トップへ

『X-ミッション』はただのリメイクではない 命懸けで実行したリアルアクションの衝撃

2016年02月18日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2015 Warner Bros. Ent. (c)Alcon Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

 謎の連続強盗団に潜入捜査した若きFBI捜査官と、犯人との間に生まれた奇妙な友情を描いた91年の名作『ハートブルー』がバージョンアップされて蘇った。監督はこれまで『ワイルド・スピード』(01)等の撮影監督を務めてきたエリクソン・コア。これまでカーアクションや激しいアクション・スタント中心の作品に携わってきた人物が、ありきたりのドラマを演出する筈が無く、本作では自身が撮影監督も兼ねた事で予想をはるかに超えた生のアクションが満載の作品に仕上がった。


参考:ジャン・ケン・ジョニー「緊張ト興奮ガ止マラナイ」『X-ミッション』WEB限定CM公開


 モトクロスバイクのトップ・アスリートだったジョニー・ユタ(ルーク・ブレイシー)は、自分の無茶なスタントが引き起こした友人の死をきっかけにFBI捜査官への転身を計る。そんなジョニーの前に現れたのが、世界各地の米国企業ばかりを襲い荒唐無稽な方法で現金を強奪し、貧民地区に現金をばらまく謎のアスリート集団。彼らの犯行パターンから、エクストリーム・スポーツ・チームのカリスマ、ボーディ(エドガー・ラミレス)のチームに覆面捜査官として潜入し、彼らの犯罪を暴くというミッションに志願する……。


 オリジナル版の『ハートブルー』はまだ初々しいキアヌ・リーヴス演じるFBI捜査官ジョニー・ユタと、今は亡きパトリック・スウェイジ扮する天才サーファーにして強盗団のリーダー、ボーディとの友情、人間としての成長、そして裏切りを見事に描いた作品だった。監督はのちに『ハート・ロッカー』(08)で史上初の女性監督によるアカデミー監督賞を獲得することになるキャスリン・ビグロー。製作当時はジェームズ・キャメロン夫人でもあった事でも知られている。人物の描き方には女流監督らしい繊細さを感じさせる一方、荒々しく激しいアクションが共存するという絶妙なバランス感覚の持ち主で、『ハートブルー』は今もカルト的な人気を博している。


 そんな『ハートブルー』を、ガンカタ・アクションで知られる『リベリオン』(02)の監督・脚本や『ソルト』(10)の脚本を手掛けたカート・ウィマーが新たな要素を加えて脚本を練り上げた。オリジナルで登場したのはサーフィンだけであったが、本作ではサーフィンだけに留まらず、エクストリーム・スポーツのエキスパート集団という設定を加えて、モトクロスやスノーボード、そしてロッククライミング、そしてウイングスーツ・フライングといったその道のプロフェッショナルにしか再現出来ない要素を加え、単なるリメイクとは一線を画した作品にブラッシュアップした。そして彼らの犯行パターンの鍵となる“オザキ8(エイト)”と呼ばれる一流アスリートが求める“大義の達成”がストーリーの軸になっているのが特徴だ(ちなみにこの“オザキ8”はあくまでも本作のために作られた架空の大義だ)。


 “オザキ8”をフィルムに収めるため、本作では実際に活躍しているプロのアスリートたちに全面協力を仰ぎ、既存のスタントマン以上のリアルなアクションをカメラに収めるという大胆な手法をとっている。これが本作の魅力であり、最大の見せ場にもなっている。グリーン・スクリーンで俳優だけ撮影して、あとから背景を合成したり、俳優そのものを全てCGで処理する事が当たり前になり、ロケーションで本物の映像を撮影するという単純な事が特別な事になってしまったハリウッドには憤りを感じる。本作でアスリートたちがカメラマンと共に挑んでいく数々のスタントから伝わってくる本物の迫力には到底敵うはずがない。一歩間違えば死に繋がりそうな危険極まりないアクションを、その道のエキスパートたちが“演じる”事によって、観客にもエクストリーム・スポーツの数々を追体験させようという製作者の意図は十分すぎるほどで、それらはロバート・ゼメキス監督が『ザ・ウォーク』(15)で3Dを使ってワールド・トレード・センターの綱渡りを観客に疑似体験させた以上の効果を産み出すことに成功している。


 犯罪映画でありながら、サーフィンに命をかけた若者たちの青春映画としての側面を持っていたオリジナル版『ハートブルー』。オリジナル版のファンからしてみれば“何かが違う”という疑念を抱くのはどんなリメイク作品にも課せられた業のようなものなのだが、本作に関してはひとまずその疑念を取り払い、違った角度で観ることをお勧めする。本格的に3Dを駆使したカメラワークと、オリジナル版以上にハードで衝撃的な展開も後半には待ち構えている。パトリック・スウェイジやキアヌ・リーヴスに比べれば、エドガー・ラミレスとルーク・ブレイシーという日本ではほぼ無名に近いキャスト陣が不利であることは否めないが、そこを逆手にとって本物のアスリート達によるアクションやストーリーを追うことに集中するのも一考だろう。(鶴巻忠弘)