2016年02月27日 10:52 弁護士ドットコム
出張先で、そのまま休暇を楽しみたいと思ったことはないだろうか。そんな新しい仕事と休暇の楽しみ方が、ビジネス(business)とレジャー(leisure)を融合した「ブリージャー」(bleisure)と名付けられ、世界でブームになっているという。
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ブリージャーを日本に紹介したcafeglobeの記事によると、海外の「通」の仕事人は、出張先でレジャーを楽しむために延泊して家族や友人を呼んで過ごすのだという。推進している企業も多く、従業員の幸福感につながり、生産性も高まるとして評価されているようだ。
確かに、海外などでの出張を終えた後に有給休暇を取得して、レジャーを楽しんでリフレッシュできればありがたい。ただ、業務とプライベートの境目があいまいになると、トラブルが発生した時などの責任問題がありそうだ。日本で取得しようとした場合、どのようなことが課題になるのだろうか。上林佑弁護士に聞いた。
「年次有給休暇(以下、年休)については、事業主は、労働者の指定する日に年休を取得させなければなりません。時季変更権を行使できる例外的な場合はありますが、基本的には、労働者が出張する労働日に続く日を指定して、年休を取得することは何ら問題ありません」
では、ブリ―ジャー中に災害にあった場合、労災認定などはどうなるだろう。
「労災補償が適用される『業務災害』とは、労働関係から生じた災害に限定されます。
事業主の指示・命令に基づいて行う出張業務については、出張先への通常の経路・方法による移動からホテルなどでの宿泊を含む全行程について、事業主の包括的な支配を受けているものと解されます。経路の逸脱、積極的な私的行為や恣意的行為など、業務以外の事情による特別な事情がない限り、出張期間中に災害に遭った場合は、労災補償の対象となります。
しかし、出張先で年休を取得し、その年休中に災害に遭ったという場合は、事業主の支配下にありません。ですから、労災補償の対象とはなりません。また、事業主の指揮命令下にないので、事業主が、労働者に対して安全配慮義務等を負うこともないでしょう」
では、帰り道でトラブルが起きた場合はどうだろうか。
「出張先からの通常の(または合理的な)経路・方法による帰路については、事業主の包括的な支配を受けているものと解されます。ですから、特別な事情のない限りは、業務に起因して発生した業務災害として、労災補償の対象となると思われます。
しかし、労働者が年休を利用して、出張先から別の観光地に移動し、その移動先からの帰路で発生した災害については、別です。事業主の包括的な支配は及んでいるとは解されず、その間に生じた災害については、労災補償の対象になりません。また、事業主が安全配慮義務等の責任を負うこともないでしょう」
ちなみに帰り道の交通費については、どう請求したらいいだろうか。
「交通費については、出張先への往復の交通費は、事業所の旅費支給規程等に基づき支給されるのが通常ですよね。通常、年休で出張先から別の場所に移動した当該旅費まで支給するようなことはないでしょう。もちろん、事業主にはそのような費用を支出する義務はありません」
上林弁護士はこのように話していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
上林 佑(かみばやし・ゆう)弁護士
仙台弁護士会所属。労働問題を中心に、その他企業法務一般、交通事故、知的財産権等、広く取り扱っている。
事務所名:三島法律事務所