税猶予制度』及び『贈与税の納税猶予制度』のことです。
対象となるのは、先代経営者(贈与者)から非上場株式の贈与をうけるケースです。具体的には、『後継者の保有株数が発行済み議決権株式総数の3分の2に達するまでの部分』を軽減対象として、軽減割合は『相続税で80%、贈与税で100%』となります。
創設された当初は、後継者を相続人に限定していたり、雇用の8割を維持しなければならないなど、要件が厳しい制度設計でした。当然、利用企業もなかなか増えませんでした」
久乗税理士はこのように指摘する。
「しかし、2013年(平成25年)の税制改正において、適用要件が緩和されて利用しやすいように改正され、2015年(平成27年)1月以降に相続・遺贈・贈与する際に適用されるようになりました。
例えば、先代社長の親族に限定されていた後継者の要件は、削除されました。そのために親族に後継者がおらず、従業員が承継するような企業についても適用が可能となりました。
また、一番のネックだともいわれていた要件に、毎期末に(相続開始時または贈与時の)従業員の8割の雇用の維持という項目がありましたが、これも、5年間の平均で8割と緩和されました。今までの使い勝手の悪さはかなり改善されたと感じます」
制度を利用する上で、注意が必要な点はないだろうか。
「相続時においては、積極的に検討がされるべき制度だと思います。ただ、事業承継税制を活用して贈与をする場合は、税の問題だけではありません。贈与時には、代表者を退任することが要件に入っています。有給役員として残留は可能ですが、経営権が完全に後継者に移ってしまう可能性もあります。よく検討する必要があると思います。
また、事業承継税制を活用して贈与する場合については、経営承継円滑化法の『遺留分に関する民法特例』の活用も合わせて検討するほうが良いと思います。一般の相続においては、後継者となる子どもに対して自社株式をまとめて渡そうとしても、他の兄弟が『遺留分』を請求するため、株式が分散してしまう可能性があります。
しかし、この特例を利用することで、他の相続人が遺留分の主張ができなくなりますので、自社株式の分散を防げます」
【取材協力税理士】
久乗 哲 (くのり・さとし)税理士
税理士法人りたっくす代表社員。税理士。立命館大学院政策科学研究科非常勤講師、立命館大学院経済学研究科客員教授、神戸大学経営学部非常勤講師、立命館大学法学部非常勤講師、大阪経済大学経済学部非常勤講師を経て、立命館大学映像学部非常勤講師。第25回日税研究賞入選。主な著書に『新版検証納税者勝訴の判決』(共著)等がある。
事務所名 :税理士法人りたっくす
事務所URL:http://rita-x.tkcnf.com/pc/
(弁護士ドットコムニュース)