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POLYSICS・ハヤシ、サシ飲みで本音明かす「もっと『What's This???』なバンドになりたいのよ」

2016年02月29日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

POLYSICS・ハヤシ(撮影=福田直記)

 POLYSICSが3月2日、2年2カ月ぶりとなるフルアルバム『What's This???』をリリースする。リアルサウンドでは本作のリリースを記念し、POLYSICS・ハヤシと、彼らと十数年来の付き合いのある音楽ライター・兵庫慎司によるサシ飲みインタビューを実施。トレードマークのつなぎとバイザーを脱いだ“素顔”のハヤシが、現在の自身の心境について素直な思いを語った。(編集部)


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■「もがいてるけど、結果が出せてないし、突破口が見えない感じはあった」


 3月2日にリリースになるPOLYSICSのニューアルバム『What's This???』を聴いて、初めてこのバンドを観た時のことを思い出した。1999年、最初にインディ・リリースした『1st P』のレコ発でバンド初のワンマン、持ち曲が少なくて30分で終わった下北沢CLUB Que。当時はまだフミもヤノも加入前で、今もいるのはハヤシひとりだし、演奏もライブのやりかたもまだ幼いことこの上なかったし(メンバーみんなギリ10代だったと思う)、将来的に、メジャーで長年活動したり、何度も海外ツアーを行ったりするバンドになるとは、誰も思っていなかった頃だし……書いていて思い出したけど、そうだ、「あのバンド、すごいけど3回観たら飽きる」と言われていた頃だ。ただ、それだけに、なんだかわからない勢いとインパクトだけはめったやたらとあったPOLYSICSが、スキルと経験とIQを得てすさまじくビルドアップした状態で帰ってきた、そんなアルバムなのだ、『What's This???』は。超うるさくて超キャッチーで、超ピコピコしてて超ギャンギャンしてて、そして超おもしろい。曲、短いくせにガンガン展開していって、聴き終わる時にどこに連れて行かれるのか全然読めない。全19曲、刺激だらけ。POLYSICSのバンドの強い部分だけ、武器になる部分だけ、おいしい部分だけを使ってアルバムを作りなさい、という問いに正面から応えたような、この理想的なアルバムに辿り着くまでを、20周年まであと1年に迫ったベテラン(全然老けないけど)、ハヤシにききました。(兵庫慎司)


──今、バンドのバイオリズムとしてはどういう時期なんですか?


ハヤシ:ああ、どうだろう? ……まあ、もっといろいろトライしていこうみたいな、そういう時期かな。まあ、ぶっちゃけ、厳しい時期ではあるんだけど、厳しいながらも昨年の夏以降かなあ、なんかちょっと「ん?こういうことかな」みたいなのが、わかってきたっていうか。あのミニアルバム2枚を作ってから(『HEN 愛 LET'S GO!』と『HEN 愛 LET'S GO! 2~ウルトラ怪獣総進撃~』。2015年3月・7月リリース)。


──じゃあそれまではけっこうもがいていた?


ハヤシ:もがいてるけど、結果が出せてないし、突破口が見えない感じはあった。


──それは音楽的な煮詰まり? セールスとか動員とかの状況的な煮詰まり?


ハヤシ:あ、もう全部。自分にとって『ACTION!!!』(前作フル・アルバム/2014年1月リリース)が大きかったかな。ちょっと「あれ?」みたいな。自分のやりたいことが、あんましおもしろがられてない気がした。自分としては、いまだに聴くぐらい気に入ってるし、益子(樹/プロデューサー)さんとやったあのレコーディングは、自分にとってもすごい大きかったんだけどね。音の作り方だったり、「こんなおもしろい音楽ができるのか!」みたいな喜びがあったんだけど、数字で見ると、意外にしんどくなってしまった、みたいなのがあって。


──それは作品のせいですかね? CDが売れなくなってるのは事実だし──。


ハヤシ:ちょっと前はそう思ってた。でも、言うても、売れてるバンドもいるわけじゃん? 時代のせいにはしたくないかなあ。だからって、そこで自分の音楽性は変えないんだけど……『ACTION!!!』は気に入ってるけど、このままじゃいけないよね、って考えたし。で、もっと振り切った、濃いものを作ろうよ!っていうことになった。


──それが昨年のミニアルバム2枚?


ハヤシ:うん。あれは、より濃いものを作ろうっていう時で……もともと、「Dr.Pepper!!!!!」のアイディアがあったんだよ。キューンのスタッフが、「ドクターペッパーってPOLYSICSっぽいですよね」って言い出して。長い歴史があるし、日本での位置って、「これ大好きなんだよね」みたいな人がめちゃくちゃ多いけど、一般的ではない、みたいな。「ああ、確かにそうだね。俺ドクターペッパー好きだし、この立ち位置って合ってるかもしんない」って思って、「Dr.Pepper!!!!!」を作ったのね。それで、自分の偏った好みをわかりやすく出すのもいいんじゃないか、っていう話になって、『HEN 愛 LET'S GO!』っていうミニアルバムのアイディアができたのね。
もともとは、偏愛もので企画アルバムを出そうって言った時に、ハヤシヒロユキがいちばん偏愛してるのはウルトラ怪獣だから、ウルトラ怪獣のアルバムを作ろう、っていう話になったんだけど、最初からウルトラ怪獣で作るよりは、もうちょっとライトな偏愛が伝わるものがいいよね、ってなって、それで最初に食べ物飲み物で1枚、ウルトラ怪獣で1枚、ミニアルバムを出そう、ってなったの。「とことん濃いものを作っちゃおうぜ! やったれ!」みたいなので作ったのね。


■「ほら、もともとは、ライブで食パン投げてビビらせようぜ!みたいなところから始まったバンドじゃん」


ハヤシ:それと……ちょっと話が前後するけど、2014年の夏に、CLUB Queの20周年で、2デイズをやったのね。その時に、なんかおもしろいことしたいなと思って。よく「かぶり曲なし」とかあるじゃん。それもいいけど、ほかになんかあるかなあ、って考えて、「メインはPOLYSICS、スペシャルゲストはPOLYSICS、オープニング・アクトはPOLYSICS」っていうアイディアが出てきて。オープニング・アクトで初期の、インディー盤の頃の曲をやって、スペシャルゲストでは、いろんなトリビュートでカバーをやってるから、カバーだけのPOLYSICSをやって。で、最後のメイン・アクトでは、22曲を全部メドレーにしてやったのね。そしたら、今までなかったようなすっごい熱量のライブになって。お客さんが喜んでくれてる感じが伝わってきて、「これ、何かのヒントになるかも。これはありだな」と思って。
それで『HEN 愛 LET'S GO!』と『HEN 愛 LET'S GO! 2~ウルトラ怪獣総進撃~』を作るんだけど、そのツアーでもメドレーをやるんだよね。フェスでも……ROCK IN JAPAN FESTIVALは毎年出てるから、「JAPANだったらありだろう」って全曲メドレーでやったんだけど、あれ、やっぱりやってよかったと思った。「POLYSICS、何してくれるんだろう?」みたいな……ほら、もともとは、ライブで食パン投げてビビらせようぜ! みたいなところから始まったバンドじゃん。まずライブハウスで遊ぼうぜ、みたいなところから始まって、ツナギで、パン投げてて、歌なのか歌じゃないのかわかんない曲をやる、観に来た人たちは「なんだこれ?」みたいな。そこで普通にライブで盛り上がる曲をやって、「ああ、楽しかった」っていうのも……それもあってもいいけど、それだけじゃないよね、みたいな気はしたかなあ。そういうバンドは他にいっぱいいるわけじゃない。「暴れたい!」とか「楽しい!」とかさ。


──自分たちの出自を思い出したと。


ハヤシ:うん、もともとの。自分もそれが楽しかったわけだし。それは大きかったかなあ。


■「『歌詞でトライするって、やったことなかったなあ』と思って」


──で、『What's This???』になるわけですが。このアルバムを作る上で、特に注力したところっていうと──。


ハヤシ:『HEN 愛』の2枚で、自分の偏った部分とかは伝えられたんだけど、音楽的な偏愛部分っていうのは、俺、基本は変わんないでしょ? ニューウェーブ、テクノポップ、っていうのは。なんかね、そこで「よし、すぐ制作」っていう気が起きなくて、いったん考えたかったんだよね。それで家でデモを作る期間を長めにとってもらって、その時にいろいろ聴いたね。それこそXTCのファーストとか、自分がルーツで聴いてたものも……ファーストを出した頃のXTC、『BBC SESSIONS』のライブ盤があって。それ俺すっごい好きで、でも5年ぐらい聴いてなくて、久しぶりに聴いてみたのね。そしたら、すっげえよかったのよ。当時のキーボードのバリー・アンドリュースが、ソロで鍵盤の上にガーッて座ってるような、はちゃめちゃなパフォーマンスが聴けて。今聴くとみんなめちゃ下手なのよ。でもなんか、このテンションは……あの頃のXTCは、俺はすごい影響受けてて。で、やっぱ俺、歌いたいなあ、みたいな気がして。歌うの好きだなあ、しかもそれが3分弱とかで、1曲の中にいろんな要素が詰まってて、展開の読めない構成だったり、せわしない感じだったり。やっぱ好きだなあ、それを今一度やりたいなあ、と思ってできたのが、このアルバムの「アルプスルンルン」だったり、「Goody-Goody」だったり。その青写真的なものが、パッと浮かんだんだよね。


──今言ったハヤシくんがやりたい音楽って、「それ、POLYSICSなんですけど」と、ファンの誰もが言いたくなると思うんですけども。


ハヤシ:そうなんだよね。それで、曲はできて、歌詞もできて、全部形にはなったの。で、レコーディングしたんだけど、なんかねえ……いいものにはなってたんだけど、歌詞の部分でちょっと「もっといきたいな」っていうのがあって。それまでPOLYSICSにとって歌詞って、言葉の響きだったり、発して気持ちいい言葉だったり、それがうまくはまればOKだったりしたんだけど。意味なんて伝わらなくていいし、響きさえよければ言葉が伝わらなくてもいいと思ってた。それが『ACTION!!!』までだったんだけど、それをまたやっていいのかなあ? という気がしたの。もちろん前までのままでも形になるんだけど、はたしてほんとにそれでいいのか? みたいなところはあって。歌詞に、多少の意味だったり……意味じゃないんだけど……意味なのか? ……あの、意味を感じる? この歌詞。


──じゃあ言いますけど、取材前に音と資料をもらったんだけど、それに歌詞が付いてなかったんですね。で、これまでだったら気にしなかったかもしれないけど、今回、アルバムを聴いて、「すみません、これ、歌詞あったら送ってもらえません?」って電話しました。


ハヤシ:へえー! ヤバい(笑)。そうなのかあ。だからまあ、「そこで歌詞でトライするって、やったことなかったなあ」と思って。何かを変えなきゃいけないと思ってる自分にとって、必要だったことなんだなあと思って。


■「どうでもいいことを全力で歌うほうが俺は好きだし、そういうバンドが好きだね」


──そこでさらにややこしいのが……言葉で共感を得るとか、情に訴えるとか、そういうことをとにかくしたくない人じゃないですか、ハヤシくんは。


ハヤシ:(笑)。うん。


──だからこのアルバムの曲、言葉を武器にしたい、おもしろいものにしたい、でも情に訴える以外の方法を探さないといけない、というものになってるんですよね。


ハヤシ:あのねえ、そうなの。そこは全然変わってないよ。情に訴える音楽なんて……POLYSICSみたいなバンドをやってて、そんな音楽に影響を受けてない人が、そんなの歌ってもどうしようもないし。そんなこと歌う人はいっぱい世の中にいるし。それよりも、どうでもいいことを全力で歌うほうが俺は好きだし、そういうバンドが好きだね。


──ただ、本当にどうでもいいことではないんですよね。


ハヤシ:ええ? ああ、そう?


──共感を求めないし、情にも訴えないけど、「こういうふうに視点を変えるとこう見えます」みたいな発見はあるし、メロディとリズムにのっけることによって、その言葉が自分の知ってる言葉とは違うように響いたりするし。


ハヤシ:ああ、そうかあ……まあ、とにかく、歌詞は模索はしたねえ。わからないのもよくないし、説明しすぎるのもよくないし。そういうのでけっこう歌詞は書き直して、大変は大変だったけど、それがうまくはまった時に、曲の魅力がさらに増して……「こういう振り切り方もあるんだなあ」っていうのは、やってよかったなあと思った。


■「俺はやっぱり、なんだかわかんないけど踊れるとか、そういうものがやりたいんだよね」


──あと、曲自体も……POLYSICSって、新しいアルバムができるとどうしても「この曲、ライブで定番になるの?」「何回できるの?」「いつまでできるの?」っていう耳で聴いちゃうんですね、僕は。そこで「これ、ライブでずっとできそうだなあ」という曲がとても多い気がした。


ハヤシ:おおー。あ、ほんとに?


──はい。そのことも含めて、今の日本のロックの状況に背を向けていない感じがした。状況と向き合いながら、でも自分たちに合わないことはやらないで、自分たちの中でいちばんキャッチーで強いところを研ぎすませて……だから、フェスとかで、他のバンドのファンにも刺さりそうなアルバムというか。


ハヤシ:おおー。いいねえ、それ。いっぱいそう書いてね(笑)。


──すごくポリらしいアルバムなんだけど、そのポリが持っているものの中で、いちばん広く深く刺さるところはなんだろう?ということに向き合っているというか。


ハヤシ:それはめちゃくちゃうれしい。っていうか、やっぱり若い子とやりたいのよ。一緒にやると、「あ、この曲がウケるんだ?」とか「うわ、この曲全然ウケねえんだ?」とか、すごい思うし。そこで変に意識してライブのやりかたを変えたりせずに、でも、POLYSICSが初見の若い子にも伝わるものじゃないと、やってて意味ないと思うのね。好きな人だけわかればいいとは思わないから。ちゃんと若い子が「あ、おもしろい!」と思えるものじゃないと。
それを特に思ったのは『ACTION!!!』以降だね。自分がどういう音楽をやっていくんだろう、って考えた時に、若い子の頭にでっかい「?」が浮かぶようなのはやりたくないしね。もともとそんなにわかりやすい部分が多いバンドじゃないけど、でもなんだかわかんないけど楽しいな、また観たいな、と思わせたいからね。
で、俺はやっぱり、なんだかわかんないけど踊れるとか、そういうものがやりたいんだよね。THE BATTLESみたいな。あれってなんだかわかんないじゃない? でも、たくさんの人を興奮させて踊らせるじゃない? 俺がやりたいのもそういうことなんだろうな、と思ったね。


──そうですね。だからもしここで、ポリがサビで「♪ウォーウォー」とか歌い出していたら、相当がっかりすると思うけど(笑)。


ハヤシ:(笑)。それやったらね、フミが怒るから(笑)。「これはねえよ!」とか言うから。


■「もっと『What's This???』なバンドになりたいのよ」


──今ってメジャーのバンドでも、アルバムを作るハードルってどんどん上がってると思うんですね、いろんな意味で。それを直感的にわかってるから「これくらいで充分なんじゃない?」ってなかなか思えなかったのかな、という気もした。


ハヤシ:いや、そういうふうには考えなかったけど……でもね、なんかね、あんまり時間ない気がしてて。こういうアルバムを作って、19曲っていうボリュームで、しかも初回盤には100曲ライブの映像も付くじゃない?
俺ねえ、前までは、POLYSICSはずっと続くと思ってたの。俺がいればPOLYSICSなんだ、俺がいれば続くよ、と思ってた時期はあった。でも、やっぱり一昨年ぐらいからかなあ……そうじゃないなあ、っていうか。やっぱり、フミがいて、ヤノがいて、UK(プロジェクト)がいて、キューンがいる、っていうので……そこで「いや、俺がいれば続くんだよ」っていう気にはなんない、というか。
ひとりでやろうと思えばやれるのかもしれないけど、それを考えなくなったな。やっぱしメンバーと話したりするのが好きだし……まあ、じゃまくさい時もあるけど(笑)。でも、こういう演奏ができるメンバーだったり……「アルプスルンルン」ってタイトルで曲を書いてきた時に、「『アルプスルンルン』、いいねえ!」って言うメンバーって、すげえいいよなあ、と思って(笑)。「何、『アルプスルンルン』って?」とは言わない。「Let’sダバダバ」もそうだったし。そこで「ええっ?」って言われたら、「Let’sダバダバ」自体が終わっちゃうわけよ。


──ライブでキラーチューンになってますもんね。


ハヤシ:ねえ? だからそこで「いいねえ!」って言うメンバー、それでデモを作ったら「これいいですね!」って言うスタッフ。
そう思った時に……自分のやりたい音楽っていっぱいあるんだけど、このチームでやってるんだったら、もっと……なんか、出し切りたいんだよね。何かを全部、一回一回。「持ちゴマまだあるんだぜ」とか、「これは次にとっておいて」とか思いたくない。
だから、なんだろうなあ……もっと『What's This???』なバンドになりたいのよ。もう活動歴も長いしさ。新しいことをやるのが怖かった時期もあるけど、もうそんなこと言ってられないというかね。だから、ライブも作品も、もっとどんどん変えたいし、トライしていきたい。「これでいいんだよ」とは思わない。もっともっとやんないと、と思ってる。