2016年02月28日 11:22 弁護士ドットコム
会社の費用で海外留学をした後、しばらくして退職しようーー。そんなことを考えている会社員の男性が、退社したら留学費用を返還しなければいけないのかという疑問を、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに寄せた。
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男性によれば、「自主都合で退社する場合、留学後5年間の退社であれば留学費用の一部あるいは全額を返還という誓約書に署名しています」という。男性は留学後、10カ月での自己都合での退社を考えている。そのため、費用の返還が必要となってくるが、できるだけ支払いたくない意向だ。
この男性以外にも、ネット上では留学後の費用返還をめぐるトラブルが多く寄せられている。退職に際しては、社費留学の費用を返還しなければいけないのだろうか? 靱 純也弁護士に聞いた。
「留学費用の返還は、その留学に業務性があるか否かによって、判断がわかれます」
どういうことだろうか。
「業務性が認められる場合は、費用返還するとの誓約書があったとしても、労基法16条に違反して無効であり、費用を返還する必要はありません。
業務遂行に必要な費用は本来、使用者が負担すべきものです。そのため、退職したときは労働者が費用を支払うという合意は、実質的には労働者の『退職の自由』を不当に制約するものといえます。
したがって、このような誓約書は、労働契約の不履行について違約金や損害賠償を予定することを禁止している労基法16条に違反するため、無効と判断されます」
留学費用を返還しなければならないのは、どのような場合だろうか。
「いっぽうで、留学に業務性がない場合、本来その費用は労働者が負担すべきものです。そこで、留学に業務性がなければ、原則として留学費用を返還する必要があります。
一定期間内に退職した場合に留学費用を返還するとしても、労働者の退職の自由を不当に制約するとまではいえません」
留学の「業務性」はどのように判断されるのだろうか?
「裁判では、具体的な事情を検討して業務性の有無を判断しています。
海外留学の事例で、留学を職場外研修の一つに位置付けており、業務に関連する学科の専攻を命じられていたケースでは、留学の業務性を認め、費用返還が否定されました(東京地裁平成10年9月25日 新日本証券事件)。
他方、同じ海外留学の事例でも、留学が形式的には業務命令だったとしても、留学先での科目選択や留学中の生活が本人の自由に任せられていたケースでは、業務性が否定され、費用返還が認められています(東京地裁H14.4.16 野村證券事件)。
今回の相談者の投稿内容からは、どのような留学であったかは不明です。しかし、誓約書を書いていても、返金しなくてよい場合もありますし、費用全額ではなく一部の返金でよい場合もあります。
その留学に業務性があったか否かをもとに、会社側と交渉することになります」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
靱 純也(うつぼ・じゅんや)弁護士
大手銀行、製薬会社勤務を経て2004年弁護士登録。交通事故、労働事件、債務整理、企業法務などに幅広く対応。気軽に相談できる弁護士を目指し無料法律相談に力をいれている。
事務所名:あゆみ法律事務所
事務所URL:http://www.ayumi-legal.jp/