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水川あさみ、菜々緒、沢尻エリカ……“悪女役”で評価される女優が増えた背景

2016年02月20日 19:31  リアルサウンド

リアルサウンド

リアルサウンド映画部

 女優・水川あさみがTBSドラマ『私を離さないで』で見せた“悪女”の演技が話題だ。綾瀬はるか扮する主人公 恭子を貶めようとする水川の姿を見た視聴者からは、「水川あさみの演技が怖い」「水川あさみはイヤな女が似合う」といった声が多数出ている。


参考:浜野謙太、柳沢慎吾らが松田翔太主演『ディアスポリス』ドラマ版に出演


 水川のほかにも、最近は悪女を演じて注目を集める女優が目立つ。記憶に新しいところでは、『サイレーン 刑事×彼女×完全悪女』(カンテレ)で執拗に主人公を追い詰めるクールな悪女 橘カラを演じた菜々緒や、『5→9~私に恋したお坊さん~』(フジテレビ)で人間関係をかき回す可愛らしい小悪魔 毛利まさこを演じた紗栄子などが挙げられる。


 いつの時代のドラマにも、ヒロインの前に立ちはだかる壁となる悪女はいたが、最近特に評判を呼んでいるのはなぜか。ドラマ評論家の成馬零一氏に聞いた。


「最近は、自分の目的を達成するためなら手段を選ばない、といった悪女ならではの行動が、気高さや強さを持った女性として好意的に受け止められるようになってきたのかもしれません。例えば、松本清張シリーズの悪女役でブレイクした米倉涼子はその典型でしょう。悪女を演じることによってクールビューティーなイメージを身につけた彼女は、その後、『交渉人~THE NEGOTIATOR~』(テレビ朝日)や『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日)で凛とした女性を演じ、正統派の女優としても評価されるに至りました。一方で、弱々しさや可愛さを演じる女優は、ぶりっ子として批判されるケースが増えているように感じます。ぶりっ子のイメージの悪さを逆手にとって、人当たりはいいけど実は腹黒いといったタイプの悪女も描かれているのは興味深いところです。また、『女王の教室』(日本テレビ)の天海祐希や『家政婦のミタ』(日本テレビ)の松嶋菜々子など、初めは恐くて冷酷な人に見えるけど、本当は優しい人で、悲しい宿命を背負っていた、というような悪女の描き方もあります。完全な悪として描かず、どちらなのかわからない、心が読めない描き方をするのも、最近の傾向のひとつかもしれません」


 特に沢尻エリカ主演のドラマ『ファーストクラス』(フジテレビ)以降、悪女が評価されるケースは目立っているという。


「『ファーストクラス』の人間関係の描き方は、人が集まるところにはピラミッド式のヒエラルキーが生まれ、その中でいじめや嫉妬が発生するというものでした。菜々緒や沢尻エリカが悪女役で注目され始めたのも『ファーストクラス』からです。このドラマで菜々緒は、悪女というよりもダークヒーローのような役を演じ、泥沼化した人間関係にも動じない毒舌キャラクターとして、視聴者から親しまれました。どんなしがらみにもとらわれず、ありのままに生き抜く強さを持った悪女像が、今は求められているのでしょう。また、スキャンダルなどでマイナスイメージが付いてしまった女優が、それを逆手にとって評価を高めるために悪女という役柄が機能するケースもあります。沢尻はその典型で、彼女の成功はひとつのモデルケースにもなるかもしれません」


 では、ドラマを作る制作側としては、どのような基準で悪女役のキャスティングを行っているのだろうか。キャスティングの経験を持つTV制作関係者に話を聞いた。


「基本的に、実際の性格や私生活が悪女であるといった理由だけでキャスティングすることはありません。ただ、パブリックイメージはもちろん重要で、さらにその役柄に適したビジュアルや、過去の実績も踏まえたうえで検討します。一方で、パブリックイメージの良い人や清純派キャラだからこそ、逆に悪女をやってもらい、そのギャップを視聴者に楽しんでもらう、という考え方もあります。ドラマの役柄というのは、大なり小なりその役者を記号化するわけで、そういった意味では、わかりやすく悪女っぽいパブリックイメージの人か、その真逆か、いずれにせよ振れ幅が大きいほど与えるインパクトは強いと思います。昨今、悪女が話題となっているのは、制作側からしてみれば、たまたま良い作品があったとしか言えないところですが、ドラマにおいて重要なポジションであることは間違いありません」


 『私を離さないで』の水川あさみの悪女ぶりが話題になっているのは、快活で良識のある大人の女性というイメージの水川が、毒気のある役を演じることでギャップが生じたケースだろう。物語に刺激を与えるスパイスとなる悪女役は、女優にとっても力量を問われる役柄であり、うまくハマればブレイクのきっかけにもなるのは確かである。今後、どんな女優が悪女に挑戦し、新境地を切り開くのか。次クールドラマのキャスティングも楽しみに待ちたい。(リアルサウンド編集部)