テレビ通販の巨頭「ジャパネットたかた」のカン高い声でおなじみの初代社長・高田明氏が今年1月、テレビ通販番組から姿を消した。1年前に社長職を退いた後も番組には出演していたが、これで完全に引退したことになる。
2月16日放送のテレビ東京「ガイアの夜明け」は、ジャパネットたかたのトップ交代に密着していた。新しい社長の姿を見た視聴者の捉え方は様々で、賛否両論の感想が出ているところが興味深い。(ライター:okei)
父の存在感に飲まれつつ、新しい戦略を模索中
カリスマ社長の後を継いだのは、長男の旭人(あきと)氏(36歳)だ。東京大学を卒業後、証券会社を経て2003年入社。小柄な明さんとは似ず堂々とした体躯ではあるが、ちょっとタレ目で真面目そうな印象。「地味」を自認し、通販番組に出ることはない。
ジャパネットたかたの原点は、1986年に長崎・佐世保で開業した小さなカメラ店だ。ラジオの通販コーナーに出演したのをきっかけにテレビ通販事業にも参入すると、独特の語り口がウケて業績を伸ばした。いまや2000人以上の従業員を抱える大企業だ。旭人氏は、父の後を任されたプレッシャーをこう語る。
「父の場合は『やるぞ』と言ったら『みんなついて来い!』とやれる人。そこまでの求心力がある人は世の中にいないので、やり方を変えないと会社としては難しい」
完全に父の存在感に飲まれている様子だ。社員からも「明社長の魅力がジャパネットの魅力。ジャパネットらしくいけるかどうかが一番大きな不安」「今後の売上の動きがどうなるのか」など将来を危惧する声もある。
それでも新社長は、これまでにない戦略を展開しながら奮闘する。吟味する商品を増やすため、2012年に東京オフィスを設立。千葉に物流センターを作り、商品の当日配送を実現し、通販会社では初めて自社で商品の修理を行っている。
ネットは辛らつ「二代目は自社がエンタメ企業とわかっていない」
すでに結果が出たものもある。これまで父が取り扱ってこなかったガスコンロを紹介すると、たちまち注文が殺到したのだ。旭人氏は社内忘年会のあいさつで、
「変えていいのか、その都度迷った。でも決めた以上、迷ったらダメだと自分の信念を通しました」
とした上で、5年前に父が達成した最高売上高である1759億を上回る「1760億にしましょう」と目標を宣言していた。その声は力強かったが、上乗せ分は、たったの一億。これで士気が高まるのか心もとない。
これを見た視聴者は、ネットに「たくましく育ってるんじゃないですか。たいしたもんです」「なかなか簡単にはやられない感じ。ネット通販に立ち向かう、これからが見ものだね」と賛辞を贈る一方で、こんな辛辣な言葉もあった。
「ああ、結局数字だけ。つまらんスピーチ。初代社長の最後の誤りは息子を社長にしてしまったこと。やはりカリスマといえど親バカだったか…。優秀な社員は抜けてくだろう」
「ジャパネットたかたは、ものを売る会社ではなくエンタメ企業というのを、どうもこの二代目はわかっていないっぽいのは、ヤバさを感じざるを得ない」
前社長の最後の出演日には、女性社員が涙ぐむ姿も
1月15日、前社長・明氏の最後のテレビ出演の日には、多くの社員がスタジオに集まった。涙ぐみ祈るように手を組んで見守る女性社員の姿も見られ、明氏が多くの社員にとって特別な存在であることを印象付けた。
「父親とは真逆」と自ら語る2代目は、あえて同じやり方をしないことで組織を伸ばそうとしている。個人的には好印象を持ったが、ジャパネットらしい個性は、やや失われるのかもしれない。しかしトップが変われば組織も変わる。交代した以上、周囲がどう言おうと自分の道を貫くしかないのだろう。
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