2016年02月28日 07:31 弁護士ドットコム
「交際相手と別れた後に、妊娠がわかった」。弁護士ドットコムの法律相談に、そんな相談が寄せられることは珍しくありません。中絶すると決める人もいれば、シングルマザーとしての出産を決意する人もいます。
ある女性の場合、元カレに連絡をとると「中絶するお金は出すけど、認知しないし、養育費も出さない」と、出産に大反対だったそうです。しかし女性は、1人でも産んで育てていく決心をしました。
ただ、心配もあります。「貯金もないし、働けない間のお金の不安があります。認知はしてもらわなくていいんですけど、相手が出産に反対しても、産んで大丈夫でしょうか? せめて養育費をもらえないんでしょうか?」と相談をよせました。
出産に反対する元カレから、養育費をもらうために、どんな手続きが必要なのでしょうか? 須山幸一郎弁護士に詳細な解説をしていただきました。
A. 相手が反対していても、養育費の請求はできます
まず前提として、相手の男性が出産を望まない場合でも、妊娠した女性が出産すること自体には、何ら法的な問題はありません。
そして、父親には子に対する扶養義務がありますので、相手の男性から認知されれば、養育費の請求をすることは可能です。
時折、「認知はしてもらわなくてもいい。でも養育費は支払って欲しい」と考える方もいるようです。しての男性が、自ら進んで支払ってくれるならそれはもちろん結構なことです、しかし、養育費を支払ってくれない場合、認知を求めずに養育費だけを法的に請求することはできません。
生まれてくる子は、婚姻した夫婦間の子ではありません。すると、相手から認知されない限り、法律上の親子関係が発生しないのです。
したがって、養育費を請求するには、まず相手から認知されることが必要です。
認知については、相手がすすんで認知届を提出してくれるようであれば、問題はありません(任意認知)。
では、相手が認知をためらった場合は、どう対処すれば良いのでしょうか。
相手が認知しない場合、認知を求めるには、まず家庭裁判所に認知調停を申し立て、相手と話し合いをしなければなりません(調停前置主義)。
なお、最近は、費用が安くなってきたこともあり、調停の中で「DNA鑑定」を行う場合も増えています。
調停において、双方の間で、その子どもが相手の男性の子であるという合意ができたとします。
その後、家庭裁判所が必要な事実の調査を行って『その合意が正当である』と認めれば、合意にしたがった審判がなされ、認知が成立します。
一方、そのような合意ができない場合は、家庭裁判所に「認知の訴え」を起こすことになります。
では、もし仮に「中絶」という決断をした場合、妊娠したのは双方の合意ですので、原則として、手術費用は双方で負担すべきです。
また、相手から中絶を求められ、女性が中絶せざるをえなくなった場合、女性は、妊娠から中絶というプロセスを経るなかで、精神的・身体的に苦痛を生じることが多いものと思われます。
これらについて、慰謝料として、一定の金額を請求できることが多いでしょう。
慰謝料の額については、『どのような経緯で妊娠・中絶するに至ったか』という事情に左右されます。
たとえば、結婚を前提に交際しており、双方とも妊娠することを容認していたのに、いざ妊娠が発覚してみると、突如男性が態度を変え、中絶を求めてきたというような場合は、慰謝料の金額が高くなることが多いでしょう。
逆に、いわゆる『遊びの関係』で、避妊行為もしていたが、『予想外に妊娠した』というような場合は、相対的に低くなるものと思われます。
【取材協力弁護士】
須山 幸一郎(すやま・こういちろう)弁護士
2002年弁護士登録。兵庫県弁護士会。神戸家裁非常勤裁判官(家事調停官)。三宮の旧居留地に事務所を構え、主に一般市民の方を対象に、法律相談(離婚・男女問題、相続・遺言・遺産分割、借金問題・債務整理等)を行っている。
事務所名:かがやき法律事務所
事務所URL:http://www.kagayaki-law.jp/