「残念でした」
3日目のテストを終了した後、ガレージ裏に現れホンダの中村聡チーフエンジニアはそう言って、ため息を漏らした。
バルセロナで行われているテストは、9時から13時までの午前セッションと、14時から18時までの午後セッションの4時間ずつ2つのセッションにわかれている。途中に1時間の休憩時間を設けているのは、コースマーシャルたちのランチタイムである。
この日のホンダのテストプログラムは、前日から引き続き、今シーズン用のエネルギーマネージメントやその変更に適応した新しい制御系、そしてクーリング性能をいろいろ変えてデータ取りをすることだった。
「昨年は回生が足りずに、レース中にデプロイが切れてしまうことが少なくなかった。でも、今年のパワーユニットは去年よりも回生が改善されているので、昨年とは違う使い方ができるようになっています。したがって、それにあわせて我々もエネルギーマネージメントなどを新しくしなければなりません」と中村チーフエンジニアは語った。
そして、そのテストプログラムは、午前の走行で45周を走り込み、順調に消化していた。
ランチタイム後の走行では、午前とは異なる仕様で走らせ、セッション後半にロングランを予定していた。ところが、ロングランに向けた最終チェックを行っている最中に、ハイドロ系のオイルが漏れ、バトンのマシンは止まってしまい、3日目のテストはチェッカーフラッグが振られる前に終了となった。
「初日は初期の基本的な機能確認をし、2日目から本格的に今年のパワーユニットの性能にあわせたエネルギーマネージメントをいろいろと試し始めて、3日目に実際にレースを想定したマネージメントをいくつか試して、3日目の最後にロングランで新しくしたエネマネ(エネルギーマネージメント)などの感触を掴みたかったんですが、その前に止まってしまいました。レーススタートの手順なんかも試したかったんですけど……」
午後のセッションはわずか6周。3日目の周回数は51周に終わった。この日、最後に予定していたロングランは30周を3回。前日にアロンソが走破した119周を大きく上回る予定だった。
残念な結果に終わったが、中村は「トラブルは出ましたが、気持ちはかなり前向きです」と語った。
「明日はT1(テスト1回目)最終日。どんなメニューが残っているのかをお互いに確認しながら、明日のラン(走行)プランをこれからマクラーレンと決めていきます」
そう言って、中村は再びエンジニアルームがあるトラックの中へ消えていった。トラブルに見舞われたものの、1年前に比べて充実したテストを過ごしているホンダだった。