2016年02月20日 10:42 弁護士ドットコム
経営再建を目指すシャープの支援先として、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業と政府系ファンドの産業革新機構のどちらを選ぶかで議論が続いている。そんななか、シャープから意見を求められた法律事務所が、ホンハイ案を支持する2人の社外取締役について、「特別利害関係人」にあたるおそれがあるとして、取締役会の決議から外れるべきだとアドバイスしていたことがわかった。
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報道によると、外れるべきだと指摘されたのは、社外取締役を務める住田昌弘氏と斉藤進一氏。2人は、ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ(JIS)の会長と社長を務めている。JISは、みずほ銀行、三菱東京UFJ銀行とともに2015年6月、シャープに計2250億円を出資し、議決権がない代わりに配当で有利な「優先株」を取得している。
この優先株について、ホンハイが簿価で買い取ると申し出る一方で、産業革新機構は事実上の無償放棄を要求しているという。こうした中で、JISの2人が公正な判断ができないのではないかとの懸念が出ているそうだ。
今回、問題となっている「特別利害関係人」とは一体どういうものなのか。今回のケースで2人が特別利害関係人に当たる可能性はあるのだろうか。企業法務に詳しい今井俊裕弁護士に聞いた。
「『特別利害関係人』というのは、簡単にいうと、個人的な利害関係があるために、取締役会の決議で、会社の利益のために最適な判断することができないおそれがある取締役のことを意味します」
今井弁護士にはこのように指摘する。
「取締役会設置会社では、重要な経営戦略等は個々の取締役ではなく、必ず取締役会の多数決による決議で決定します。
そのメンバーである取締役は、一切の私心を捨てて、『会社のために何が最適か』を基準に行動しなければなりません。いわゆる忠実義務と呼ばれるものです(会社法355条)。
とすれば、個人的な利害関係から、会社に忠誠を尽くせない事情がある場合、その取締役は取締役会の議決に参加すべきではありません。でないと、資本という元手を拠出して経営を依託している株主に対し顔向けができないはずです。
そこで会社法では「特別の利害関係」がある取締役は議決に加われないと規定しています(369条2項)。こうしたルールは、社外取締役にもあてはまります」
どんな場合が、個人的な利害関係があるケースにあたるのだろうか。
「典型的なケースとしては、次のようなケースが想定されています。
(1)代表取締役を解職する議案が提出されている取締役会で、当の本人である代表取締役が議決に加わる場合
(2)取締役が個人的に会社の事業と競業する取引を行うためには取締役会の承認が必要だが、その際、当の本人である取締役が取締役会の議決に加わる場合」
利害関係のある取締役が加わって決議がされてしまったら、決議は有効なのだろうか。
「その場合、決議は無効となります。ただし、特別利害関係のある取締役を除いても、決議の成立に必要な多数が存在する場合は有効である、という理論もあります」
「報道されていることが事実だという前提で分析すると、特別利害関係があるのではないかと指摘されている2人の社外取締役は、シャープが発行する配当優先株に投資している国内の事業再生ファンドの運用会社の経営者です。
産業革新機構は、この配当優先株式を償却、つまり無償で放棄してもらうことを支援の条件に含めているとされています。一方で、ホンハイは、この配当優先株を簿価で買い取ることも含めて支援策を提案しています。
つまり、シャープがいずれの支援を仰ぐかによって、社外取締役が経営する投資ファンド運営会社が保有している配当優先株の価値が異なってくるわけです。こうした点から、これらの社外取締役に特別利害関係があると指摘されているのだと考えられます。
もちろん、特別利害関係の有無は総合判断ですから、事情によっては微妙な判断が強いられるケースもあるでしょう」
今井弁護士はこのように分析していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
今井 俊裕(いまい・としひろ)弁護士
平成11年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における個人情報保護運営審議会、開発審査会の委員を歴任。
事務所名:今井法律事務所
事務所URL:http://www.imai-lawoffice.jp/