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「消防士と合コンしますか?」仕事で手に入れた情報で女性に連絡、その法的問題とは?

2016年02月19日 11:52  弁護士ドットコム

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救急搬送者の家族の20代女性に「合コンしますか?」などとLINEなどで連絡したとして、兵庫県西宮市消防局は2月1日、消防士長の男性(44)を停職1カ月の懲戒処分にしたと発表した。


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報道によると、昨年8月、同市内の40代女性が救急搬送された。その際、消防士長は、救急車に同乗した女性の娘(20代)から、携帯電話の番号を聴取した。その番号を私用の携帯電話にも登録し、ショートメールやLINEで「私のことを覚えていますか」「学生さんですか?社会人ですか」「消防士と合コンしますか」など、何度も連絡したという。



その後、20代女性の知人が通報して発覚。消防士長は「不安を与えてしまい、軽率だった」と反省しているという。消防士長は既婚者だった。



最近も、福井市内のセブンイレブンの店員が、電子マネーを申し込んだ女性客にFacebookで交際を求める連絡をとっていたことが1月に発覚して話題になった。このように、仕事を通じて知った顧客などの連絡先を、プライベートな目的で使うことには、どのような問題があるのだろうか。野田隼人弁護士に聞いた。



●公務員が不正に利用した場合


「まず、公務員が個人情報を不正に利用した場合を考えていきましょう。たとえば、市役所の職員が芸能人の住民基本台帳(住民票)のデータを見て、ファンレターを送ったとします。



このような個人情報の利用は、当該機関が個人情報を保有する目的を超えていますから、国家公務員であれば『行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律』等、地方公務員であれば自治体ごとに定められている個人情報保護条例に違反します。



かつて、社会保険庁で年金記録をのぞき見た職員が減給になったケースがありました。また近年では芸能人の住所を調べた市職員が戒告になったケースが報道されています」



では、不正に利用した情報が『個人情報』にあたらない場合は、どうなるだろう。



「そもそも個人情報とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるものです(行政機関等保有個人情報保護法2条2項、個人情報保護法2条1項)。氏名・生年月日・住所等は、それ自体から特定個人が識別されることから個人情報であると考えられています。しかし、住所と対応する固定電話番号と違って、端末を受け渡しできる携帯電話番号は、個人情報にあたらないという考え方が、根強く主張されているのです。



この考え方を前提にすると、LINEで合コンに誘ったケースは、携帯電話番号からLINEの友達になったという携帯電話番号の利用があったとしても、個人情報の目的外利用にはあたらないということになります。



ただし、公務員については、守るべきルールがいろいろと定められています。今回報道されている西宮市の場合、西宮市消防職員服務規程というものが定められており、その9条には『職員は、個人情報を取扱っていることを自覚し、正当な理由なく職務上知り得た個人情報等を漏らしてはならない』とあります。『個人情報』ではないのです。『個人情報等』と『等』がついていますよね。



つまり、携帯電話番号は、この条文の対象となりそうです。あえて『等』の1文字を入れたところが興味深いですね。また、西宮市の消防職員に限らず公務員は信用を失わせるような行為(信用失墜行為)が禁じられていますから、少なくともこれにあたるという問題はあることになるでしょう」



●民間企業の従業員が不正に利用した場合


公務員でない場合はどうだろうか。



「民間企業等の場合も、法的な意味の個人情報の線引きは基本的に同じです。そして、個人情報にあたる情報を、取得の目的外に利用すれば、個人情報保護法に反すること可能性があります。場合によっては、事業者が違反行為に関する是正のために必要な措置をとるように勧告されるといったことになります。当然、従業員も相応の処分を受けることになるでしょう。



そしてその対象が携帯電話の番号であっても、企業が独自に定める『プライバシーポリシー』や『個人情報保護方針』の中で、保護の対象としている場合が多いでしょう。今回問題となったコンビニエンスストアでは、そのプライバシーポリシーの中で『お名前、電子メールアドレス、電話番号、住所等個人を特定できる情報』を『個人情報』としており、固定電話番号と携帯電話番号を区別していません。つまり、従業員は企業秩序に反する行為をしたこととなり、相応の処分を受けることになったのでしょう。



話をまとめると、私的利用された情報が個人情報であれば、個人情報を保護する各種の法令等に反することになり、また職務上の義務に違反したことになりますし、もし個人情報にあたらないとしても、結局は職務上の義務に違反したとして責任を負うことになるのです」



野田弁護士はこのように話していた。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
野田 隼人(のだ・はやと)弁護士
滋賀弁護士会所属。IT企業経営者兼弁護士。日弁連・刑事法制委員会委員、同・独占禁止法改正問題WG委員、同・中小企業法律支援センター委員、同・中小企業の海外展開業務の法的支援に関するWG委員。京都大学法科大学院・京都産業大学法科大学院非常勤講師。
事務所名:高島法律事務所
事務所URL:http://www.locolo.jp/