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雨のパレード・福永浩平、バンドシーン刷新への所信表明「僕らが思いっ切りパンチを入れないと」

2016年02月28日 17:11  リアルサウンド

リアルサウンド

雨のパレード(写真=下屋敷和文)

 これまでに残響レコードから2枚のミニアルバムを発表してきた男女4人組・雨のパレード。彼らのメジャーデビュー作『New generation』は、文字通り「新世代」の台頭を強烈に印象付ける作品だ。海外のクラブミュージックからの影響をバンドとして咀嚼し、日本語のフォーキーなメロディーと組み合わせる手法は、先達がまったくいなかったというわけではない。しかし、アンビエント色の強い音像やミニマルなリズムアプローチに関しては、明確に時代感が更新されていて、R&Bやソウルのテイストが強いのも今の気分。おそらくは、この作品が呼び水となって、2016年はバンドシーンの刷新がさらに加速していくはず。中心人物の福永浩平に、所信表明を語ってもらった。(金子厚武)


・「時代を塗り替えたい」


ーーメジャーデビュー作のタイトルが『New generation』というのは、明確なステートメントになっているわけですよね。


福永浩平(以下、福永):「メジャーだからこうしよう」みたいな意識は特になかったんですけど、「このタイミングで何をするべきか」っていうのはすごく考えました。それはサウンド面というよりは、どういう心持ちで取り組むのかっていう部分で、僕の中では「時代を塗り替えたい」っていう思いが強くあったんです。海外の新人アーティストたちを見てて、僕が共通してるなって思うのは、サンプリングパッドとかを使って、今までバンドでは出せなかった音をどん欲に取り込んでることで。僕はそういう世代が「New generation」だと思ってて、日本においてそういう世代を今後引っ張って行けるような一枚を作ろうと思って、今回の作品に取り組みました。


ーー『new place』リリース時のインタビューでは、影響源としてHow To Dress WellやÁsgeir、SOHN、Rhyeといった名前を挙げてくれていたと思うんですけど、新しい世代が出てきたことを最初に感じたのは、誰との出会いが大きかったですか?


福永:元を辿れば、Ásgeirかもしれないです。年齢を知って、「一個下かよ!」って思いました(笑)。あの人はたぶん最初はアコースティックで一人でやってて、プロデューサーがついてから、アナログシンセとかも含めたアプローチを始めたと思うんですね。それが3~4年前で、すごく惹かれるものがありました。


ーーÁsgeirは音だけではなく、メロディーもフォーキーだし、その意味でも雨のパレードと通じる部分がありますよね。


福永:そうですね。基本的にメロがいいやつが好きなんで、そこは大事にしつつ、音そのものというよりは、姿勢が大事というか、「この音が欲しい」ってなったら、何らかの機材を使ったりして、その音を出す。そこからはそれぞれの好みで派生していくものだと思うんですけど。


ーー雨のパレードの結成当初からそういう考え方だったんですか? それとも、どこかのタイミングで変化があったのでしょうか?


福永:やって行く中で、やりたいことがどんどん明確になって行った感じですね。今思うと、僕らが10代の頃とかは、サンプリングパッドが近くにあるような環境ではなかったので、音楽表現をする一番身近なカテゴリーが「バンド」だったんだろうなって。今は「バンドでありつつ、バンドサウンドじゃない」みたいなものを求めてるんで、今後はもっと欲しい音に素直になる時代になって行くんじゃないかなって。


ーー確かに、バンドとPCで作られる音楽の境界線は少しずつ薄れて来てて、例えば、ネットと親和性の高い渋谷の2.5D周辺ではそれが自然になりつつあった。でも、もうちょっとオーバーグラウンドなバンドシーンではまだ目立った動きがないので、その意味では雨のパレードがメジャーから作品を出す意義は大きいと思います。


福永:メジャーの一枚目でこういうことがやれたのはすごく幸せだし、「これで引っ張って行きたい」っていう感覚はすごくありますね。


――実際アルバムの曲にはこれまで使われていなかったアナログシンセやサンプリングパッドの音が使われていて、バンドが新たなステージに入ったことを感じさせますね。


福永:もともとこういう音は欲してて、これまでもギターにはギターっぽくない音を出すように注文したりはしてたんです。


ーーこれまではエフェクターでその効果を出そうとしていましたよね。


福永:ですね。なので、新しい機材もその延長で自然に取り入れたというか、変化はずっとしていたいなって思うんです。今回はSPD-SX、MPC、MS-20 mini、microKORGとかを使ってて、いろんな音を使って作りたいと思いました。今も新しい機材はどんどん増やしたいと思ってて、今度KORGからminilogueが出るんですけど、あれは絶対買いですね(笑)。


ーー「Tokyo」のミュージックビデオにも機材いっぱい出てきますもんね。


福永:あれ実はあんまり使ってないんですけどね(笑)。まあ、個人的にはステージが少しゴチャゴチャしてるくらいが好きなので。


ーー前は動き回れるスペースがあったけど、段々なくなってきてますよね(笑)。


福永:まあ、その分ステージが広くなればいいかなって(笑)。


ーーこれまではセッションで曲を作っているという話だったかと思うのですが、曲の作り方自体も変わったんですか?


福永:いや、作り方自体は変わってないです。ただ、その中で伝えることはより増えたかもしれない。これまで以上に、僕の好みの音楽、僕が感じる「New generation」に寄せたような音作りを今回はしてますね。


・「擦り切れてる今日に〈調子はどう?〉って」


ーーオープニングの「epoch」は音の意味で今の雨のパレードを象徴する仕上がりになっていると思うのですが、どうやって作られた曲なのでしょうか?


福永:一定のリズムが背景にずっと流れてるんですけど、あのリズムをまず僕が提示して、最初はどの楽器を使うか迷ってたんですけど、Nord Padの音で何かないか選んで、そこが決まったら、さらに「これを入れて、これを入れて」って作って行きました。なので、やっぱり作り方はセッションですね。


ーー作り方自体は変わってないけど、その場にある機材が変わって、それによって曲の印象も変わったということですね。今回の制作のタイミングでは、同世代のどんなアーティストから影響を受けましたか?


福永:AstronomyyとOceaánは大きいかな。あとはDisclosureの新譜もよかったし、FKA twigsとかも、いろいろです。


ーーちなみに、新譜はいつもどうやってチェックしてるんですか?


福永:Apple MusicをはじめとしたサブスクリプションとYouTubeと、Twitterもでかいですね。あとはCDショップとか、何だかんだ新しいアーティストを知る機会が一番多いのはCDショップかもしれないです。教えてもらうっていうよりは、自分で見つけた方が好きになるなって感じてて、だから、お勧めされてもあんまり何でもかんでもは聴かないようにしてるんですよね。縁がある人とは、遠回りしてもどこかで出会うと思うんで。


ーーバンドというよりはプロデューサー的なアーティストからの影響が大きそうですが、逆に言うと、自分たちがバンドである意味をどのように捉えていますか?


福永:僕だけで作れているわけではなくて、当然プレイヤーそれぞれの意思や意見が入ってるし、ディスカッションしながら作れる環境があるっていうのは、すごく有意義だと思ってます。あと僕が思う「New generation」は、必ずしも打ち込みで作り込んだものではなくて、生のグルーヴと混ざり合った、絶妙なバランスのものにすごくグッと来るので、音は今を感じると思うんですけど、やってることはある意味原始的だとも思うんですよね。


ーー一方で、先行シングルとして発表された「Tokyo」に関しては、ちょっと他の曲と色合いが違いますよね。


福永:そうですね。わりとベースがベースしてるし、ギターがギターしてるし。


ーーこれは「Tokyo」っていう歌詞のモチーフが先にあったのか、それとも、まず曲ができて、そこから歌詞のモチーフが生まれたのかというと、どちらでしょうか?


福永:「東京」っていうタイトルの曲はいろんなアーティストが作ってきたので、僕自身も憧れに近いものを持ってて、いつかは作ろうと思ったんですけど、中途半端なものは作れないとも思ってて。でも、この曲のオケができたときに、これなら行けるんじゃないかって思ったんです。メジャーデビューっていうタイミングも含めて、今かなと。


ーーオケが先だとすると、そもそもなぜ他とはややテイストの違うものができたのでしょうか?


福永:ちょっと煮詰まっていたというか、『new place』ができて、「ここからどう動けばいいんだろう?」って考える時期があったんですよね。「僕が憧れる海外の若手の方々にどうすれば近づけられるんだろう?」と思ってる中で、気分転換じゃないですけど、一回セッション中に逸れたこともやってみようと思って。それで作って行ったら、「new place」ができたときと同じような、「これだ」っていう感覚があったんです。The 1975的な、都会的な感じがあるんで、そこから「東京」っていうのを連想したのかもしれない。


ーー福永くんの出身は鹿児島ですよね? 「Tokyo」の歌詞には、東京に対する福永くんのどんな目線が反映されているのでしょうか?


福永:僕の中でのいろんなアーティストが歌ってる「東京」の印象は、「冷たい街」とか、そういう感じなんですけど、でも、僕は上京してからそう感じたことがないんですよ。好きなものに溢れてるし、出会いだっていっぱいある。だから逆に、居心地がよすぎるんですよね。歌詞で〈引き寄せた東京 夢を捨てたって 生きてけるように出来た街だ〉って歌ってますけど、田舎よりも適当に生きていけるというか、中途半端に「夢を叶えた風」な人たちが多いんじゃないかって。


ーーなるほど。そんなどこかモヤモヤした気分を抱えた人たちに対して、〈調子はどう?〉と呼びかけていると。


福永:これは僕ら自身に向けても言ってて、〈I seem to be crazy〉って答えてるんですけど、自分らも擦り切れてる今日に慣れてしまっているところがあるんで、僕らも含めたみんなに〈調子はどう?〉って言ってます。


・「クリエイティブとポップの境目を探してる」


ーー他の曲も含めて、「個人」に語りかけてるような印象を感じました。例えば、「Movement」にしても、一人一人の行動が大きな流れを作るんだっていう歌になってると思うし。


福永:その意識はあると思います。聴いてくれる人も含め、「僕らの手で一緒に時代を塗り替える」っていう意識を持って、どの曲の歌詞も書いているので。


ーー「Movement」の歌詞からは、今の若い人が感じているであろう同調圧力についても歌われているように思ったのですが、実際福永くんは今の同世代をどんな風に見ていて、どう呼びかけたいと思ったのでしょうか?


福永:僕は同世代に対して悲観的には感じてないです。例えば、音楽の話で言うと、十代のときからYouTubeで好きな音楽を選んで、吸収して、自分たちの形でアウトプットできる環境にあったので、それぞれの好きなことを真っ直ぐやってる人が多いなって思ってて。だから、これといった不満があるわけでもなく、僕らに関しては、クリエイティブとポップの境目を探しながらやってるって感じですね。


ーーむしろ、新しい世代に希望を感じている?


福永:そうですね。「New generation」っていうのは必ずしも雨のパレードだけではなく、僕らの世代で変えていこうっていう意識です。僕らが十代の頃は「何でこんなのが売れてるんだよ」って思ってて、そういう反発心はみんな持ってると思うんですよ。まあ、それぞれの世代が同じように感じてきたのかもしれないですけど、最近はアートディレクターとかでも同世代が増えてきたし、何か起きるんじゃないかって気持ちがありますね。


ーーもちろん、ひとつ前の世代に対するカウンターによって時代が動き続けているという側面はこれまでも常にあったと思うんですけど、福永くんは上の世代のどんな部分に不満を感じていたのでしょうか?


福永:音楽のことで言うと……普通に聴き難いと思うものがすごく売れてたりして、それはただ疑問でしかなかったです(笑)。別に文句があるわけじゃなくて、ただ単純に憤りですね。「なんでだよ?」っていう。


ーー影響源がドメスティックな音楽だけに完結しているものへの憤り?


福永:そういう部分はあると思います。なので、「もうそろそろ入れ替わりましょうか」っていう。


ーー僕自身2015年はバンドシーンの潮目の変化を感じたんですけど、福永くんも「変わってきた」と感じていますか? それとも、「変えないとマズイ」っていう感じ?


福永:「今移り変わろうとしてるんじゃないか」って感じですね。


ーーどういう部分でそう感じますか?


福永:うーん……それは空気感ですかね。今ってもうアイドルブームって感じでもないし、BPMの速い4つ打ちが流行ってるわけでもないし、すごい不安定だと思うんですよ。


ーー「ここからどっちに行くんだろう?」ってタイミングだよね。


福永:だからこそ、ここで僕らが思いっ切りパンチを入れないとダメかなって。


――「僕ら」って言うときに、国内の同世代のバンドへのシンパシーも含まれていますか?


福永:いや、それはないですね。好きなことを突き詰めてやってるような、いいバンドはいっぱいいると思うんですけど、好きかって言われるとわかんないです。そこら辺を意識しちゃうと「界隈感」が出ちゃうというか、視野は広く持っていたいので。


ーー逆に言うと、国内の同世代のバンドに対するライバル心はある?


福永:ライバル心はみんな常に持ってると思います。絶対負けたくないですもんね。


ーー僕からすると、音はクールなんだけど、内面は熱いっていうのが「New generation」の共通点だと思ってて。


福永:うん、それはあるかも。


ーー何でそうなんだろうね?


福永:何ででしょうね(笑)。まあでも、好みなんじゃないかなあ。たまたま僕らの世代はクールなものをかっこいいと感じる人が多いけど、内面的には昔から変わらないものが脈々と受け継がれていて、昔はそれがロックだったのかもしれない。僕らの世代は何て言っていいのか……それはまだわからないですけど(笑)。


ーーじゃあ最後に、国外も含めて、今の雨のパレードのライバルを挙げるとすれば、どんな名前が挙がりますか?


福永:そうですね……僕の耳に届いてきてる人は、すでにそれなりに知名度があって、みんなの先を行ってるような人たちだと思うので、なかなか挙げるのは難しいんですけど、目標というか、リスペクトも含めて挙げるなら、途中でも言ったAstronomyyとOceaánかなあ。単純に、一緒にライブしたいなって(笑)。(取材・文=金子厚武)