2016年02月23日 11:12 弁護士ドットコム
ヴァイオリニストの高嶋ちさ子さんが「約束を守らなかったらゲーム機を壊す」など、独自の子育て論を展開したコラムが「厳しすぎる」と議論を呼んでいる。
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東京新聞に2月12日に掲載されたコラムによると、高島さんの家庭では、「平日はゲームをしてはならない」「夜7時以降電化製品に触ってはいけない」といったルールを設けていた。ところが、ある日の夜、高島さんが家に戻ると、「宿題がだいたい終わったから」といって長男がゲームをしていた。高島さんは怒り、ゲーム機を手でバキバキに折って、壊してしまったのだという。
このコラムがツイッターで紹介されると、「これ普通にDVだよね」「教育でもなんでもなくただの暴力」などの指摘が多く寄せられた。一方、「家庭内ルールを破ったことでのペナルティだから、たまにある親の横暴とは少し違う」などと理解を示す声も寄せられた。
家庭の教育方針はそれぞれだろうが、ルールを守れないことを理由に子どものゲーム機を破壊する行為も、「しつけ」として許されるのだろうか。浮田美穂弁護士に聞いた。
「民法では『親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う』(820条)とされ、『親権を行う者は、第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる』(822条)とされています」
浮田弁護士はこのように述べる。懲戒の範囲としてはどの程度のことが許されるのだろうか。
「懲戒とはどのようなことかについて、民法上は具体的に規定されていませんが、もちろん何をしてもよいわけではありません。
児童虐待防止法では、『児童の親権を行う者は、児童のしつけに際して、その適切な行使に配慮しなければならない』(同法14条1項)、『児童の親権を行う者は、児童虐待に係る暴行罪、傷害罪その他の犯罪について、当該児童の親権を行う者であることを理由として、その責めを免れることができない』(同条2項)としています。
そして、児童虐待とは『児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること』(同法2条1号)や『児童に対する著しい暴言(中略)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと』(同法2条4号)と定義されています」
今回のようにゲーム機を壊すことは、どう考えればいいのだろうか。
「しつけを理由に子どもの物を破壊することは、児童に著しい心理的外傷を与える場合もあると思います。
子どもの物を壊すことが『しつけ』の範囲かどうかは、それまでの親子関係や、子どもの性格、子どもがどの程度の悪いことをしたのか、物を壊した後の親の対応といった具体的な事情によって異なると思いますが、子どもに対して非常にショックを与える行為であることには違いありません。
高嶋ちさ子さんのコラムには『ママからもう二度と信用されないということを心配しなさい』とか『もうあなたを信用しないから、どうやって信用を取り戻すか考えなさい』と長男に話し、翌週、長男がゲーム機を折られたおかげで満点をとれたと友達に自慢していたというくだりがあります。
長男が母親に本当に感謝していればよいのですが、信用を取り戻すためにこのような話をしていたのだとすれば、信用を失ったのは高嶋ちさ子さんのほうかも知れません。
非常に厳しい対応をした場合、『この親には何も言えない、何も分かってもらえない』と心を閉ざしてしまうこともありますので、その後のフォローが大事だと思います」
浮田弁護士はこのように話していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
浮田 美穂(うきた・みほ)弁護士
2002年、弁護士登録。2010年度金沢弁護士会副会長。2011年から、石川県子ども政策審議会児童福祉部会委員。著書に 「ママ弁護士の子どもを守る相談室」(2013年、一万年堂出版)。
事務所名:弁護士法人兼六法律事務所
事務所URL:http://kenroku.net/