2016年02月27日 10:31 弁護士ドットコム
NHKの幼児向け番組「おかあさんといっしょ」に出演する「うたのおねえさん」を2008年から務めてきた三谷たくみさんが今年3月末での卒業を発表した。すると、2003年からうたのおねえさんを務めたタレントのはいだしょうこさんがかつて明かした「うたのおねえさん」の厳しい「掟」がネット上で話題になった。
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はいださんは、2014年に出演したテレビ番組で「恋愛禁止」「結婚禁止」「『おかあさんといっしょ』以外の仕事禁止」などの「掟」があったことを告白した。代役をたてられないので事故等で帰国できなかった時に困るからと、海外旅行も禁止されていたという。
こんな「うたのおねえさんの掟」について、ネット上では「アイドルより厳しすぎ」という指摘が出ている。「週6日全部仕事で副業とか立ち食い恋愛全部駄目で、民放の番組にも出れない」「それを8年間続けてきたって最強」という声もあった。
子どもに与えるイメージを守るという目的があるのかもしれないが、タレント個人に恋愛・結婚禁止や海外旅行禁止などの厳しいルールを課すことは、法的に問題ないのだろうか。太田純弁護士に聞いた。
「まず、恋愛禁止については、最近、女性アイドルの恋愛禁止条項の有効性をめぐって、いくつかの判決が出ていますが、裁判所の判断はわかれています。
ある判決では、恋愛を禁止することは、原則として、民法90条が定める『公序良俗』に反するとして『恋愛禁止』は無効としました。また、別の判決は、アイドルとマネジメント会社という関係のもとでは、恋愛禁止の必要性もあると判断されました」
太田弁護士はこのように指摘した。
「恋愛禁止に限らず、タレント個人に対して海外旅行禁止などの厳しいルールを課すことについては、タレントが事業者なのか、労働者に近い立場なのかによって、その有効性についての判断がわかれます。実質が労働者であれば権利・利益の保護が手厚くなる傾向があるからです。
一見すると個人事業主のように見える人が、実質的には労働者にあたるか否かの議論は古くから存在しています。
歌手や技術者などが、労働組合法上の『労働者』にあたるか否かが争われた裁判で、1976年には管弦楽団員に関して、2011年には新国立劇場のオペラ歌手に関して、最高裁は、いずれも就労実態から労働者性を認め、『労働者』としての権利を保護すると判断しました」
うたのおねえさんの場合は、どうだろうか。
「契約条項までは明らかでありませんので、仮定の話としてお答えします。
仮に、うたのおねえさんがNHKと契約を結び、定額給与のもとで、業務内容の選択権、遂行上の決定権が与えられず、指揮命令に従った労務提供をしているとの実態があるとしましょう。この場合は、契約の性質として、『期間の定めがある雇用契約』と解することができます。つまり、うたのおねえさんも『労働者』ということになりますね。
では、『労働者』には恋愛禁止などの制限を加えることはできるのでしょうか? 労働者の私生活は本来、自由が原則です。それを制限することが許容されるかどうかは、制限の目的や手段の相当性、目的と手段の合理的関連性、他の手段の有無など多くの条件などを考えて、判断されます」
「おねえさん」のイメージを守るためという理由で、私生活の制限は許されるだろうか。
「視聴者であるお子さんや保護者からのイメージを維持するためという目的は、一般的には理解できます。しかし、禁止条項が有効かを判断するには、1つ1つ、より具体的な考察が必要です。
禁止条項が有効かを判断するには、制限事項を個別具体的にみて、禁止される行為の内容や必要性、その代償措置が十分かといった細かい事を判断しなければなりません。その禁止条項が有効であった場合でも、雇用者側は、労働者が禁止条項に違反したというだけで、即、厳しい処分を発動するということはできないでしょう。
結局は、雇用者側と労働者側との意思疎通が何より大事です。行き過ぎた制限とならないように、他の代替手段やできるだけ緩やかな方法によって目的を達し得るか、日頃から互いに相談しあっておくことが大切ですね」
太田弁護士はこのように話していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
太田 純(おおた・じゅん)弁護士
訴訟事件多数(著作権、商標権などの知的財産権、不正競争防止法、名誉棄損等)。その他、数々のアーティストの全国ツアーに同行し、法的支援や反社会的勢力の排除に関与している。
事務所名:法律事務所イオタ
事務所URL:http://www.iota-law.jp/