2016年02月15日 14:11 弁護士ドットコム
サイバーエージェントの藤田晋社長が2月上旬、日本経済新聞電子版の連載コラムで「執行役員という曖昧な制度」と題した記事を公開した。「今に始まった話ではないですが、日本の会社における『執行役員』という肩書きの使われ方は、実態として曖昧なものになってきていると感じています」と指摘したのだ。
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「当社の場合、必ずしも、執行役員全員が、その名にふさわしい役割や責任を担っているわけではないのです」とも明かす。しかし、「組織というのは、時には曖昧さも必要」として、藤田社長は「執行役員制度が曖昧だと認めつつ、『上手く使えばいい』と割りきっているというのが正直なところです」と結論を示した。
このコラムを読んだ、執行役員のいる企業に勤める人も「うちの会社にも、複数の執行役員がいるけど、『ただの偉い社員』という感じで、どういう位置づけなのかわからない」と話していた。
「執行役員」が存在する企業は少なくないが、法律上はどのように定められているのだろうか。藤田社長が指摘するように「曖昧な制度」であるならば、なんらかの改革が必要なのだろうか。企業法務にくわしい神内伸浩弁護士に聞いた。
「よくある誤解が、『執行役員』を『執行役』と混同してしまうことです。『執行役員』と『執行役』は、一文字しか違いませんが全く異なります。
執行役員制度は、1997年にソニーが日本企業ではじめて導入した制度です。その趣旨は『経営と執行の分離』にあります。
すなわち、経営の戦略的な意思決定機能と業務執行者の監督機能を『取締役』に集中させ、日常的な業務執行については『執行役員』に委ねることで、本来の取締役会の機能(意思決定と監督)を取り戻そうとしたことが、執行役員制度の導入の狙いと言われています」
法的には、どのような位置づけにあるのだろうか?
「『執行役員制度』について、会社法は何の規定も置いていません。そのため、各企業が独自の解釈で運用することも、不可能ではありません。導入するために特別な審査等が必要なわけでもなく、定款変更や株主総会決議が法律上必須ということでもありません。取締役会決議だけで導入することも可能です。
また、前述したように『執行役員』は法律上の制度(会社法では『機関』といいます)ではないので、あくまでも従業員にすぎません。『執行役員』とはいっても、要は社内呼称に過ぎないわけです」
混同されがちな「執行役員」と「執行役」はどう違うのか。
「『執行役』は、れっきとした会社法上の『機関』(会社法402条)であり、従業員ではありません。『経営と執行の分離』という制度導入の背景や、『執行役』が担う役回りは『執行役員』と似ている部分もありますが、会社法上の『機関』か否かという点が大きく異なります。
要するに、『執行役』と異なり、『執行役員』はあくまでも従業員に過ぎず、誰を『執行役員』と呼ぶかも会社の自由、というわけです。このあたりが『執行役員=あいまいな制度』と言われるゆえんではないかと思います。
もっとも、あいまいだから悪いということにはならないでしょう。むしろ、上手く利用すべきです。『ただの偉い社員』が肩書として必要な場合もあるでしょうし、事情は企業によって様々だと思いますので、上手に活用できるかどうかはそれこそ、経営者しだいなのではないでしょうか」
神内弁護士はこのように指摘していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
神内 伸浩(かみうち・のぶひろ)弁護士
事業会社の人事部勤務を8年間弱経て、2007年弁護士登録。社会保険労務士の実績も併せ持つ。2014年7月神内法律事務所開設。第一東京弁護士会労働法制員会委員。著書として、『課長は労働法をこう使え! ―――問題部下を管理し、理不尽な上司から身を守る 60の事例と対応法』(ダイヤモンド社 単著)、『管理職トラブル対策の実務と法【労働専門弁護士が教示する実践ノウハウ】』(民事法研究会 共著)、『65歳雇用時代の中・高年齢層処遇の実務』(労務行政研究所 共著)ほか多数。
事務所名:神内法律事務所
事務所URL:http://kamiuchi-law.com/