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中島美嘉はなぜ作家やアーティストに愛され続ける? “言葉を伝える”ボーカルスタイルを分析

2016年02月24日 14:21  リアルサウンド

リアルサウンド

中島美嘉

 デビュー15周年を迎えた中島美嘉が“初”づくしの3か月連続アルバムリリース企画を行っている。ギタリスト土屋公平とのロックユニット“MIKA RANMARU”名義による初のライブアルバム『OFFICIAL BOOTLEG LIVE at SHINJUKU LOFT』に続く第2弾は、自身初となるトリビュートアルバム『MIKA NAKASHIMA TRIBUTE』。藤井フミヤが大人の包容力で歌い上げる大ヒット曲「雪の華」、JUJUのドラマティックなボーカリゼーションが心に残る「WILL」、ジャズ・テイストのアレンジのなかでAimerの繊細な歌声がゆっくりと広がる「ORION」、クイーンを想起させるオペラっぽいコーラスを取り入れ、破壊こと阿部サダヲの大仰なボーカルが鳴り響くグループ魂の「一番綺麗な私を」(←ちなみにこの曲は宮藤官九郎脚本のドラマ「うぬぼれ刑事」挿入歌。中島自身も出演していました)など13曲が収録された本作は、中島美嘉が生み出してきた名曲の奥深い魅力をじっくりと堪能できる作品に仕上がっている。


 トップアーティストからの楽曲提供も多い中島美嘉。本作には豪華なアーティストによる“セルフカバー”も収録されている。まずはHYDEによる「GLAMAROUS SKY[ENGLISH VER.]」。映画『NANA』(2005年)の主題歌として大ヒットを記録したこの曲は、切なくも激しい旋律とハードエッジなロックサウンドがひとつになったアッパーチューン。HYDEのダイナミックかつセクシーな歌唱も、原曲の魅力をしっかりと増幅させている。


 amazarashiによる「僕が死のうと思ったのは」も強烈。中島自身が「ぜひ歌いたい」と切望したこの曲を、amazarashiはアコースティックギター1本で弾き語り、言葉の強さを前面に押し出してみせる。たとえば〈死ぬことばかり考えてしまうのは きっと生きる事に真面目すぎるから〉というフレーズにおける、両者の表現の違いを聴き比べてみるのもおもしろいだろう。


 中島みゆきによる「愛詞(あいことば)」のセルフカバーもこのアルバムの大きな聴きどころだ。この曲について中島美嘉は「最初に聴いたときから、“ああ、わかる”ってすべて納得できた」とコメントしていたが、中島みゆきのバージョンを聴くと彼女が中島美嘉の本質を見据えたうえでこの曲を書いたことがよくわかる。特に〈わかる人にしかわらかない それでいい愛詞(あいことば)〉は中島美嘉の生き方そのもの。凛とした姿勢とすべてを肯定するような包容力を共存させた中島みゆきの歌も素晴らしい。


 中島美嘉がもっとも信頼を寄せるアーティストのひとりである柴田淳は「声」のカバーバージョンを提供。アルバム『VOICE』(2008年)のラストに収録されているこの曲で柴田は〈私は生きて生きて こうして声張り上げて/歌い続ける 燃え尽きるまで〉というフレーズを刻んでいる。この歌詞はそのまま、中島美嘉という歌い手の在り方を決定づけたと言っていいだろう。


 そのほか、鬼束ちひろの純度の高いボーカルが印象的な「Fighter」、中孝介の郷愁感のある歌声が心に残る「桜色舞うころ」など優れたカバーが揃った本作。ここから伝わってくるのは、ジャンルを超えた作家、アーティストに愛され続ける中島美嘉の魅力だ。その中心にあるのはテクニックに頼らず、“言葉を伝える”ということに意識を置いたボーカルのスタイルだろう。最近のインタビューで「私は歌手というよりも、代弁者だと思うんですよ。“あなたの心を代弁するから、もし泣きたくなったり、苦しいなって思ったら、私のライブに来てください”という気持ちを持てるようになったら、苦手だったライブが楽しくなってきて」という趣旨の発言をした中島。彼女が心を込めて紡ぎ出してきた言霊は、今回のトリビュートアルバムにも強く反映されていると思う。


 3月30日(水)には3か月連続アルバムリリースの第3弾『MTV Unplugged』をリリース。そして4月からは初のアコースティックツアー「THE ACOUSTIC 2016~MIKA NAKASHIMA 1st Premium Tour~」を開催する中島美嘉。デビュー15周年のアニバーサリーを迎えた2016年は、彼女の声を言葉をたっぷりと体感できる1年になりそうだ。(文=森朋之)