トップへ

「人生で一番ショッキングなことを表現したい」Tom-H@ck&Mayuが語る、MYTH & ROIDの目指す音楽

2016年02月24日 19:21  リアルサウンド

リアルサウンド

MYTH & ROID

 昨年9月にシングル『L.L.L.』でメジャーデビューを果たしたユニット、MYTH & ROID(ミスアンドロイド)が、待望の2ndシングル『ANGER/ANGER』を2月24日にリリースする。さまざまなアニメソングやアイドル、アーティストの楽曲アレンジやプロデュースで知られる気鋭のクリエイターTom-H@ckと、日本人離れした歌声とパフォーマンスが魅力の女性シンガーMayuからなる彼らが作り上げた新曲は、1月からスタートしたテレビアニメ『ブブキ・ブランキ』のエンディングテーマ。デジタルサウンドやクラシカルな要素を兼ね備えたミドルテンポのヘヴィロックチューンは、英語中心の歌詞もあってJ-POPやJ-ROCKの枠を超えた個性的な仕上がりとなっている。


 今回のインタビューではユニット結成の経緯や目指すべき方向性、そして新作で試みたチャレンジなどについて、それぞれの視点で語ってもらった。(西廣智一)


・「歌うことは行為ではなく『歌が私で、私が歌』」(Mayu)


ーーこれまで裏方の印象が強かったTom-H@ckさんがなぜMYTH & ROIDを結成したのか、その経緯を教えていただけますか?


Tom-H@ck:もともとのきっかけは、周りのいろんな人から「お前はアーティスト活動をやったほうがいいよ」と言われたことで。自分的にはあまり表に出たくなかったんですけど、何年間も作家として活動していくうちに「自分が表に立って音楽活動をしたら、今表現したいことが自分の思ったとおりの形でみんなに届けることができるんじゃないか」という思考に変わっていったんです。で、その頃にちょうど出会ったのがMayuちゃんで、実際に歌も聴いてから会ってみて「じゃあ一緒にやりましょうか」という話になったことが結成までの流れです。


ーーMayuさんの歌を聴いた、最初の印象は?


Tom-H@ck:既存のJ-POPを3曲ぐらい歌ったのを聴いて。洋楽も歌ってたかな?


Mayu:歌ってました。


Tom-H@ck:だよね? それを聴いたときは、正直そんなに個性的じゃないなと思ったんです。でもビジュアルとか含めて、いろいろいただいた候補者の資料の中で一番興味が湧いたので会ってみて、実際にライブも観て。そこからプリプロとかやっていくうちに「すごく個性の強い子だな」と思うようになりました。


ーー何かピンとくるものがあったと?


Tom-H@ck:はい。一番心を動かされたのはライブを観たときで、ライブをしてるときのオーラがすごかったんですよ。それは今でも鮮明に覚えてます。


ーーMayuさんは以前から音楽活動を積極的にしていたんですね?


Mayu:そうですね。幼い頃から歌うのが好きで、小学生のときにみんなで演劇をやることになって歌とダンスを私が率先して作ったりして(笑)。洋楽が好きだったので、ちゃんと歌えるようになるまでずっと練習するのが自然と趣味になっていったんです。中学、高校の6年間は軽音部に所属して、ずっと文化祭や校内のイベントでライブ活動をしてました。その頃から、ただ好きで歌っていたのとはまた違った心持ちでやるようになって、軽音部の子たちも「もっと学校の外でMayuの音楽を聴いてもらうべきだよ」と言ってくれたのもあって、学校の外で活動するバンドも作って。1年ちょっと前までは続けていたんですけど、Tomさんが観てくれたのもそのバンドのライブだったんです。


ーーではプロになりたいという意思も以前からあった?


Mayu:ちっちゃい頃からその思いが強くて。歌う自分の姿以外は想像できなくて、ネガティブな意味ではないですけど、「歌手になれなかったら私、死ぬだろうな」と常に思いながら歌ってました(笑)。加えて私が人とはちょっと違うのは、歌うということは行為ではなくて私が生きていること自体が私にとっては歌であって、「歌が私で、私が歌」みたいな感じなんです。だからポジティブな感情もネガティブな感情も全部歌にしておきたいし、私が死んだときに私の歌も終わるのかなって。それはちっちゃいときからずっとある不思議な感覚で、そうやって歌というものと接してきました。


ーーそしてTom-H@ckさんがMayuさんという存在を見つけてしまったわけですね。


Mayu:すごく苦労は多いと思います(笑)。


Tom-H@ck:一緒にいるだけでもすごいエネルギーだからね。


Mayu:あはははは。


・「外国人コンプレックスからたどり着いた無国籍感」(Tom-H@ck)


ーーサウンド的にはどういう方向性を考えていましたか?


Tom-H@ck:今は結構ロックな感じですけど、最終的にはいろいろやると思うんですよ。それこそアコースティックとか、もっと言えばジャズとか、何でもやりたいなと思ってます。


ーーこれまでに発表した楽曲が、たまたまデジタル色が濃いロックだったと。


Tom-H@ck:そうですね。「L.L.L.」も今回の「ANGER/ANGER」もアニメとのタイアップがあったので、こういうロック色が強いジャンルがいいんだろうなというのもあります。


ーーアニメとの親和性については、どのように考えていますか?


Tom-H@ck:自分たちからはアニソンをやっているとは言っていなくて。だからといってアニソンが嫌いということも全然ないし、むしろリスペクトしてるぐらい。やっぱりそのアニメ作品が求めているものを第一前提として考えて、同時に自分たちが何を言いたいのか、何を表現したいのかというのを常に大事にしています。


ーーMayuさんはアニソンに対してどういう印象がありますか?


Mayu:もともとアニメソングは好きで、よく聴いていたんです。逆に洋楽以外の邦楽といったらアニメソングばかりで、それ以外の邦楽はあまり聴いてなかったというぐらいで。とはいえ実際には自分の畑ではないわけであって、そこに自分が携わる際にどう関わっていけばいいのかは、このお話をいただいたときに最初に考えたことでした。


ーーこれまで発表してきた楽曲を聴かせていただくと、一般的なアニソンというよりも現代的なロックという印象がすごく強くて。しかもサウンド的にも国内のロックというよりもすごく洋楽的で、いい意味で国籍を感じさせない無国籍感があるんです。


Tom-H@ck:これ以上ない褒め言葉ですね。実は僕もMayuちゃんも、外国人コンプレックスをすごく持っていて。


Mayu:(強く頷きながら)ハンパじゃないですね。


Tom-H@ck:僕は19歳のときにギタリストとしてLAに音楽留学をした際に、全然通用しなくてこてんぱんにされて帰国した経験があって。それから10数年経って、ひとつ見つけた答えがあるんですけど、それが今言ってもらった無国籍なんですよ。どこの国とか関係なくみんなに聴いてもらえる、すごくいい音楽を僕たち日本人なら作れるんじゃないかなと思うんです。実はそこはすごく狙っていて、こうやって指摘してもらえたことはすごく嬉しいですね。


ーーMayuさん、外国人コンプレックスというワードが出たときに強く頷いてましたが。


Mayu:私も本当にちっちゃい頃からずっと持ってました。私は音楽が好きというよりも歌うことが好きで、歌うことにしか興味がなくて。例えば気に入った洋楽のヒット曲は発音含めて完璧に歌えないと嫌で嫌でしょうがなくて、英詞と和訳を両手に持ってコンポの前に座って何回も同じフレーズをリピートしてたんです。そのせいもあってか、いざ自分が曲を作るときに日本語の歌詞が浮かばなかった。メロディラインも邦楽というよりは、ずっと同じコードで進行していくシンプルなメロディラインの洋楽的なものしか出てこなくて。だから自分が曲を作るとなったら洋楽的なものしか作れなかったんです。


ーーなるほど。


Mayu:でも、自分の中で「これ、すごい名曲だわ」と思っていても、日本人の私が海外でこれをやったって売れないんだろうなという思いも常にあるし、逆にここまで洋楽的なものを日本でやってもそんなに売れないんだろうなというのも小さい頃から理解していて。だから「なんで私、外国に生まれなかったんだろう」ってよく思ってましたし、コンプレックスは本当に強かったですね。


・「4、5分の曲の中で映画っぽく演出」(Tom-H@ck)


ーー今回の「ANGER/ANGER」はデジタルなハードロックサウンドを軸に、クラシカルで演劇的なパートも含む起伏の激しいアレンジが施されています。曲を通して聴くと非常に映像が浮かびやすくて、そういう要素もMYTH & ROIDの個性のひとつなのかなと思いました。


Tom-H@ck:そうかもしれないですね。SKY-HIさんがあるインタビューで「ライバルは映画」だと言ってましたけど、僕も本当にそうだと思っていて。SuGの武瑠くんも一緒で、あの人も演出家だと自分で思いながらやっている。僕も音楽は演出だと思っていて、僕の楽曲における起伏の幅がかなり大きいのも演出のひとつ。MYTH & ROIDはそこがかなり強くて、演出の仕方がチープにならないようにすることは常に心がけてます。


ーーあるアーティストさんも、自分はソングライターではなく脚本家だと言ってたんですよ。自分は曲でストーリーの道筋を作って、ボーカルにはこういう役、ドラムにはこういう役と割り当てているんだと。そういう考えに共通するものがあるんでしょうか。


Tom-H@ck:絶対にあると思います。それって、やっぱり市場が絡んでると思いますよ。これが1曲出して何十万枚も売れる時代だったら、その思考になったとしても浅かったような気がするんですよね。でも今は音楽自体が売れなくなって人の手元に届くまでが本当に大変だから、曲だけで終わるんじゃなくてそこに何かしら自分で説明を加える。そういった演出で音楽を聴かせる要素は、どんどん強まってる気がします。だからニコニコ動画で音楽と映像を融合させるのもそうだし、そういうところからどんどん音楽の価値観が変わってきてる感じもありますよね。


ーー確かに今の若い世代って、音楽と映像をひとつとして考えるケースが多いですよね。


Tom-H@ck:ですね。僕は洋楽チャートからニコニコ動画までいろいろ研究してるんですけど、日本人の若い子って刺激物が特に好きなんですよ。音楽でいうと、古い曲を聴いたら涙が出てくるとか、その頃の苦しい気持ちがよみがえってくるとか。その最高峰が、映像と音楽が融合することによる刺激なんです。そこはかなり求められてると思いますよ。さっきの話に戻りますけど、4、5分の曲の中で映画っぽく、舞台っぽく演出するというのはそこにつながってくるのかなと。


・「私の人生自体がひとつの芸術」(Mayu)


ーーMayuさんは今回の「ANGER/ANGER」を歌う際、歌詞の中やアニメの世界に自分の思いと共通するものを見つけて、そこに自分を重ね合わせて歌っているんですか?


Mayu:「ANGER/ANGER」に関しましては作・編曲をTomさんがされていて、作詞は「L.L.L.」と同じhotaruさんにしていただいているんですよ。なので私はこの曲に関してはそこまで直接的に携わってないんです。でも「怒りが怒りを呼ぶ」というテーマのこの歌詞を読んだとき、私が書いたわけじゃないのに私が思っていることが書いてあると思って、自然と自分が歌になれた楽曲だったんですよ。逆に前作の「L.L.L.」という曲に関しては、物語の主人公に対する愛情の最果てを歌っていたので、私が普段思ったことがないことも歌詞の中にあって。そうなったときは歌詞のキャラクターを自分に憑依させた感覚で歌ってます。そこは「歌が私で、私が歌で」というところと似てるようで少し違うところでもあるんですけど、アニメ作品に携わらせていただいたからこそ出てきた「私が歌になる、新たななり方」なんだなって。そういう意味ではすごく勉強になってます。


ーーそうなんですね。でも「ANGER/ANGER」に関しては自然と自分を重ねることができたと。


Mayu:そうですね。今作では敵側の心情を歌っているんですけど、そのキャラクターを抜きにして考えても本当に純粋に私の感情そのままという歌詞だったので。個人的にはこういう立場になったからこそなおさらそう思うんですけど、「歌が私で、私が歌」と同時に「常に芸術であれ」という感覚もあって。自分の楽曲だけではなく、私の人生自体がひとつの芸術だと昔から考えているんです。だからこそ、MYTH & ROIDで発表する楽曲だけでなく、もし私が別の機会に何か楽曲を出すことがあったとしたら、そのすべての楽曲とパフォーマンスが自分の人生の物語であって、遺書になるみたいな(笑)。そういう感覚が強いんです。


ーーその歌をつないでいったら、最終的に自伝ができるような?


Mayu:たぶんそういうふうになっていくんじゃないかなと自分では思っています。


ーーでもそれって、表現者としては最高の理想ですよね。


Mayu:はい。やっぱりこうやってアニメのタイアップをいただける機会もなかなかなければ、普通にデビューすること自体難しいっていう今のこの世の中で、こういう機会を与えていただけるのはすごくありがたいことであり、同時にいろんな責任も生じるわけで。でも根本にある「歌が私で、私が歌」という思いだけはブレさせることなく、そこを守ることができてこそ初めていろんなカラーが出せて、聴いている人に私の人生というもの、私がどういう人間かということがわかってもらえるようになるんじゃないかと感じています。


・「日本庭園の美しさに通ずることをやろうとしてる」(Tom-H@ck)


ーーそしてカップリングには「ICECREAM QUEEN」が収録されていますが、この曲の作詞はどなたが手がけたんですか?


Mayu:これは私が書きました。実は「ANGER/ANGER」と「ICECREAM QUEEN」には共通点がたくさんあって、結局のところ歌っている内容は一緒なんですよ。楽曲だけ聴くとすごくポップでパーティチューンぽいし、タイトルもパッと見ポップで可愛らしいイメージがあるんですけど、実は「ICECREAM QUEEN = I SCREAM QUEEN」で「私は叫んでる女王」という意味で。みんながいろんな理不尽なことや世間に対して感じる怒りを「私がそれに対して怒るから、みんなもついてこい」と訴えかけていて、そういう意味で「QUEEN」という単語を使っている。「ANGER/ANGER」では怒りの対象に向けて「燃やしてやる」と言ってるのに対して、「ICECREAM QUEEN」ではそういう対象を冷たいものと比喩して「溶けろ!」と歌っている。明るい曲調なんですけど、実はすごく暗いことというか怒りについて歌っているんです。


ーーひとつのパッケージとして統一したテーマがあるわけですね。ではサウンド面はどうですか? 「ICECREAM QUEEN」はヘヴィでダークな「ANGER/ANGER」とは真逆で、メジャーコードで疾走感がある楽曲ですが。


Tom-H@ck:曲自体の雰囲気は今おっしゃったようにメジャーコードでコード進行もすごくシンプル。「ANGER/ANGER」と比べたらかなり違うんですけど、「MYTH & ROIDってなんなの?」というひとつ貫かなくちゃいけないものがあって。例えばサウンドが少しハードになっていたりとか、ギターやドラムの音色とか、そういったポイントは意識しましたね。例えばただのブリティッシュロックにならないように、ちゃんと僕たちの色を残したまま表現したいことをやるという。


ーー確かにドラムの音ひとつ取っても、音色や抜けが聴いていて気持ちいいんですよ。


Tom-H@ck:「ICECREAM QUEEN」でのドラムの音色って聴く人によって弱く感じるので、なかなか採用しないんですよ。実はロックの場合ってもっと違う感じで、それこそNickelbackのドラムの音なんてめっちゃゴンゴンいってますよね。あれを真似してはダメだなと。今回に関してはアンビエント感や抜け感が劇伴やサウンドトラックに近くて、そこらへんが無国籍というか、誰もやってない感じにつながってるんじゃないかな。そういう意味では、制作という点において僕たちができることって、薄皮を重ねていって、重箱の隅をつついて作る日本の美というか、日本庭園のあの美しさに通ずることをやろうとしてるんでしょうね。


・「家族や友達ではなく、味方でありたい」(Mayu)


ーーこのシングルを含めて、これまでにMYTH & ROIDとして4曲のオリジナル曲が発表されましたが、となると将来アルバムでMYTH & ROIDがどういう世界を表現してくれるかがすごく楽しみですね。


Tom-H@ck:いろんなところで言ってるんですけど、MYTH & ROIDってすぐに結果が出るユニットではないと、僕はプロデュースする上で思っていて。アルバムが完成して、そこで初めて頂点を迎えるんじゃないかな。すでに僕の頭の中にはアルバムのイメージがあるんですけど、完成した時点でやっと「僕たちがMYTH & ROIDだよ」と堂々と言えるようになるんだと思います。


ーーそして、そこからさらに進化、変化を重ねていくと。


Tom-H@ck:逆にその先は、ぶっちゃけどうなるかわからない。それこそ全然売れてない可能性もあるし、すごく売れてる可能性もあるわけで、ちょっとワクワクしてるんですけどね。


ーーもしかしたらその結果が、今後の作風に影響するかもしれない?


Tom-H@ck:絶対にすると思いますよ。そこはシビアに、プロデューサーとして絶対に忘れちゃいけないことだと思うんで。どんどんアップデートしていって、こうするべきだよなということはどんどんやっていこうと思います。


ーーMayuさんは自分自身を歌で表現しながらMYTH & ROIDを作り上げていくわけですね。


Mayu:そうですね。よく歌手の方って「私の歌を聴いて元気になってもらえたら」とか「みんなのために歌ってる」とかおっしゃってますけど、私も感謝の気持ちは大前提としてあるけど、人のために歌ったことは一度もなくて。私の歌を聴いてハッピーになってほしいというよりは、私の歌を聴いたときにその人が「本来のその人」になってほしいんです。現代社会でいろいろ自分を押し殺したりしてる人たちが私の音楽を聴いてる4分ぐらいの間はあなた本来の姿であってほしい、そういう存在になりたいなと。そういう意味では、みんなの味方でありたいなと思ってます。


ーー「味方」ですか?


Mayu:はい。家族や友達ではなく、味方でありたい。だからこの先にアルバムを出したときに、MYTH & ROIDがこういうものだっていうのが皆さんにわかっていただけると同時に、そのアルバムが皆さんの味方みたいな存在になるのがベストかなと。それがハイクオリティで、さっきおっしゃっていた無国籍なものにすることができたらベストですね。


ーーMYTH & ROIDの楽曲は聴き手の背中を押すというよりは、自分と向き合うための音楽だと。


Mayu:だから明るいことばかり歌おうとか、希望が持てるような言葉を歌詞にたくさん入れようとか、そういうことは特になくて。むしろみんなでワイワイ盛り上がる場よりも、1人2人と一緒に愚痴を吐き出せる感情の開放の場になってほしいなというのがあります。


ーーそこはいわゆるJ-POPとは一線を画するところですよね。


Tom-H@ck:共感じゃないっていうところでは、そうかもしれないですね。僕は人間を一番突き動かすものって、悲しみのものすごいやつとか恨みのものすごいやつとか、刺激の最果てにある感情なんですよ。その人の人生で一番ショッキングなことって人間を動かすパワーの源になると思うし、それを音楽で表現できたらこんなに気持ちいいことはないですよね。


ーーここまでお話を聞いて思ったんですが、Tom-H@ckさんはMYTH & ROIDとして活動していく中では、プレイヤーとしてよりもプロデューサーとしての視点が強いんでしょうか?


Tom-H@ck:たぶん僕の人生がそういうものの考え方であって、僕を踏み台にしていろんな人が幸せになってほしいと思う人間なんです。それはMYTH & ROIDにおいてもそうだし、OxT(オクト。Tom-H@ckがボーカリストのオーイシマサヨシとともに結成したユニット)もそうだし、プロデュースワークのときもそうなんですよね。最近はアレンジせずにプロデュースだけをする案件がすごく増えていて、そうすると何が起きるかというと、プロデュースした分しかお金が自分に入ってこない。でもそれを進んでやる自分がいるんです。周りの後輩や作曲家、編曲家がもっと幸せになってほしいなというほうを取ってしまう性格なんですよ。だからMYTH & ROIDでも自分がヒーローになりたいんじゃなくて、Mayuちゃんに対して「カリスマになれよ」っていう思いのほうが強いんです。まぁ年齢的にも10歳近く離れているので、自分が経験したことで教えられることはできる限り伝えたいなと。だからプロデュースという意味では、そういう意識のほうが強いのかもしれないですね。もちろんプレイヤーとして自分を誇示したい部分もありますけど、優先順位的には2番くらいかな。(取材・文=西廣智一)