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トータス、アニコレ、ダイヴ……USインディー各世代の最新作にみるシーンの充実

2016年02月28日 07:31  リアルサウンド

リアルサウンド

トータス『ザ・カタストロフィスト』(Pヴァイン)

 USインディー・シーンはいつだって元気だ。しっかりとネットワークが張り巡らされ、いつもどこかで何かが起こっていて、お互いに影響を与え合っている。いってみればロックの最前線。今回は1~2月にかけてリリースされたUSインディーの新作のなかから、新人からベテランまで織り交ぜて5作品選んでみた。


 ポストロック再評価の声が高まるここ数年。そんななか、待ってました! とばかりにポストロック・シーンを代表するバンド、トータスが7年振りの新作『ザ・カタストロフィスト』をリリースした。メンバーは2001年作以来、不動のラインナップ。これまでの作品に比べると音の作り込みはゆるやかだし、リズムに対するアプローチもシンプル。音と音の間にゆったりしたスペースがあり、すべての曲はオーガニックに繋がってアルバムに心地良い流れを生み出している。そんななか、時折、ザラついたディストーション・ギターや重いドラムがダイナミックに音響空間を押し広げる。そして、何より本作の大きな特徴は、インスト中心で活動してきた彼らがヴォーカル曲を2曲収録していること。元USメイプルのトッド・リットマンをヴォーカルに迎えた、デヴィッド・エセックスのヒット曲のカヴァー「ロック・オン」。ヨ・ラ・テンゴのジョージア・ハブレイがたゆたうように歌う「ヨンダー・ブルー」。どちらもアルバムに自然に溶け込んでいて違和感を感じさせない。さらりとしていながらコクがある本作は、長年かけて磨き上げた彼らの洗練された実験精神が伝わってくるポストロック吟醸盤。聴けば聴くほど味わいが広がっていく。


 ポストロックの全盛期が20年前なら、ブルックリン・シーンが盛り上がったのは10年前くらいのこと。個性豊かなアーティストがひしめきあうなかで、シーンを代表する存在として注目を集めてきたのがアニマル・コレクティヴだ。これまで彼らは作品ごとにスタイルを変化させてきたが、新作『ペインティング・ウィズ』はメンバーいわく「僕らが初めてNYで一緒に演奏した頃のようなプリミティヴなサウンドにしたい」というテーマのもと、最近の彼らの特徴だったエフェクティヴなギター・サウンドは姿を消して、ドラムやパーカッションが刻む力強いビートが主役。そこに彼ららしい奇妙で、それでいて美しいメロディーに乗ってヴォーカルが飛び回る。ゲストにはリード奏者のコリン・ステットソン(ゴッススピード・ユー!ブラックエンペラーやアーケイドファイアの作品などに参加してきたカナダのインディー・シーンの重要人物)と、なんとジョン・ケイルが参加。二人とも現代音楽とロックを融合させた作風なのが共通点だが、それはアニマル・コレクティヴも同じこと。声とビートというプリミティヴな要素を軸にした本作は、躍動感溢れるビートに乗って彼らのアヴァンギャルドなポップ・センスが弾けている。


 ブルックリン・シーン新世代を代表するダイヴは、ビーチ・フォッシルズのサポートメンバーだったザカリー・コール・スミスのソロ・ユニット。2012年に発表したデビュー・アルバム『Oshin』がインディー・シーンで大ヒットを記録して、2013年にはフジロックで来日。さらにザカリーはイヴサンローランのモデルに起用されたりと絶好調だったのだが、その後、メンバーがネットで差別発言をして炎上したり、ドラッグ所持で逮捕されたりと不運が続いた。しかし、ザカリーはへこたれず、300を越える曲を書き、そこから17曲を選んで作り上げたのが新作『イズ・ザ・イズ・アー』だ。タイトなバンド・サウンドを中心に据えた本作は、ノイジーなギターが疾走するなか、そこに甘い歌声がふわりと舞い降りる。ギター・サウンドにはシューゲイザーっぽい心地良さとインディー時代のソニック・ユースを思わせる生々しい歪みが同居していて、そのビター・スウィートなバランス感覚が絶妙だ。“Blue Boredom”には恋人のスカイ・フェレラが参加。ザカリーは「このアルバムの制作は人生で最も重要な出来事」とコメントしているが、ザカリーの音楽への熱い想いが詰まった起死回生の力作だ。


 ザカリーに負けないハンサムガイ、セス・ボガートは、ハックス・アンド・ヒズ・パンクスのリーダーであり、ブティックのオーナーであり、ガールズの「Lust for Life」のビデオではボーイフレンドと裸でいちゃついたりと何かと忙しい男。LGBTコミュニティのアイコンとしても注目を集めるなかで、ファースト・ソロ・アルバム『Seth Bogart』を発表した。ライオット・ガールの勇者、キャスリーン・ハンナ(ビキニ・キル)や、LAのティーンエイジ・ガレージ・バンド、チェリー・グレザーのクレモンティ・クリーヴィーなど、元気なインディー女子をゲストに迎えて、セスのキッチュなポップ・センスが炸裂。ハックス・アンド・ヒズ・パンクスではオールディーズ・スタイルのロックンロールではしゃいでいたが、今回は80’sエレポップをセス流に美味しく料理。キラキラしたシンセの音色にファンキーなリズムが飛び跳ねて、ジョン・ウォーターズの映画を思わせるプリティなバッドテイストが全開だ。レーベルは日本進出で話題になったカセット専門のレーベル、バーガー・レコーズだが、本作はCDでもリリースされている。


 そして最後は、USインディーの守り神というか、永遠のマスコット、ハーフ・ジャパニーズに登場してもらおう。70年代なかばにジャドとデヴィッドのフェア兄弟を中心に結成。3つコードを知っていればロックは演奏できると言われているなか、2つくらいしかコードしか知らないジャドの自由奔放なギター・プレイが響き渡るハーフ・ジャパニーズのサウンドは、プリミティヴにしてオルタナティヴ。これまでカート・コバーンをはじめ様々なアーティストに影響を与えてきた。2014年に13年振りの新作『Overjoyed』を発表してファンを喜ばせてくれたが、意外と早いスペースで最新作『Perfect』が届けられた。初期に比べるとロックのフォーマットに近づいて、曲調もバラエティ豊かになって聴きやすくなっているものの、ジャドのギターと甲高い歌声は相変わらず破壊力抜群。混沌としていながらも突き抜けたポップ・センスにも磨きがかかっていて、パンキッシュだけどパンクのマッチョさはカケラも感じさせない無垢なエネルギーが渦巻いている。40年の活動歴を持ちながらこの瑞々しさ、というか、無邪気さに驚かされるが、彼らがロックンロールの殿堂入りする日もそう遠くないのでは……と密かに願っているのは僕だけではないはず。こういうバンドが現役で頑張っているところにも、USインディーの懐深さを感じずにはいられないのだ。(村尾泰郎)