2016年02月17日 11:32 弁護士ドットコム
「心の病」をわずらったとき、一番つらいのは患者本人ですが、患者さんを支える家族にとっても、影響は少なくありません。うつ病の妻をもつ男性が、苦しい胸のうちを弁護士ドットコムの法律相談によせました。
「結婚して1年。妻との結婚生活に将来がみえなくなりました」という男性。妻は、睡眠障害のために朝は起きられず、夜9時すぎに男性が帰宅しても寝ている状態だといいます。また妻は「週末、少なくとも2週間に1度は一日中寝ている」状態で、「人の悪口ばかりいう。汚い言葉を使う」こともあるようです。そして、結婚後はセックスレスに。
妻のうつ病は結婚前から知っていたことだといい、男性も覚悟はあったそうです。しかし、病状が悪化していく妻との「結婚生活を続けることに意味を感じなくなってしまい、私から離婚を切り出しました」。しかし、妻は離婚を拒否しているそうです。
妻のうつ病を理由に、離婚できるのでしょうか? 金子 宰慶弁護士に詳細な解説をしていただきました。
A. 精神病は離婚理由になりうるが、ハードルはとても高い。
配偶者がうつ病になれば、夫婦の関係にストレスが生じることは充分に考えられます。しかし、妻のうつ病がどれほど重篤かにもよりますが、少なくとも、「育児や家事が辛い」といった理由で、妻を「見捨てる」ような形での離婚は認められません。
法律(民法770条)には、「強度の精神病にかかり、回復の見込みがない場合は離婚できる」とした規定があります。しかし、この規定が適用できるかどうかは、精神病の程度によって大きく左右されます。
この規定に基づいて離婚が認められるのは、「夫婦として生活していくことが難しいほど、強度の精神病である」、「治療を続けても、回復する見込みがない」、「治療が長期間にわたっている」など、かなり重篤な精神病です。対象となるのは、統合失調症や双極性障害、認知症などに限られていて、アルコール・薬物などの依存症やノイローゼは、原則として対象外です。
裁判で離婚を認めてもらうためには、医師の診断書を提出し、本当に「回復の見込みがない」ことを証明しなければなりません。また、配偶者がこれまで、病気の回復のために誠実に看病してきたかどうかも判断材料です。
判例では、精神病をわずらっている配偶者の「離婚後の生活費」や、「病院などの受け入れ先」について、具体的な対策を立てることも求めています。精神病を理由に、裁判で離婚が認められるハードルはとても高いです。
裁判所は、精神病をわずらっている配偶者にかなり配慮した判決を下しています。例えば、妻のうつ病から離婚訴訟にまでなったケースです(名古屋高裁・2008年4月)。
妻は、義母との折り合いが悪いことからうつ病と診断され、3年3ヵ月にわたる別居後、夫は離婚訴訟を起こします。一審では離婚が認められましたが、高裁判決は、「妻に婚姻関係を修復したいという明確な意思がある」ことなどとを理由に、離婚を認めませんでした。
精神病の妻の代わりに、夫が働きながら育児や家事をこなすことはとても大変でしょう。最悪の場合、妻のうつ症状が夫に伝染し、共倒れになる危険もあります。
まずは夫自身のストレスと負担を減らすために、医師に相談したり、自分や妻の実家や支援団体にサポートしてもらうなど、病気を自分たち夫婦だけで背負い込まないことが大切です。
【取材協力弁護士】
金子 宰慶(かねこ・ただちか)弁護士
1995年弁護士登録(千葉県弁護士会)。得意案件は離婚を含む家事関係、交通事故、刑事事件など。千葉大学法科大学院非常勤講師、千葉市精神医療審査委員、社会福祉法人評議員、監事等の職務についたことがある。最近の興味関心は、日本中世史。
事務所名:法律事務所大地
事務所URL:http://www.lo-daichi.com/