待機児童問題の解消を目指し、国は2017年度末までに50万人分を受け入れる保育所を増やそうとしています。新たに必要となる保育士は9万人。しかし保育士の労働環境が改善されない限り、十分な補充が果たせるとは限りません。
保育士不足によって、いま懸念されているのが「保育の質」の低下。2月17日放送の「あさイチ」(NHK総合)は「大丈夫?保育の質」をテーマに、保育の現場が現在置かれている状況について考えていました。(文:篠原みつき)
「体調は崩す、メンタル的に来る。子どもに優しくなれない」
東京・北区で28歳の保育士が、園児を暴行した疑いで逮捕されました。栃木県では去年、高熱の女の子を放置して熱中症で死亡させたとして、元施設長ら3人が逮捕。この園では寝かしつけの際、乳児をひもで縛ることが日常的に行われていたようです。
無理な寝かしつけが原因で、娘を亡くした夫婦もいました。ジャーナリストの猪熊弘子さんによると、年間20人弱の子どもが保育施設で亡くなっているとか。背景には働く人たちの過酷な労働環境があります。資格取得19年の現役保育士Aさんはこう証言します。
「ギリギリの配置人数でやっているので、体調は崩す、メンタル的に来る。その結果、子どもに対して優しくなれない。過酷ですね」
これでは若い保育士が育たず、園も研修の時間を取らないので「ただ子どもを集めて高い保育料いただいて、ケガなく済ませればいいという感じ」。そうAさんは憤っています。
番組に寄せられた保育士からの意見からも、辛い状況でなんとか仕事をこなす姿が伺えます。「授乳は手で与えず、哺乳瓶にタオルを巻いて与えています(50代)」という人は、事故の不安はあっても仕事が回らないので仕方がないといいます。
イノッチ「日本は少子化問題に本気で取り組もうとしてるの?」
ある保育士は1歳児12人を2人で担当しており、給食の用意などで1人が抜ければ、12人を1人で見る状況。連絡帳の記載や掃除などに追われ、有休も取れず、サービス残業や持ち帰りの仕事も多い。「現状を知った上での議論を」と釘を指します。さらに、こんな痛切な訴えもありました。
「本当に現場は過酷です。虐待を認めるわけではありませんが、質、質、質と言われても、本当にゆとりがありません。低賃金すぎるんです。子どもを預かる仕事をするがゆえに、私たち保育士は稼ぎが少なく、子どもや家庭を持てないんです。本当に分かって下さい」
全職種の平均賃金が月30万円なのに対し、保育士は約21万円。平均勤務年数は7.6年で、毎年4.6万人が保育士になる一方、3.2万人が離職するというデータもあります。保育の質を確保するために努力する保育所が紹介されましたが、パートを増やして保育士の給料を削る厳しい状況もありました。
こうした現状をみて、イノッチこと司会の井ノ原快彦さんは「日本は本当に少子化問題に本気で取り組もうとしてるのかなって」と首をひねります。
「保育士は専門性の高い職業と評価されていない」と識者
乳幼児教育学が専門の大豆生田啓友教授(玉川大学)は、イノッチの指摘に「それは現場の人たちみんなが感じている事」と応じ、消費税増税で賄おうとしているがまだ十分でないことや、保育園数を増やし人員を配置することで精いっぱいになっている現状を説明した上で、次のように訴えました。
「保育士は専門性の高い職業なんです。子どもを預かってるだけのように思われるけれども、生活習慣や小学校で学んでいく力、親たちの保護者支援も含めて、ものすごい仕事。だけどそのことが社会では十分に評価されていません」
ゲストの小島慶子さんは、息子さんが保育士に非常にお世話になったという思いから、これにとても共感した様子。さらに「こういう話題では『子どもを預けるなんて駄目』っていう話になるでしょ」とした上で、こう力説します。
「子ども預けて働かないと、子どもを大学に出せない人の方が多いんです。さぼるために預けるんじゃなくて、ひとり親も多いし、預けないと生きていけないんです!」
国が「女性が輝く」「一億総活躍社会」を掲げる以上、保育士の待遇を上げることは急務。そして私たち自身が子どもの有無にかかわらず、将来の社会の担い手にお金をかける意識が大切で、それが保育の仕事を尊重することにもつながると感じます。
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