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児童虐待が年間8万9000件 「親権」を停止・喪失させるにはどうすればいい?

2016年02月27日 11:22  弁護士ドットコム

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子どもが虐待の被害者となるケースが後を絶たない。そうしたケースが報道されると「なぜ親権を停止できなかったのか」といった怒りの声があがる。


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最高裁判所の統計によると、親権の停止(最長2年間)や喪失をめぐる審判の数は、2014年度で280件。そのうち親権の停止・喪失が認められたのは69件(停止49件、喪失20件)だった。児童相談所が対応した児童虐待の件数8万8931件(2014年度、厚労省調査)と比較すると、決して多い数とはいえないだろう。



親権を停止・喪失させるための仕組みはどうなっているのだろうか。家族の法律問題に詳しい高橋直子弁護士に聞いた。



●親権は子の利益のために行使されるもの


親権には、子どもの利益を守る親の「義務」という側面と、親の「権利」という側面があります。ただ、今日では義務の部分が強調され、権利の部分は、養育の義務を遂行するのに必要な限りで認められ、他人から不必要に干渉されない法的地位として考えられています。



2011年の民法改正では、民法820条に「子の利益のために子の監護及び教育する権利を有し、義務を負う」と明記され、親権が子どもの利益のために行使されるものであることが明示されました。



●2011年の民法改正で親権停止制度が創設された


そして、父または母による親権の行使が困難または不適当であることにより「子の利益を害する」ときは、家庭裁判所が、2年を超えない範囲で親権停止の審判をすることができます。審判を請求することができるのは、子ども自身やその親族、未成年後見人、児童相談所長等です(民法834条の2、児童福祉法33条の7)。



この「親権停止」の制度は、2011年の民法改正で新設されました。従前より、親から一切の権限をはく奪する親権「喪失」の制度はありました。しかし、親権喪失は、要件も厳格であり、また、将来的に親子関係を修復する可能性がある場合に、親子の再統合に支障をきたすおそれがある等の理由から、利用は限定されていました。



緊急性が高い場面では、虐待している親の親権喪失・停止を家庭裁判所に申し立てると同時に、審判前の保全処分として、親権者の職務執行を停止し、代わりに親権を行使する職務代行者を選任してもらうという方法がとられます(家事事件手続法174条)。



●適切に親権を制限する制度運用が必要


児童福祉施設に入所している子どもや里親に委託されている子ども、緊急に児童相談所長により一時保護された子どもについても、児童相談所長や施設長、里親の権限との関係で、不適切な親権行使の制限が問題とされてきました。



2011年の法改正で、子どもの親権者が、児童相談所長や児童福祉施設の長、里親等が行う監護、教育及び懲戒に関する措置を不当に妨げてはならないことが明確化されました(児童福祉法47条4項)。



この規定に罰則はありませんが、『不当に妨げる行為』に関する考え方、対応方法について、厚生労働省が2012年3月9日付でガイドライン(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/pdf/dv120317-2.pdf)を出していますので、当不当の判断の困難性が緩和され、必要な措置をとりやすくなるという一定の効果はあるでしょう。



また、子どもの生命に危険があり、緊急の治療が必要にもかかわらず、親権者がこれを拒否する「医療ネグレクト」のケースなど、児童の生命や身体の安全を確保するために緊急の必要がある場合、親権者等の意思に反してでも必要な措置をとることができるという規定が設けられました(児童福祉法33条の2第4項、47条5項)。



子にとって親はかけがえのない存在ですので、できる限り親との関係修復が図られるべきだと思います。その意味で、親権の剥奪は『最終手段』です。



一方で、子どもの利益にとって真に必要な場面では、適切に親権を制限する制度運用が必要となるでしょう。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
高橋 直子(たかはし・なおこ)弁護士
1999年弁護士登録、大阪弁護士会子どもの権利委員会所属。主要著書に、「Q&A 会社のトラブル解決の手引き」共著(新日本法規出版)、「差止請求モデル文例集」共著(新日本法規出版)、「子どもの虐待防止・法的実務マニュアル」共著(明石書店)
事務所名:弁護士法人第一法律事務所
事務所URL:http://www.daiichi-law.jp/