2016年02月25日 18:31 弁護士ドットコム
日弁連は2月25日、東京・永田町の衆議院第二議員会館で「原子力事業者の賠償責任」にかんする勉強会を開いた。原発事故の賠償をめぐる訴訟に取り組む弁護士らが登壇し、原子力事業者の賠償責任を「有限」にする議論が出ていることについて、「モラルハザードが起きる」と反対意見を表明した。
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今の制度では、原発事故が起きた場合、東京電力などの原子力事業者は、「無過失・無限責任」を負う。事故が不可抗力で起こった場合でも賠償責任を負い、事故の損害が完全に回復されるまで賠償責任を負うことになる。免責されるのは、「異常な天災地変」「社会的動乱」など、極めて限定された場合に限られている。
しかし、内閣府原子力委員会の原子力損害賠償制度専門部会では昨年5月から、原発事故が起きた際の損害賠償制度の見直し議論が続いている。その中で、「諸外国と比べて責任が重すぎる」「原発に対する安全対策に取り組めない」といった理由から、原発事業者の責任について、限度額を定めた「有限責任」にすべきだという意見が出ている。
この流れに対し、原発関連の裁判を多く手掛ける只野靖弁護士は、原発事業者の賠償責任を限定したとしても、原発事業者が安全対策に取り組むかは疑問だという。「むしろ、原発の安全性を向上させることに対するインセンティブ(動機付け)が低下して、モラルハザードが起きる可能性がある」と危機感を表明した。
また、立命館大学国際関係学部の大島堅一教授は「事故が起きていないときは原子力事業で儲けているのに、事故が起きたときは賠償義務を限定してもらおうというのはおかしい。利益を得るのであれば、リスクも負担することが原則だ」と指摘した。
脱原発弁護団全国連絡会共同代表の海渡雄一弁護士は、「有限責任を無限責任に変えて原発をやめていこうとしているドイツと、事故を起こしても原発の運営会社が絶対倒産しない仕組みを作って守ろうとする国と、どちらがおかしいだろうか」と語った。
(弁護士ドットコムニュース)