2016年02月28日 07:31 リアルサウンド
乙女新党が、3月2日にニューシングル『雨と涙と乙女とたい焼き』をリリースする。作詞を高橋久美子(exチャットモンチ―)、作曲を日高央(THE STARBEMS、ex BEAT CRUSADERS)、編曲をヤマモトショウ(ex ふぇのたす)とrionosが手掛けたこの曲。「女性が歌うシティポップ」をテーマにしたサウンドに乗せて「たい焼き」をモチーフにしたストーリーが歌われる、かなりユニークな一曲となっている。
今回リアルサウンドでは、高橋久美子・日高央・ヤマモトショウという3人のクリエイターによる座談会を実施。楽曲制作の裏側から、それぞれのアイドル観、シティポップ観など、ざっくばらんに語り合ってもらった。(柴那典)
■「『2軍やから、絶対たい焼きやろ』と」(高橋)
――今回は乙女新党の『雨と涙と乙女とたい焼き』の作詞、作曲、編曲をつとめた3人に集まってもらったわけですが、これ、どういうところから話が始まったんでしょう?
日高央(以下、日高):スタートとしては、まず俺に話が来たんだよね。ディレクターさんから「シティポップを書いてほしい」って話があって。
――日高さんはBEAT CRUSADERSからTHE STARBEMSをやっているのでパンクとかハードコアのイメージが強いですけれど、もともと音楽のルーツとしてはアメリカンポップがあるんですよね。
日高:そうですね。モンキーズが音楽のスタートなんで。旧知のスタッフさんだったので、そこらへんも知ってる人なんですよ。それこそビークル以前から知り合いだし。だから「そういうのもいけるんじゃないか」って踏んでくれたんじゃないかな。
――なるほど。その後に高橋さんに作詞の依頼があった。
高橋久美子(以下、高橋):はい、そうです。その前から乙女新党について「教室の中でも2軍的な立ち位置の女子」って聞いてたんで、「これはいい!」と思って。私も2軍的、というか3軍ぐらいやったんで(笑)。「2軍にだったら書けるかも」と思ったんですよ。
日高:で、クミコン(高橋久美子)に話がいったときにはもう俺の曲があったんじゃないかな。
高橋:そうそう。曲を聴いたら、「えっ日高さんがこんな曲を?」って思うくらい可愛い曲で。しかも、お風呂で歌ってるみたいなのが来たんですよ。酔っ払った勢いで歌ったみたいな感じで。
日高:俺の仮歌のやつね(笑)。すみませんでした。
高橋:いやいや、それがすごい良かったんですよ。あれを聴いて「気楽に書こう」って思ったんです。それで「サビは『シャララ』って歌うくらいの感じでいこう」って思いました。
――歌詞にはメンバーの会話っぽいところもありますよね。
高橋:曲をもらったときに、ラップ部分が印象的で、ここをメンバーさんたちの会話のようにしたら面白いかもって思ったんです。それで、部活帰りの少女たちの会話っぽくしてみた。私は吹奏楽部だったんですけど、中・高校生の頃って部活帰りはいつもお腹がグーグーいうくらい腹ペコだったイメージで。で、帰りにパンとかおやつとかよく食べてたんです。
――だから「たい焼き」になった。
高橋:「2軍やから、絶対たい焼きやろ」と思ったんですね。「絶対マカロンじゃないやろ」って(笑)。それも、おっちゃんと話して買えるみたいな商店街のたい焼き、という。
――そして、ヤマモトショウさんが編曲という形で携わるようになった。
ヤマモト:そうですね。僕のところに来た段階で、メロディも詞もある程度固まってました。で、僕としては「シティポップで自分なのかな?」っていうのは、実はそんなにピンとくる感じじゃなかったですけど。
日高:ふぇのたすは、もうちょっとピコピコな感じだったよね。
ヤマモト:そうですね。どっちかっていうとエレクトロ的なバンドで。でも、対バンとかを通してシーンとしては見てきたんです。だから「なるほど、2015年とか2016年のシティポップを考えてみればいいのかな」っていうような感じでした。
■「素直に自分の解釈した『シティポップ』をするのが正解なんだと思った」(日高)
――今回の作家陣って、実はきれいに世代がわかれているんですね。
日高:そうです。20代、30代、40代。
高橋:確かに。ほんまや。
――そうなってくると、今回のシングルの最初のテーマにあった「シティポップ」っていうものをどう捉えるか、それぞれの感覚も違うと思うんですよ。
日高:全然違うでしょうね。
――その辺をどう見てるのかをまずは聞いていこうと思うんですが。まずヤマモトさんはどうでしょう?
ヤマモト:僕の印象としては、僕は80年代をリアルタイムで聴いてるわけではなくて、むしろ2015年のバンドシーンのひとつのムーブメントみたいなものとして感じてましたね。「シティポップ・リバイバル」みたいなものがあるっていう。
日高:Awesome City Clubとか?
ヤマモト:まさにそうです。Awesome City ClubとかShiggy Jr.とか、Yogee New Wavesとか、そういうバンドを見ながらインディーでバンドをやってきたんで。そういう同世代の音楽を聴いて「今のシティポップ」を捉えていた。僕は自分自身の音楽はそういうものだとは思ってなかったんですけど、それを参考に「これが『今のシティポップ』なんだな」と考えたという。
日高:昔のをディグったりは、したんですか?
ヤマモト:僕は今回はあえてしなかったですね。今の解釈でやってみよう、と。
日高:あえて寄らないように。なるほどね。
――高橋さんはどうですか? たぶん世代的には「シティポップ」っていう言葉自体をあんまり通ってない。
高橋:そうなんです。だから、後から逆輸入してきたみたいな感じです。
日高:でもサニーデイ・サービスは聴いてたよね? はっぴいえんども好きだった?
高橋 もちろん聴いてます。好きです。
――でも、90年代当時、サニーデイ・サービスは「シティポップ」とは言われてなかったんですよ。
高橋:そうなんです。だから、聴いてきたという感覚がないんですよね。
――日高さんはどうでしょう? いろんな音楽を幅広く掘ってきた上で、シティポップというものをどう解釈しましたか?
日高:俺はAwesome City Clubとか今の動きも知ってるし、ちょっと強引だけどThe fin.とかHAPPYだってシティポップっぽい要素がちょっとあったりするよね。洋楽を取り入れて、それが混ざってるみたいなことを考えると、根本的にははっぴいえんどぐらいがスタートなんじゃないかな? 難しいとこだけど。
――たしかに、さかのぼっていくとそこに行き当たりますよね。
日高:まあ諸説はあるんだけどね。寺尾聰の「ルビーの指輪」も「シティポップ」っちゃ「シティポップ」だし。
高橋:えー!?
日高:あとみんな意外だろうけど、矢沢永吉さんも「シティポップ」だったんだよね。ソロになった直後くらいかな。「時間よ止まれ」はロックンロールじゃなくてAORだから。バリバリのロックンロールだったキャロルをやめて、ちょっと大人っぽい音楽をやり始めた。
――でも、海外の動きに影響を受けて、それを日本なりに解釈したロックなりポップスを作っていたバンドとして、一番大きな存在ははっぴいえんどですよね。
日高:だから、そういう意味では、そういうところに影響を受けて育った人が俺の中での「シティポップ」なんだよね。実は自分の中で一番イメージが近かったのはCymbalsで。洋楽も好きだけど、はっぴいえんどとかYMOとかも好きで。シティ的な、オシャレな感覚を持ったことをやろうとしてた。
ヤマモト:うんうん。
日高:それのさらに再構築が今のシティポップになってる。実際、ヤマモトくんとかは違うかもだけど、若い世代に「Cymbalsが超好きでした」みたいなやつが意外といるのよ。
ヤマモト:あー、わかります。
日高:沖井(礼二)くん、今の方が人気あるもん(笑)。Cymbalsやってたころは、俺も隣にいて手伝ってたから。「人気ねえな」って2人でぼやきながら。
――ビークルを始める前、日高さんはCymbalsのスタッフをやってたんですよね。
ヤマモト:ええっ? そうなんですか!
日高:そうそう。まあ、LD&Kっていうレーベルの社員だったからね。
高橋:そっか!
日高:あのころは、こっちとしては渋谷系の再構築のつもりで一生懸命おしゃれにやってるのに「全然わかってもらえないね」みたいなことを言ってたのよ。でも、今は「シティポップ」っていう一言で、すーっと通じる。うらやましい。
高橋:渋谷系も「シティポップ」に入るんですか?
日高:入ると思います。バッチリ入ると思います。暴論なのかもしれないけど、90年代の渋谷系って、シティポップの再解釈だと思うんだよね。
ヤマモト:はー、そうか。
――そうですね。海外の同時代的なポップスに刺激を受けて、でも日本人としての感覚も活かして、単なるその物真似にはならない独自の音楽を作る。はっぴいえんどから連なるそういう系譜を「シティポップ」と括ると、80年代の山下達郎さんも、90年代の渋谷系も、今のシティポップの人たちも全く同じ。
日高:構図は一緒なんですよね、確かに。そういう意味ではヤマモトくんと一緒で、あんまり昔の引用をするより、素直に自分の解釈した「シティポップ」をするのが正解なんだと思ったな。3人とも微妙に時代はずれてるんだけど、その解釈はみんな一緒かもしれない。
高橋:そうかもそうかも。
――でも、90年代から00年代にかけては「シティポップ」という言葉が無かったっていうのは興味深いですね。
日高:ハイスタは大きかったのかもね。
高橋:そうかも! 私はもろにAIR JAM世代なんで。高校のときに男子はみんなハイスタをコピーしてたし、えっちゃん(橋本絵莉子)もコピーしてました。その後はモンパチ(MONGOL800)とかも流行りだして。ガガガSPとか、青春パンクとかも全盛期だった。だから、あんなオシャレな音楽はなかったです。
日高:そうなんだよね。ファッションもストリート系だった。オシャレなものが全然受けなかった。みんなハーフパンツ履きたかったからね。
――そうか、90年代と00年代は「シティ」じゃなくて「ストリート」の時代だったんだ。
高橋:そうそう! 日高さんもビークルのときはハーフパンツ履いてましたもんね。
日高:バンバン履いてたよ。ビークルはわざと印象操作をしてたんだよね。どっちかっていえばナードな音楽だったし、ナードなパーソナリティの方が強い人間の集まりだったんだけど、「ハーパン履くことでストリート感が出るなら履こう」みたいに思って、わざわざ買いにいったりして。
高橋:普段は履いてなかったってことですか?
日高:全然履いてなかったよ。
ヤマモト:ははははは!
日高:あと、当時やってたのは、ハイスタにしろ、BRAHMANにしろ、BACK DROP BOMBにしろ、あの頃のパンクバンドって、みんなステージ袖から友達のライブを観てるのよ。だからウチらも、対バンがギターポップっぽいときでも、「あえて袖で友達と立っててくれ」って言って。それでパンクっぽく見せるっていう。
高橋:なるほど(笑)。
日高:ギターポップもパンクも両方好きだし、両方の良いとこをとりたいっていうのがビークルだったんだよね。そう考えると、今のシティポップは全部のおいしいところをちゃんと取ってる感じはするよね。洋楽っぽい洗練もあるし。
■「俺が彼女達に一番歌わせたいなと思ったのが、エモい感じ」(日高)
――ただ、こういう話で挙げてきたような今のバンドって、みんなシティポップって言われるのを嫌がってたりもするんですよ。もしくはどうでもいいですよ、みたいに言ってたり。
日高:でも、それはいつもそうなのよ。90年代だって、みんなメロコアって言われるのがイヤだったんだから。
高橋:あー、イヤだったろうなー(笑)。
日高:ただ、00年代ってそんなにジャンルで括られることがなかったと思うのね。チャットモンチーだってそうだと思うし。
高橋:まさにそうですね。ロックか、ポップか、それくらいでした。
日高:でも、今はジャンルで言われるようになってる。「メロディック」とか「シティポップ」とか、揺り返してる感じはあるよね。その一方で「アイドル」っていう括りもあるわけじゃない?
高橋:うんうん。
――ここ数年のアイドルって、音楽的には本当にいろんなものが出てきていますよね。アイドルグループという看板さえあれば、どんな音楽性もありになってきている。
日高:ね。中身はもう本当になんでもあり。
ヤマモト:そうですね。
――ヤマモトさんは、そういう今のアイドルシーンをどう見ています?
ヤマモト:僕がふぇのたすをやってたときは、かなりアイドルと対バンしてたんですよ。「アイドルなんですよね?」って言われる瞬間すらあって。
日高:ふぇのたすはそこをあえて狙ってた感じだもんね。
ヤマモト:そうですね。2012年くらいにバンドを始めたときに「アイドルと対バンしていくことによって面白い世界が開けていくんじゃないか」という感覚があって。で、実際、アイドルシーンみたいなところに行って感じたのが、「言うか言わないか」っていうところなんですよ。
――言うか言わないか?
ヤマモト:僕らはロックバンドのつもりでやっていたんで「アイドルではないです」と言っていたんです。だけど、アイドルと対バンするし、アイドルファンにとっても面白いものを作りたいです、って。でも、あの時点で「アイドルです」って言えばアイドルになってたと思います。メンバーに男はいましたけど(笑)。
日高:うんうん。でもたぶん通用したろうね。
ヤマモト:それは活動してく中では感じましたね。あと、やっぱりアイドル曲のマナーみたいなものがあるんですよ。それがアイドルファンの間で生まれている。それはやっていく中で勉強しましたね。
日高:様式美だよね。MIX打ちやすいとか。アニソンとアイドルソングって、何でもアリだけど、実はルールがある世界なんですよ。
高橋:なるほど。
――日高さんは、そういうここ数年のアイドル楽曲の流れはどう感じてます?
日高:まあ、やっぱり作り手としてはこれまでの流れとは違うものをやりたいと思いましたよね。だから今回乙女新党の過去の曲も聴いた上で、俺が彼女達に一番歌わせたいなと思ったのが、エモい感じなんですよ。90年代エモみたいな、ちょっと泣きのある歌。なんか天真爛漫でハッピーなだけの曲はちょっとイヤだったというか。
ヤマモト:そうですよね。サビはかなり泣きのメロディだと思いました。
日高:そうそう、そこはがんばって、日高節を入れました。だから「シャララ」が、それをマイルドにしてくれて本当によかった。
高橋:本当ですか?
日高:あそこにエモい歌詞がのってたら、本当に泣きになっちゃうから。
高橋:私も、今回の歌詞に関しては、乙女新党さん達の他の歌詞を見て、わりとアイドルって感じのが多かったので、それとは違うものにしようと思ったんです。「人生って楽しいだけじゃないし、雨が降ってても、虹が出なくてもいいやん」みたいな。
――ただハッピーなだけではない。
高橋:そう。でも「とにかく元気にいきましょう」というフレーズに、悩むことも嫌なこともたくさんあるけど、とにかく食べて元気に明日も頑張ろうという思いを込めたんです。逆に言うと、とにかく元気であれば少々勉強はできなくても、失敗ばっかでもいいじゃないっていう。大丈夫大丈夫、元気だったら雨が降って濡れても、虹が出なくても、泣くことがあっても何度だってやり直せるからっていう肯定の思いを込めて書いたんです。でも、こないだライヴで実際の乙女新党に会ったら、全然2軍じゃなかった。めっちゃかわいいやん!って(笑)。
日高:そうだね。1月にラフォーレ2daysがあって、いろんなアイドルがいっぱい出るオムニバスライヴで。そこで俺も観たんだけど、すごかったね。
高橋:めっちゃかわいかったんですよ。
日高:しかも俺が行った日はトリだったから、お客さんの盛り上がりもすごくて。モッシュも起こってたし、まだ発売してないのに、もうすでにこの曲でMIX打ってるんですよ。
高橋:へー!
日高:あれを観た瞬間にMIXの意味がようやくわかった。合いの手とかコールとかだと思って「何がミックスやねん」って思ってたんだけど、「ああ、そうか。曲と掛け声がミックスされてんだな」って。
高橋:掛け声が入ってこそ、曲が完成なんですよね?
ヤマモト:そうですね。あれがすごいと、なかなか感動しますよ。ファン同士でMIXを競いあってるようなところもある。
日高:ヤマモトくんが見た今までで一番すごいMIXってある?
ヤマモト:個人的なレベルの話なんですけど、僕、寺嶋由芙っていうアイドルに曲書いてるんですね。で、ゆっふぃーがライヴでマドンナの「ライク・ア・ヴァージン」をカバーしてるんですよ。そうしたら、普通はMIXって「タイガー! ファイヤー!」って言うんですけど、その曲だけやたら英語の発音がいいんです。「Tiger! Fire!」って。たぶん洋楽だから(笑)。
日高:MIXもそれにあわせてるんだ(笑)。
ヤマモト:そう。「わー、センスあるなー」と思いました(笑)。
――日高さんは、そういうアイドルファンのムードはどんな風に見ていますか?
日高:俺は最近だとBiSくらいからアイドルに関わっているんですけど、実はそれ以前からアイドルには楽曲提供してるんですよ。そもそもメロン記念日に曲書いたのが始まりだったから。
――そうか、あれが2009年の頃でしたね。メロン記念日×BEAT CRUSADERSという名義で「DON'T SAY GOOD-BYE」をリリースしていた。
日高:そのときはモーニング娘。という巨大なスターがいて、その陰でメロン記念日は2軍的な扱いを受けてて。で、「メロンの方がいいよね」みたいなこと言ってたら、意外とバンド側にもそういうやつが多かったんだよね。それで盛り上がって、「みんなで曲を書こう」みたいになった。そこから「メロン記念日ロック化計画」みたいのが始まって、それの第一弾だったんです。
――その年にビークルが夏フェスに出た時にも、たしかサプライズゲストでメロン記念日が出てきていたと思うんです。でも、あのときのロックフェスのお客さんはアイドルに対して総スカンだった。
日高:そうそう。あんまり盛り上がってくれなかったな。あと、ちょっと怒られた(笑)。
――2012年にふぇのたすがデビューした頃はもう、ロックフェスにアイドルが出るようになってましたよね。だからその3年くらいの間に何かがあった。
日高:何があったんだろうね、一体(笑)。
ヤマモト:ただ、その当時も、僕らみたいなロックバンドがアイドルイベントに出ることに対しては、まだ抵抗がありましたね。それは僕らのファンからもそうだし、アイドルファンからもそうだった。でも、その後1~2年やってくなかで、どんどん変わっていきましたね。どっちもアリになった。
高橋:アイドルがどんどん認められてきとるってことなんですか? それは。
日高:そうじゃない? 楽曲的にも、実力的にも。その変化は確かに大きいかもね。この10年くらいで。だから今はTHE STARBEMSが乙女新党と対バンしてもアリかもしれない。
■「どんな風に作っても、あの子たちが歌うことでアイドルソングに」(ヤマモト)
――アイドルソングの作り手として、ヤマモトさんは今回の乙女新党の曲についてはどういうことを考えました?
ヤマモト:僕もアイドルの曲を作るときって、ある種そのフォーマットに乗っからなきゃいけない部分があるなと思ってたんですよ。でも、今回、思った以上にそれがないんだなって感じて。前回のシングルの清 竜人さんがつくったやつもそうですけれど、本当に音楽的挑戦がある。
日高:ルールがないよね。
ヤマモト:でも、そんな中で結局大事なのはメンバーの可愛らしさみたいなものだったりするんですよね。僕らがどんな風に作っても、それをあの子たちが歌うことでアイドルソングになる。ちゃんとまとまるんです。
日高:適応能力すごいよね。もし自分が18、19歳のときにあれを人からもらって、あれだけちゃんと覚えて、踊って、歌えって言われたら無理だよなあ、って思うから。
ヤマモト:そうなんですよ。できないですよね。だからこそ、作る側は極端にやれる。振り切っても大丈夫だなって思いました。
高橋:歌詞を書いてるときもそれはありました。彼女たちなら乗りこなせられると思ったんですよね。「たい焼き」とか、ちょっと不思議な、アイドルが口にしなさそうな言葉を入れても、逆に映えると思った。
――今回の乙女新党の曲はTVアニメ『ナースウィッチ小麦ちゃんR』のテーマソングですが、そういうことも意識しました?
高橋:はい。どんなアニメなんだろうと思って、始まる前にあらすじを見て。そうしたら、なかなか健気なんですよ、その子たちが。これは乙女新党の2軍っぷりともかぶっとるっていうので、いいと思って、両方にリンクするような歌詞を書いたんです。
――日高さんはどうでしょう?
日高:俺が思うのは、アニメにも本当に禁じ手がないよねっていう。バンドもアイドルもテーマソングになるし、K-POPでも不思議はないし。で、もちろんアニソンシンガーもいる。ゼロ年代の初頭から声優さんと音楽がシンクロしていく流れがあって、それが今はすっかり定着してるから。
ヤマモト:僕としては、アニメだからといって、アニソンっぽいフレーズを入れたりする必要はないだろうなって思ってました。アニメに寄るよりも、むしろアイドルとして、乙女新党としてやった方がいいんじゃないかなって。
高橋:凛としてた方が格好いいですからね。
ヤマモト:そうそう。普通に「いい曲じゃん」みたいに思ってくれる方が、結局はファンになってくれる気がする。
――そういう意味では、乙女新党が声優としてデビューして、アニメのエンディングをやるっていう意味でも、その作り手がこの3人であるっていう意味でも、かなりクロスカルチャーが進んでいる。
高橋:本当ですね。いろいろ混ざっていくんですね。こうやって氷がちょっとずつ溶けていくんですね。
日高:そうなんです。地続きなんですよ。
高橋:みんな、昔だったら「おかしいな」って思ってたところが、だんだん普通になっていくという。そうすると、乙女新党は長女みたいなみたいな役目ですかね。次女と三女のときには、「お姉ちゃんもやったやん」ってなるでしょ? 長女のときには叩かれることもあるけど、そのリスクも負いながら、面白いことをやっていくっていう。
日高:だから、意外と乙女新党はパンクスですよ。だって、今回のアニメだってアイドルが声優をやってるわけでしょ。アニメファンからしたら、面白くはないはずだしね。「素人が声優をなめるな」みたいなことはあるだろうし。だから、じゃんじゃんやってほしいですね。禁じ手を破ってほしいと思う。
――では最後。今後の乙女新党への期待を語ってもらえればと思うんですが、どうでしょう?
ヤマモト:やっぱり、もっと何でもアリなものを見たいですね。「次は何やるんだろう?」って思わせるようなこととか、「これがアリなんだ」って驚かせるようなこととか。それをリスナーとしても楽しみにしてます。
――高橋さんはどうですか?
高橋:さっきクロスカルチャーって言葉を覚えたばっかりなんですが、それやなと思いました(笑)。あと、衣装がめっちゃかわいいんですよ。髪留めに「たい焼き」が付いてるんですよね。見ました?
日高:それは気づいてなかった。そうなんだ。
高橋:物販でTシャツとかだけじゃなくて、そういうを売っても面白いやろうし。ファッションと混ざるのもいいんじゃないかな。
日高:女子に観てほしいかもね。乙女新党は。
高橋:そうそう。乙女新党って、SPINNSとコラボしてたりするんですよ。古着をアレンジして着て写真撮ったりして、それもかわいくて親近感がわくんです。そういうファッションの部分では、「ザ・アイドル」っていう感じじゃなくて、ちょっとやっぱサブカルが入ってる子たちやなって思ったので。そういう部分でも女の子にも発信できると思うんです。
日高:俺もね、楽屋で挨拶したときに思ったのは、私服がオシャレなんですよ。これをファンの人たちにも見せてあげたいなってのもあるし、男の子だけに見せるのももったいない気がする。女の子が見ても可愛いと思うんです。それに、アイドルってそういうのあるじゃないですか。モー娘。も、ももクロも、女子が憧れる対象になる。
――でんぱ組.incとかBABYMETALもそうですね。
日高:乙女新党もそういう瞬間がまもなく来そうな気がするんで。女子にも注目してほしいですよね。